四章 それぞれの仮面、それぞれの本音 その3
「え、何? 聞こえないんですけど?」
俺は耳に片手を当て、ずいずいっと紅葉に近づいた。
「だ、だから、今言ったでしょ!」
「声ちっちゃくて、聞こえなかったしぃ。もう一回お願いしまーす」
「……フェ、フェラ、チ――やっぱダメ!」
紅葉は真っ赤になって、俺を突き飛ばした。うわっ!
「こ、今度はちゃんと聞こえたでしょ、バカ!」
「まあ、お前の言わんとすることはわかったけどさ。ただ、俺言ったよね、三つお願いしますって。なんで一個だけなのかな? かな?」
「そんな言葉三つもあるわけないでしょ!」
「ありまぁーす。フェラチオ、イラマチオ、ボルチオ、これがエロ用語チオ三兄弟でーす」
「な、なにそれ……?」
「嘘だと思うならぐぐれや。ここにある文明の利器でさ」
俺はスマフォを紅葉に差しだした――が、「なんかあんたの使ってるスマフォとかキモイ」と言って、紅葉はそれを拒絶した。なんなの、こいつ。別に俺、画面に変な汁とか飛ばしてないよ、そんなに。
「ま、まあ、いいわ。その三つで正解ってことにしてあげる。これで、あんたのバカげた、くだらないクイズはおしまい。それでいいわよね」
「いやあ、よくないっすよ。こんな基本的なことも知らないって、いよいよ恋愛経験豊富キャラの設定崩壊ですよ、小日向さん」
「こんな変な言葉、知ってるほうがおかしいわよ。外国語じゃない。変なカタカナじゃない」
「外来語アウトとか、お前の頭の中は戦時中の日本なのかよ……」
カタカナって。反論の言葉もガキすぎるぞ、こいつ。
「でもまあ、アレだよな。最低一つは知ってるってことは、当然それは彼氏と体験済みってことだよな?」
「も、もちろんでしょ」
紅葉はまた目を泳がせつつ、とっさに「電気は消したままだけどね」と、付け加えた。こいつ、いい加減、自分の言い訳に無理があるって認めねえのかよ。
「ふーん。それなりのテクは持ってるわけだ」
俺はにやりと笑い、制服のポケットの中からあるものを取りだした。それは――極太の魚肉ソーセージだった。こんなこともあろうかと、紅葉をからかうために持ってきていたものだった。
「じゃあ、その言葉が嘘じゃないと証明してくれよ。この肉棒を使ってさ」
「しょ、証明?」
「実演しろってことだよ。フェラをな」
さっそく魚肉ソーセージの外袋の封を切り、中の包装も指で引っ張って剥がした。ピンク色の肉棒の登場だ。そのまま紅葉にずいと差し出す。
「実演って……そんなことできるわけないでしょ! バカじゃないの!」
当然、顔を真っ赤にして拒絶する紅葉だったが、
「そうか、できないのか。つまり、さっきの言葉は嘘ってことだな」
俺は引かない。うりうりと肉棒を紅葉の顔の前に突き出し、煽る。煽る。
「結局お前は口では立派なことを言っても、下の口は未熟そのものってわけだ。いや、この場合、上の口も未熟って言っていいか。たかが魚肉ソーセージをくわえることすらできないんだからなあ」
「だ、誰が未熟ですって!」
「お前だよ。別に本当に卑猥なことをしろって言ってるわけじゃねえのに、なんでそんな過剰に反応してんだよ。本当に経験者なのかよ。ガキすぎるだろ」
「私のどこが子供よ! 童貞のあんたに言われたくないわ!」
紅葉は完全に激昂してるようだったが、そこでふと思いついたようだった。「そうだ、あんた童貞なんだし、実演してもそれが嘘か本当かわかんないじゃないの。なんの証明にもならないじゃないの」と早口でまくしたてた。なんだかうまいこと反論してやった、みたいな表情だった。
だが、そういうツッコミが飛んでくることは当然、想定済みだ!
「ふふ……たしかに俺には女にフェラをしてもらったという経験はない。だが、時は二十一世紀。高度情報化社会だ。デバイスをオンラインにすれば、望む情報はすぐに手に入れられるのだよ。ネットの海は広大だわ……ってな」
肉棒を持つ手とは反対の手でスマフォを水戸黄門の印篭のように掲げた。
「まさか、あんた、それでエッチな動画見まくってるってこと?」
「ああ。したがって、お前のフェラがニワカかガチかの判定は容易だ」
「でも、そういう動画って大げさに演技してるものでしょ? 実際、みんながやってるのとは違うんじゃ――」
「確かに。エロ動画にはファンタジーがいっぱいだ。時間停止、透明人間、スカウト面接即ハメ、どう見ても三十過ぎの女がランドセルしょってカメラに向かってお兄ちゃんって連呼しながらアヘアヘ……全部現実にはありえない! それはそういうものと割り切って楽しむしかない。だが、フェラというのはエロ行為においては非常にポピュラーで普遍的な行為だ。お前のようなケツの青いJKですら、知ってるほどにな。ゆえに、その手の動画において、ことフェラに関しては過剰で非現実的な演出はほぼないと考えるべきだろう。誰もが経験するであろう行為だからこそ、ありのままの素朴な描写に徹するしかないのだよ。それが映像作品のリアリティってやつなんだ!」
「そ、そうかしら……」
俺の剣幕に紅葉は若干引いてるようだった。この表情、前にも見たな。パンツがどうこう押し問答してる時だっけ。
「つまり、俺にはお前のフェラ実演を鑑定する資格があると言いたいんだよ。さあ、思う存分、肉棒をむしゃぶれ!」
そのまま魚肉ソーセージを股間にはさんで、腰を前に突き出した。
「な、なんで、よりによってそこにはさむのよ……」
「位置といい太さといいちょうどいいだろう? 固さがないのが残念だが」
腰を横に振ると、ソーセージは小刻みにぷるぷると震えた。
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