六章 それぞれの結末 その3

 離れてみてわかったのだが、アーサー達のいる方角と距離は、俺達にはなんとなくわかるようになっていた。テレーズの魔法の効果だろうか。それとも、同じ一人の人間の魂と肉体は引かれあうってことだろうか。まあ、どっちでもよかったが。とりあえず、二人を見失うことはなさそうで安心だ。


 また、紅葉は「どこかで適当に時間をつぶそう」と言ったわりには妙に確かな足取りで歩いていた。まるでどこかを目指しているような? 時に人ごみの山を飛び越え、時に人の流れをすり抜けつつ、紅葉の後を行きながら、「何か、この先にあるのか?」と聞いてみたが、「べ、別に」と答えが返ってくるだけだった。なんだかちょっと恥ずかしそうな言い方だった。


 やがて、紅葉が目指していたらしい場所についた。そこは小さな野外劇場だった。何かのキャラクターショーが予定されているようで、すでにたくさんの客が席についている。特に、五歳ぐらいの子供がやたら多い。


「ちょ、ちょうど何かのショーをやるみたいね。せっかくだから見ましょ。せっかくだから」


 いかにも無関心を装ってる風に言うと、紅葉はステージのすぐ前の通路の段差に腰を落とした。最前列とは見る気満々じゃねえか……。俺もとりあえず、その隣に腰かけた。


 ショーはすぐに始まった。着ぐるみのクマのキャラとその愉快な仲間達による歌って寸劇して歌って寸劇しての、ちびっ子向けミュージカルだった。主役らしいクマはカルロという名前で、造形こそかわいらしくデフォルメされていたが、なぜかけばけばしい緑と黄緑のツートンカラーだった。しかも、その色の境目には、手術跡のような縫い目があった。かわいいような、不気味なような、なんとも奇妙なデザインだ。だが、周りの子供達には人気のようで、みな笑顔でショーを楽しんでいる――いや、楽しんでるのは小さい子供ばかりではなかったが。


「まーめくま、カルロ~、がーんばれ、カルロ~」


 紅葉は周りの子供達と同じ歌を歌っている。目をキラキラ輝かせて、リズムに合わせて体を横に振りながら。ステージではちょうどカルロ君が悪いやつらと戦っているところだった。そして、お客のみんなが歌ってカルロを応援しているというわけだった。


「なあ、お前なんでこんな歌知ってるの?」


 思わず耳打ちして尋ねずにはいられない。どう見ても、推奨年齢小学生未満のショーだし。


「な、何って……子供のころ見てたからに決まってるでしょ。たまたま来たら、こんなのやってるなんてなつかしいじゃない」

「たまたま?」


 いや、お前ここまで迷いなくまっすぐ来ただろ。明らかに事前にこのショーがあること知ってただろ。


「あのカルロってのはお前の好きなキャラなの?」

「そ、そうよ。子供の頃の話だけどね」

「今はそんなに好きじゃないのか?」

「当たり前でしょ。もう高校生なのよ」

「あ、カルロやられた」

「え、うそ! なんで!」


 紅葉はぎょっとして、あわててステージのほうを見た。そして、カルロがやられたどころか、悪いやつらをやっつけたところなのを見ると、むっとした顔で俺に振り返った。俺は笑った。


「なんで嘘教えるのよ!」

「そりゃお前だろ。お前、今でもメチャクチャあのクマが好きなんじゃねえか」

「う、うるさいわね! どうでもいいでしょ!」


 紅葉はとたんに顔を赤くした。ほんと、すぐ赤面するよな、コイツ。

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