三章 霊媒師アンネ その2
それから二日後、俺のスマフォにアンネと名乗る霊媒師の女の子からメールが来た。その日の放課後、午後五時に学校の近くの公園で待つということだった。霊の状態などを確認するために、まずは直接会って話したしたいそうだ。俺は早速その日のうちに学校で紅葉を捕まえて、そのメールを見せた。そして、放課後になると一緒にその公園に向かった。
俺達がその公園に着いたのは午後四時半だった。少しの間、二人きりで待つことになった。
「なあ、お前って本当に恋愛経験豊富なのか?」
ふと、俺は紅葉に尋ねた。俺達は今、同じベンチに並んで座っている。といっても、お互い一メートル近く離れているが。
「それが何? キモオタ童貞君」
紅葉は相変わらず俺への敵意に満ち満ちている。
「いや、そんなに経験豊富なら、いろんな男と出会ってるんだろ? 変わった趣味のやつとかいただろ?」
「そりゃ、少しは……ってか、いきなり趣味って何?」
「いや、実は最近俺のカーチャンが山菜とりにはまっててさ」
と、俺は作り話をしつつ、鞄からスマフォをゆっくりと自然に取り出す。
「なんか食べられる草とかキノコとか勉強してるんらしいんだが、草はともかくキノコは素人判断じゃ危ないよな? お前の過去の男にそういうの詳しいやついたりする?」
「さあ? いなかったと思うけど……」
紅葉は実に自信なさそうな答えだ。まあ、予想どおりって感じだが。
「そうか。じゃあ、お前自身はどうだ? キノコ知識」
「別に普通よ。毒キノコなんて、見た目が派手だからすぐわかるでしょ」
「いやー、最近のキノコはそうじゃないらしんだな、これが」
にやり。俺は内心ほくそ笑みつつ、スマフォをいじって、あらかじめブックマークしておいたキノコ画像のページを表示した。
「これなんか、見た目地味だけどメチャ凶暴な毒キノコらしいぞ。ドクツルタケっていう」
「へえ。ほんとに普通ね」
その白い、何の変哲もないキノコの画像を見て、紅葉は素朴に感想を述べた。よし、こいつにスマフォの画面を見せることに成功したぞ。また内心ほくそ笑む俺だった。
「これって海外じゃ破壊の天使って名前らしいぜ。意味はわかるけどかっこつけすぎだろ」
「中二病のあんたにぴったりじゃない。これ食べて死ねば?」
「うっせーな! じゃあ、今度はこいつでどうだ?」
違うキノコ画像を出した。極めてメジャーなやつだ。
「あ、知ってる。これベニテングダケでしょ。これも毒キノコよね」
「ああ。だが、毒を抜いて食べる地方もあるらしいぞ」
「マジ? 何の罰ゲームよ」
紅葉はふと笑った。お、こいつ意外と食いつきいいぞ、キノコトーク。
よし、そろそろ本命と行くか。俺はさらにスマフォをいじり、別のキノコ画像を表示した。そして、「じゃあ、これは毒があると思うか?」と実に自然な流れで紅葉に見せた。
それは実はタケリタケという、非常にアレな形のキノコだったが、果たして反応は……。
(参考画像 https://pbs.twimg.com/media/CSiONt2UAAEap-p.png)
「なんか色が地味ね。毒はないんじゃない?」
なんと、ほぼ無反応だった。
「え、他に感想はないのか、お前?」
「このキノコ? 別に普通じゃない?」
「ふ、普通ですか……」
おかしい。これは荒ぶる男性器そのままの形のキノコなのに。これを見て、普通とか地味とかしか言わないって何さ? 何なのよさ?
よし、ここはさらにフェーズ2へ移行だ……。
「では、ここで突然だが、お前にとある日本の奇祭の画像を見てもらう」
「キサイ? お祭りのこと?」
「ああ、古より伝わる日本の伝統文化だ」
ぽちっとな。そのまま表示されている画像を切り替えた。現れたのは神奈川県のお祭り、かなまら祭りの画像だ。非常にアレな形のご神体をみんなで担いでワッショイワッショイしてる。実に異常な光景だ――が、(参考画像
https://images.keizai.biz/kawasaki_keizai/headline/1490865320_photo.png)
「これがどうかしたの?」
なんと、その異常性に紅葉はまるで気づいていない様子だ……。
「え、お前、これ見て何とも思わないの?」
「あ、そういえば、このお神輿?の上にあるやつ、さっきのキノコと似てるわね」
「そうそう! それだよ!」
「つまり、これって、キノコのお祭りってこと?」
「ちっがーう! ある意味正解だけど、違う!」
なんなのこいつ! わかっててあえてスルーしてるの? それともここまで誘導して気づかない、超鈍感キャラなの?
「何よ、ある意味って。さっきのと同じ形じゃないの」
「……とりあえず、この祭りのテキストでも読んでみようか」
さらにぽちっとな。この祭りについて解説しているページに移動し、それを紅葉に見せた。読ませた。(このへん http://g.kyoto-art.ac.jp/reports/257/)
すると――、
「な、なによこれ……」
紅葉はたちまち顔を真っ赤にして、スマフォを俺に放り投げてきた。
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