一章 邪気眼少年と眼帯少女 その4

 家に帰り、気持ちが徐々に落ち着いてくると、よく考えたら何も失ってないことに気付いた。そうだ、俺は今日、普段通りに学校から家に帰ってきただけだ。ちょっと寄り道しただけだ。それだけなのさ、はは……。


 いやしかし、あの眼帯女子、妙に可愛かったな。パンツ見せてくれるって言うし……。


 やはりそれだけはどうしても気になった。俺は今日、もしかして人生の大事な選択を誤って、フラグをボキボキに折ってしまったのではないか? あのまま逃げずに、真実を話せば彼女と進展が……いや、ないない。断じて、ない! 逃げた魚は大きいような気がして、すかさず、あれは酸っぱいブドウでしたよと考えるしかないのであった。見た目はともかく性格は悪そうだったしな!


 ま、あっちは俺のことを知ってるみたいだったし、こっちもあいつの名前とクラスぐらいは知っておいてもいいかな。スマフォを取り、沢村さわむら初音はつねに電話した。彼女は俺の幼馴染で俺と同じ高校に通っている。ただ、クラスは別々だし、最近じゃほとんど顔を合わせていないのだが。


「初音? 実はお前に聞きたいことがあって……」


 かくかくしかじか。下校中に眼帯の美少女に遭遇したことを話した。パンチラ見物計画のことはもちろん隠して。


「ああ、その子だったら、私と同じクラスだよ。小日向こひなた紅葉もみじっていう」

「へえ……」


 あんな性格に似つかわしくない、かわいらしい名前だな。


「幸人、その子がどうしたの?」

「いや、眼帯してたからさ、ちょっと気になって……」

「あー、わかるわかる。あんたも左手に包帯巻いてるからねえ」

「え?」

「あの子の眼帯見て、中二病のお仲間かと思ったんでしょ?」

「ちげーよ!」

「いや、いいって。そこはあえて追求しないでおきますって。大変よねえ。左手に邪悪なる者を封印してるって設定。特に夏場は変な日焼けの跡ができそう――」

「俺のことはいいから、その小日向ってやつのことを話せ!」

「えー、別に私、あんまり小日向さんとしゃべんないしー」

「そうか、ならいい――」

「あ、でも、男を何人もとっかえひっかえしてるとか、パパ活してるとかって噂は聞いたことあるかなあ」

「え」


 あの子、そんなにビッチなの。見た目は清純そうな雰囲気だったのに……。


「そ、そうか。ありがとう。じゃあな」


 気もそぞろに、一方的に電話を切った。そうか、あいつビッチだからあんな大人のパンティ履いてたのか。そんでもってビッチだから俺にパンティ見られても平然としてたのか。あまつさえ、間近でそれを見てもいいって言うし。クソ、すでに色々経験済みのビッチだから恥じらいゼロってか! だから俺のこと童貞だって馬鹿にして……クソ、クソ!


 俺は落胆と怒りで胸がいっぱいになった。なんだか裏切られた気持ちだった。だってあんな美少女がすでに経験済みとか。さらにそれをお金に変えてるとか! そんな世の中、絶対おかしいよ! 俺はまだ彼女の一人も出来たことないって言うのにさ!

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