第2話 異能の発現、光を目指して
《???視点》
───逃げなきゃ。
頭では、逃げなきゃいけないってわかってる。
でも、わたしの体はいうことを聞かず、その場にへたり込んでしまった。
膝を立てて抱え込む。まるで恐怖から身を守るように。
(どうか気づかれませんように……!)
「おい、15番はどうした」
わたしが寄りかかっている岩の向こう側から、声が聞こえた。
(すぐそこまできてる!?)
「いえ……それが通路の奥の部屋に監禁していたのですが、どうやってか脱走したようで……」
「ッ!だからあれほど注意しておけと言ったものを!やつはただの異・能・持・ち・じゃないぞ!!」
「ですが、異能を使うことがないよう、捕らえた供物には封印魔術を施していたのでは……?」
「やつの異能は特別だ。だから何重にも封印魔術を掛けたし、鎖にも繋いで身動きできなくしろと命じたんだ!」
「ッ!申し訳ありません!では、あちらの通路を……」
……あの人たちの声が遠のいていく。
15番という異能持ちさんのことを探しに行ったんだろうか。
「ふぅ」
わたしは息を吐いて体の力を抜いた。
今は少しだけ休みたい。
これは夢なんかじゃない。
冷たくてゴツゴツした岩肌も、松明の少し焼けるような臭いも、あの仮面の人たちも、すべてが現実味がありすぎる。
でも、わたしは目覚めるまでの記憶がない。そこは現実味がないんだけど。
それにしても、異能持ち…ってなんだろう。なにか特別な力のことなんだろうけど、全く覚えてないや。
でも、大人がこれだけ警戒してるわけだし、力になってくれたら頼もしい存在のはず。
よし!その子を探して、みんなと脱出するために力になってくれないか頼んでみよう。
……でも、どうやって探せば?
あいつらがいるんじゃ探そうにも身動きとれないし。
それに、もう脱出してるかもしれない。
(わたしにも異能があればなぁ)
ふとそんなことを思う。いやもしかしたら、
(記憶にないだけで、異能を持っているかもしれない……?)
そうだ。きっとそうだ!
目が覚めるまでのことは憶えてないけど、なんでかここにいるくらいだし。なにか変な力を持っていても不思議ではない。
モノは試しだ。
わたしは目を閉じて、胸に手を当てて集中する。
集中してみてわかったけど、なんだかわたしの中に不思議な熱みたいなものがあるみたいだ。
それが、まわりから力を加えられて、押し潰されそうになっている気がする。
これが仮面の人たちが言ってた「封印魔術」っていうものかな…?
この押し潰されるような力をどうにかすれば、異能かそれに似た力を使えるようになるのでは!
「ぐぐぐぅ……!」
歯を食いしばって、上から覆いかぶさるような力を、剥がすように想像する。
あ、1番上の1枚ならなんとか剥がすことができそう!
「そりゃ!」
わたしは自分の中の熱が拡がるように手を広げた。
「………ぉお」
体の中の熱が、全身を駆けめぐっている。これが異能を使うということなんだろうか。
それだけじゃない。集中すると岩の向こう側や通路の奥、暗闇で見えないけどさっきまでいたところなんかに、光のような塊が見えた。
これは……もしかして人?
それに、通路の奥に一際明るくて優しい色の光が見えた。
その光の周りにくすんだ暗い光がポツポツと取り囲んでいる。
なんだか嫌な予感がする。もしかしたらさっき言ってた15番さんが危ないかもしれない!
怖い、死ぬのがすごく怖い。でも、わたしの記憶を戻すためにもここから出なきゃダメだろうし、それになにより、みんなを助けたい。
この異能があれば、仮面の人たちに見つからずに、あの優しい光のところまで行けるはずだ。
「よし、行こう!」
わたしは立ち上がり、岩から離れた。助かったよ、ありがとう岩さん。
不安はいっぱいあるけど、それでもわたしにできることをやろう。
わたしは静かに駆け出した。
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