記憶を落とした無防備天使と未来が視えるボクっ娘悪魔、序列2位の女騎士に拾われる。

ふふぐ

第1章

第1話 先は暗く、光は遠く

《リューカ視点》


 ここ1ヶ月、この国の子供たちが相次いで失踪している。

 

 それもただの子供ではない。


 失踪した子供たちには『異能持ち』という特徴があった。


 異能とは、出生時、もしくは、大人になる前に発現する特殊な能力である。

 

 ただ鍛えただけとは説明がつかない身体能力や、魔法では再現できない特殊能力の他に、類稀な魔法の適性を発揮したりすることもある。

 割合で言うと1000人に1人の確率で発現するようだ。


 その特異な能力のせいで捨て子や孤児になる場合や、奴隷として売買される事例も少なからず存在している。


 ただ、今回の失踪事件の原因は他にあった。


 情報によると、どうやらこの国を騒がせている通称『悪の教団』が子供を攫っているらしい。


 そこで、アーレンバレス王直轄騎士団『銀翼の騎士団』序列2位の私、リューカ・シェーヴァル・フェリスが先導を切り作戦実行に動いた。


 教団が何を目的に異能持ちの子供たちを攫っているのかはわからないが、警戒するに越したことはない。

 

「では、作戦を開始する。各自持ち場につき、指示があるまで待機せよ」


「はっ。リュカ副団長、お気をつけて」


「私を愛称で呼ぶ騎士はお前くらいだよ、キオリ。言われるまでもない。ここを頼むぞ」

 

 キオリの少し低い声を聞き、相変わらず良い声だなと場違いなことを思う。

 私もこの大規模な作戦に緊張しているのかもしれない。


 夜の帳が降りたこの森の中、目を強く閉じ、気持ちを入れなおす。部下がいる手前、失態などもってのほかだ。


 私と部下6名の小隊は、吸い込まれるような深い闇が広がる森を進んだ。



◇◇◇



《???》



 冷たくてゴツゴツした地面。


 光がみえないまっくらやみ。


 何かが腐ったような嫌な匂い。


 わたしが目覚めて思ったことだ。


「……なんだろう、ここ」


 ひとりでこんなところ来たことないと思うし、迷子になっちゃった?それとも誰かに連れ去られたとか?


 あれ?わたしってだれだっけ?


「ぐぎゅるうぅ」


 何かの鳴き声がした。あ、わたしのおなかの音か。


「……おなかすいたなぁ」


 思い出せないことはさておき、わたしは食べものを探すことにした。


 歩くこと数分後。

 

 わたしがいたところは細い通路のようなところだ。その通路のくぼみに寝ていたみたいだ。

 壁に松明がかけられていて、細々とした明かりが見える。その光を頼りに歩いていると、広い場所に出た。空が見えないから、たぶん、洞窟の中なんだろう。

 

 そこには、わたしと同じような人たちがいた。


 みんなわたしと同じくらいの歳のこどもだ。でも、みんなわたしよりも痩せていて、おなかもすごく空いてるみたい。

 わたしなにも知らないし、何か聞けるといいけど。


「ねえねえ、あなたたち、いつからここにいるの」


「……」


「なにか食べたりしていないの」


「………ぁ」


「なに?」


「……やつらがくる……」


「?やつらってなに」

 

「また殺すんだ」

 

 耳を澄ますと、たしかに何人かの足音がこちらに向かってきているのがわかる。

 

 殺す?殺すって、なに。


 なんだか夢を見てるみたい。


「っ!き、きた、きやがった」


 男の子の視線の先をおいかける。

 

 そこには、松明を持った、赤黒い液体を滴らせたローブのようなものを纏い、右目だけ穴が空いてる仮面を身につけた人たちがいた。

 

「……は、……のために…」

 

「……の贄は、我ら……の糧である…」

 

 小さく、囁くような声なので少し聞き取りにくい。


 近くにあった岩陰に隠れてやり過ごすことにした。暗いので、向こうからは見えていなかったはずだ。


「13番、14番。ここにこい。今日はお前たちが×××様の供物となる日だ」


 供物……?それに聞き取れなかった言葉はなんだろう。

 様子を見ていると、さっきの男の子とわたしよりも少し大きい女の子が出てきた。なんだか2人とも意識がぼーっとしているみたいだ。

 

「よし。それでは、これより×××様への供物となるおまえたちに、褒美を賜る。感謝の言葉と祈りを捧げよ」


「「……はい。私どもの血肉全てを捧げ、×××様の再臨の糧となること、今生の感謝と歓喜を示します。」」

 

 ふたりが言い終えた瞬間、服だけを残して灰になってしまった。まるで、初めからそうであったかのように。

 

 え?


 ど、どういうこと?


 夢だよね、これ……。

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