六章 それぞれの結末 その2
話はすぐにまとまった。俺達はそれから数日後の日曜日にデートすることになった。霊がらみなので、アンネにも来てもらうことにした。
また、テレーズが着る服は俺の姉のものを使うことになった。紅葉のものだとサイズが合わないからだ。今まではそれでよかったが、今回は一日出ずっぱりでデートするんだから、ちゃんとしたものを着ないとな。とりあえず、色々めんどくさいので、姉には黙って、こっそり借りることにした。後で返せば問題ないだろう。
やがて、デート当日になった。俺達は待ち合わせ場所にしていた例の公園に集まった。俺は俺自身のちょっとオサレめの服を着て、紅葉は事前に渡しておいた、俺の姉の服を着ていた。薄いピンクの花柄のワンピースとショールのセットだ。サイズはあってない。当然だ。俺の姉はテレーズと同じくらいスタイルがいいのだ。貧乳幼児体型の紅葉とは違って。
「胸の周りの布がやけに余ってるなあ?」
「うるさいわね! どうでもいいでしょ!」
紅葉は顔を赤くして、よれよれの胸元を手で隠した。今日は眼帯はちゃんとつけていた。
俺達三人はそのまま駅に行き、電車に乗って遊園地に向かった。そして、遊園地のゲートのすぐ近くまで来たところで、いったん人目のないところに行き、俺は左腕の包帯を取ってアーサーに、紅葉は眼帯を外してテレーズに入れ替わった。
「アーサー様、またお会いできて光栄ですわ」
テレーズはこちらを見て、微笑んだ。ワンピースのサイズはぴったりで、とてもよく似合っていた。
「いや、その……ほ、本日はお日柄もよく!」
アーサーはやはり緊張しているようだ。急にお見合いみたいなことを口走った。まあ、実際今日は雲ひとつないいい天気だけどな。「そうですね。晴れてよかったですわ」テレーズはにこやかに答えた。休日で、かつリニューアルしたばかりということもあって、客はたくさんいて、周りはすごくにぎわっていた。親子連れやカップルが多かった。
「あたしはあっちにあるショッピングモールで時間をつぶしてます。何かあったら電話してくださいね」
アンネはそう言い残すと、去って行った。ポンコツ霊媒師とはいえ、さすがに空気は読めるようだ。
その後、アーサーとテレーズは俺と紅葉の導きのままに、チケットと一日遊具乗り放題のフリーパスを買って、遊園地に入場した。割引クーポンを使っても、結構な出費になったが、まあこれぐらいはしょうがない。金は親父に小遣いを前借りして用意した。紅葉もバイト代を少し早めにもらってお金を用意したということだった。
さて、金も払ったし、あとはこいつらのデートを見守ってるだけか。さすがに暇だな……。
だが、そう思った直後、変化が起きたようだった。俺は何だか知らないが、魂だけの存在になって、体から抜け出してしまったようなのだ。
「あ、あれ?」
気がつくと、すぐ下にアーサーとテレーズの姿が見える。半透明の俺は彼らの頭の上をぷかぷか浮いているようだ。
「これはもしや……幽体離脱ってやつか?」
「そうよ。私がテレーズに頼んで魔法でこうしてもらったの」
と、紅葉の声がした。振り返ると、すぐそばに半透明の紅葉が浮いてた。なせかパジャマ姿で。
「なんでお前そんな恰好なんだよ」
「あんただって似たようなもんでしょ」
見ると、俺もなぜか体操服を着ていた。しかも中学生の時のものだ。胸に大きく「立川」と書かれたゼッケンをつけている。なぜだ。
「魂だけ体から抜けだしたんだから、服は適当に選ばれたんでしょ」
「いや、適当すぎるだろ……」
一応、俺今日は、オサレな服着てたはずなのにさ。紅葉にしたって、もうちょっと露出の高い服でもいいんじゃないかな。
「だいたい、なんで幽体離脱の魔法なんて頼んだんだよ」
「そりゃ、せっかくだし、二人っきりにさせてあげたいじゃない」
紅葉は二人を指差しながら言った。よく見ると、なんといつの間にやら手をつないでるではないか。お邪魔虫の俺達の意識が外に追い出されたとたん、これかよ。完全にカップルだ。
「あいつら、俺達の体で勝手に何を……」
「別にいいでしょ、あれぐらい」
「いやだって、俺はまだあんなことしたことな――」
いわけでもない? そういや、あの雨の日、紅葉に手をぎゅっと握られたな。あれは女子と手をつないだことにカウントしていいのか? いいのか?
「ま、まあ、そうだな。あれぐらいは大目に見てやらんこともないな! だが、これ以上、変なことをされても困るし、俺達は俺達であいつらをこっそり監視しておかないとな」
「そうね。邪魔しちゃ悪いし、二人に気づかれないようにね」
俺達は魂状態のまま少し離れたところから二人を尾行した。他の人間には俺達は見えてないようだったが、さすがにアーサー達には俺達の気配はわかるだろう。慎重に動いた。
だが、いきなりアーサー達は超人気絶叫マシンの列に並び始めた。係員の持っているプラカードによると待ち時間四十分ですと。アホか。ただ待っているのをただ監視してるだけとか暇すぎるだろうがよ……。
「この絶叫マシン、リニューアルの目玉なのよ。他にも三つ新しい絶叫マシンがあって、全部乗ったら『絶叫王』の称号と記念のメダルがもらえるんだって」
紅葉が言う。事前にこの遊園地のことを少し調べておいたのだろうか。
「絶叫王……あいつらもしかしてそれを目指して?」
「さあ? 単に人がいっぱい並んでるから、面白そうだって思ったんじゃないの?」
「つか、その絶叫王の称号とメダルには何か意味があるのか」
「特にないみたいよ」
「お、おう……」
こんだけ長時間並んでなんもないのかよ。行列王の間違いじゃないか。まあ、他の絶叫マシンは空いてるのかもしれないけど。
「あいつら、せっかくの初デートなのに、こんなんで時間つぶしていいのか。違うところ行けばいいのに……」
「バカね。こういうのもデートの楽しみだったりするのよ。よく見なさいよ」
紅葉は二人を指差す。見ると、なんだかとても楽しげに会話しているようだ。アーサーもだいぶ緊張がほぐれて来たって感じだ。当然、テレーズとは手をつないだままで、ラブラブオーラが二人の体からあふれてる。
「……なあ、あいつらもう放置でよくね」
なんか監視してるのがバカバカしくなってきた。どうせ絶叫マシン梯子するだけだろうし、俺達の体で変な真似はしないだろう。
「そうね。私達は私達で、どこかで適当に時間をつぶしましょ」
俺達はその場を離れた。
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