一章 邪気眼少年と眼帯少女 その9
「なんで言うの! なんで本当のこと言うの! どうしてあの日短パンはいてたなんて教えてくれるの! そこは嘘でも水色のパンティ履いてたって言ってくれよ。実は短パンだったなんてやめてよ、もう……」
「な、なんでガチ泣きしてんのよ。たかがパンツで」
「たかがじゃない! お前は今、俺の大切なもの、いうなれば心の処女膜を破ったんだ! 俺、お前にレイプされたんだよ!」
「いや、してないし……」
紅葉は俺のテンションにドン引きしてるようだ。
「なんか、あんた、リアルにキモいんだけど。リアクションとか言葉遣いとか」
「知るか! 何もかもお前がパンツ詐欺を働くのが悪い!」
「詐欺じゃないし――」
「いいから、見せろ! お前の本当のパンツを! お願いします、この通りです!」
もはや泣きながら土下座するしかない俺だった。
「あんた、いくらなんでも必死すぎでしょ……」
「そう思うなら今すぐ脱げ! その忌まわしい短パンを!」
へこへこ土下座しながら嘆願するしかない俺だった。
「ふーん、そんなに見たいんだ。私の下着のパンツ」
と、紅葉はそんな俺を見てにやりと笑った。
「それだけ頼むんなら、まあ、ちょっとだけ見せてあげなくもないかな」
「ほんとか! 今度はちゃんと見せてくれるのか!」
「ええ、いいわよ」
紅葉はそのままスカートの下に手を入れ、もぞもぞし始めた。ついに……ついに、見せてくれるのか! 刮目して見守るほかなかった。
やがて、短パンはずるっと下に落ちた。よし、このままスカートめくって……と、思いきや、紅葉は脱いだ短パンを何やらまさぐりはじめた。何だろう? 見ると、短パンの中に小さな白い布きれが入っている――って、これはまさか!
「パンツ! お前、今一緒に脱いだのか!」
「そーよ。履いてるところなんて誰が見せるもんですか」
紅葉は得意げに笑って、短パンの中から白いパンツを取り出し、右手の指に引っ掛けてくるくる回した。無地で、綿百パーセントっぽいシンプルなパンツだった。「これでちゃんと見せたわよね」どうやら、これでまた俺の期待を裏切ったつもりらしい。俺の希望はあくまで履いてる状態を見ることだと思っていたらしい。
だが、それは大きな誤りというものだ、小日向紅葉!
「お、お前は今、自分が何をしたかわかってるのか?」
「ええ。あんたの希望を打ち砕いてやったわけだけど?」
「何を言うか! お前は今とてつもなく素晴らしいことをしたんだぞ!」
「え……」
「目の前で! 現役女子高生が! パンツを脱いだ! このシチュエーションにときめかない男子はいません! いませんったらいません!」
「いや、あの……私、別にあんたを喜ばせるつもりは――」
「ありがとう、小日向! 俺、さっきお前がパンツ脱いだ瞬間を永遠に忘れないよ!」
がっしと紅葉のパンツを引っ掛けている手の手首をつかんで叫ぶ。パンツにこれでもかと顔を近づけて。「いや、そんなの早く忘れてよ」紅葉は俺の勢いにひたすら鼻白んでいる様子だ。
「あとはお前のスカートが風でめくれれば完璧だな!」
「……って、どこに手を伸ばしてんのよ、あんた!」
もう片方の手で紅葉のスカートをめくろうとしたが、すんでのところで腕を掴まれて制止された。
「か、風の精霊シルフはいたずら好きだから」
「なにが精霊よ。スカートめくろうとしてるのは、あんたの手でしょ!」
ぐいぐい。紅葉は俺の手を必死に払いのける。負けるものか。さらに手を伸ばす。ぐいぐい。
「俺にはこの中について知る権利があるんだ」
「何が知る権利よ、バカ!」
「非核三原則だ。憲法第九条なんだ。これは日本の国民としての当然の知る権利だ」
「意味わかんないわよ、バカ!」
「いや、お前は間違いなくここに核を所持している」
「持ってないわよ!」
「あるだろ。クリクリっとしたやつが。陰の核的なやつが」
「な、なによそれ! サイテー!」
「いいから、見せろ! 素直にIAEAの査察を受け入れろ!」
「いやよ! 絶対にいや!」
紅葉はさらに俺を強くおしのけた。だが、直後、その反動で大きくバランスを崩し、後ろに尻もちをつく形で倒れてしまった。
「あ……」
ふわり。そのはずみでスカートは大胆にめくれ、M字に開かれた脚の間が明らかになった。確かにそこはノーパンだった――。
「だ、だめっ!」
紅葉はあわててスカートのすそを手で下げてそこを隠した。
「み……見た?」
「ああ……」
見ちゃった。モロだった。呆然としながらうなずいてしまう俺だった。
「な……なんで見ちゃうのよ!」
「いや、お前が勝手に転んで――」
「ばかばかばか! あんたなんか大嫌い! 死んじゃえ、ばか!」
紅葉は顔を真っ赤にして俺を勢いよく平手打ちした。痛い……が、よく見ると、紅葉は目に涙を浮かべてるようだった。
紅葉はそれからすぐに短パンとパンツを拾って、向こうへ走って行ってしまった。逃げるように。俺はやはり、少しの間呆然とするほかなかった。
生まれて初めて女の子の秘密の場所見ちゃった、間近で。でも、まさかショックで泣かれるとは……。子供みたいな罵声も浴びせられるし。素直に喜べない気持ちだった。
『幸人殿、あの悪魔めはどこへ行ったでござるか!』
ふと、頭の中でアーサーの声が響いた。ああ、そういえば、さっきこいつ昔の知り合い(?)に会ったんだっけ。そんでもって、それは小日向紅葉に取り憑いている女悪魔で……ああ、うん、今はそんなんどうでもいいや。さらにアーサーが何か言ってきたが、全力で聞き流すだけだった。
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