一章 邪気眼少年と眼帯少女 その6

「悪いねえ。ついさっき、新しい人、決まっちゃって」


 そのゲーム屋の店長らしき男にバイトの話を振ったとたん、開口一番にそう言われた。クソ、一足遅かったか!


「ちょうど君と同じくらいの子でねえ。真面目そうな女の子なんだよ」

「そうですか。じゃあ、また……」


 すっかり萎えてしまった俺は、そのまま店を出た。


 しかし、とぼとぼと街を歩きながら、そもそも金で女を買うという発想自体おかしいと気付いた。そこで初めて。


 そうだ、俺はまだけがれを知らないピュアピュアボーイなのだ。(童貞とも言うがな!)それが貴重な初体験を愛も情緒もなしに金で済ますとか、いかんでしょ、さすがに。だいたい俺、未成年だし。金で女買うとか法律違反だし……たぶん。


 と、そんなときだった。ふと前方の通りに視線を流すと、見覚えのある人影を発見した。なんと、小日向紅葉だ。学校帰りだろうか、制服姿だ。周りには何人かのチンピラ風の男がいる。紅葉を囲んで何か話しかけているようだ。


「あいつ、あんな奴らと何を……」


 俺はとっさに近くの郵便ポストの後ろに隠れて、その様子を見つめた。すると、やがてすぐに男たちは紅葉の腕を掴んで、ビルとビルの間の暗がりに連れ込んで行くではないか。これはもしや、やばいパターン? あわてて忍び足で、そっちに向かった。


「姉ちゃん、ちょっと目上の人間に対する言葉遣いがなってねえんじゃねえか?」

「こりゃ、たっぷりお勉強する必要ありそうだなあ?」


 こっそり様子をうかがうと、薄暗い路地裏で、男たちは紅葉を囲んで下品な笑みを浮かべている。まずいぞ、すぐに助けに入らないと、紅葉があの男達によってたかって乱暴されてしまいそうだ! そう、あの人数相手に、もみくちゃにされて、くんずほぐれつになって……って、あれ? よく考えたらあいつビッチだし、それはそれでありなんじゃね? ただの野外の多人数プレイってやつじゃね? 乱闘なら止めるべきだが、乱交はむしろ止めなくてもよくね? そもそも俺とあいつは友達でもなんでもない上に、俺、あいつに童貞だってバカにされたしなあ。うーん、とりあえず、ここでこれから何が起こるのか、しっかり見届けておこう。これも社会勉強ってやつだ。うんうん。さらに身を低くし気配を殺して、その様子をじっと見守った。


 すると、紅葉は今にも襲いかかって来そうな男達を前に、平然とした顔でこう言うではないか。


「何言ってんの、勉強が必要なのはあんたらでしょ、低能のお猿ちゃん達」


 なんと、あの人数相手に思いっきり喧嘩を売ってらっしゃる……。


「んだ、てめえっ! ちょっとかわいいからっていい気になってんじゃねえぞ!」

「くそがっ! 痛い目見ねえとわかんねえみてえだな!」


 たちまち男たちの間に殺気が走る。だが、紅葉は依然として落ちつき払ったままだ。


 このままじゃ、リンチだよな? 乱交は見たいけど、リョナはちょっと……。やっぱり通報するしかないかと、ポケットのスマフォに手を伸ばした。


 だが、そこで紅葉は「しょうがないわね」とめんどくさそうにため息をつき、眼帯を外した。白日の下にさらされたその右目は赤かった。充血してるとかそういうレベルじゃなく、瞳が真っ赤だったのだ。


 そして、眼帯を外したとたん、紅葉の外見も大きく変わった。小柄で幼い雰囲気があるロリ系美少女だったはずなのに、一瞬でそこそこの背丈の、グラマラスな体型になっていた。そう、乳も尻もバーンと張っていて、腰はしっかりくびれててボンキュッボンッ!だ。制服のサイズはそのままなので生地がパッツンパッツンで胸と尻周りが大変なことになっている。


 なんだあいつ……。その光景に愕然とする思いだった。

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