一章 邪気眼少年と眼帯少女 その2

 その日の放課後、俺は学校を出るとすぐに例のパンチラ丸見えスポットに向かった。早足で。まだ午後四時ぐらいで空は明るく、パンツは見えやすそうな時刻だった。


 男子達の話の通り、ローザリアなる小さなパン屋のすぐ前には歩道橋があり、さらにその階段の登り口近くにはイチョウの街路樹があった。俺はただちにその木のそばに移動し、スマフォを鞄から出して、いかにもそこで誰かを待ってます、時間をもてあましてスマフォいじってますという雰囲気をだしつつ、女がそこを通るのを待った。


 季節は6月だった。ちょうど無防備なファッションの女が増える頃だ。当然、パンチラにもぐっと遭遇しやすくなるはず……はず!


 しかし、しばらく待ってみても、そこを通るのはおっさんとか小学生男子とか、パンツルックの女とか、パンチラ不適合者ばっかりだった。一度、重そうな荷物を抱えたマタニティウェア(超長いワンピース)の女の人が通りかかって、大きい腹と荷物に青息吐息で階段をのぼりはじめて、見ちゃいられなくなって、思わず木の陰から飛び出し、荷物を持って階段を一緒にのぼってやった。妊婦には大変感謝されたが、しょせんパンチラ不適合者なので俺は適当にやり過ごすだけだった。早く来い、パンチラ適合者。


 やがて、そんな俺の熱い気持ちと善行が神に通じたのか、女子高生が現れた! しかも、うちの学校の制服(スカート短い)だ!


「おおおおっ……」


 木の陰で小さくガッツポーズをしてしまう俺だった。


『幸人どの、何をそんなに興奮しているでござるか?』


 と、俺の昂りに気づいたのか、脳内でヤツの声が響いた。「うるさい、お前は寝てろ」左手の包帯を軽く叩いてつぶやいた。


 俺がそうこうしている間に、その女子は階段をゆっくりと登り始めていた。木の陰からその様子をじっとうかがうと、背は小さく、顔立ちもいくらか幼く、かわいらしい女子のようだった。肌は白く、黒髪ロングで清楚な雰囲気もある。今時の頭悪いJKとは違い、鞄にアクセサリーをジャラジャラつけてるわけでもない。化粧もしてないっぽい。さらに右目には眼帯をつけていた。病院とかでもらうような普通の白いやつだ。ものもらいでもできてるんだろうか。


 いや、今はそんな細かいことに目を奪われている場合じゃない。貴重なパンチラの瞬間を見届けなくては。木の陰から可能な限り身を乗り出し、彼女の階段をのぼる後ろ姿を見守った。なるほど綺麗な脚をしている……って、見るのはそこじゃない。もっと上を見なきゃ。


 やがて、階段の真ん中あたりまで登ったところで、その至福の瞬間は訪れた! そう、確かにごく狭い隙間からではあるが、スカートのすその下からチラッと見えてる! 白っぽい布地が!


 あ、あれはどういうタイプのパンツなんだ……。ただちに全神経を目に集中させ、解析作業に取り掛かった。一瞬見たところ色は純白のようだったが、よく見ると違う。淡い水色だ。そう、初夏にふさわしいパステルブルーだ。なんとさわやかで甘酸っぱい響き! しかも、その布地はちょっと光沢があるようだ。これは綿じゃない。シルクとかポリエステルとかそういう生地……すなわちワンランク上の大人のパンツだ。いや、パンティと呼ぶべきか? おおおお! 初めて女子の生パンチラ見たけど、それが子供っぽいパンツじゃなくて、大人のパンティだなんて、俺ってなんて幸せ者なんだろう! しかも若くて可愛い子のパンチラと来てる――。


 と、そのとき、


「ねえ、何見てるの?」


 その眼帯美少女は急に脚を止め、こちらに振り返ったではないか!


「わああっ!」


 俺は驚きのあまり、変な声を出して尻もちをついてしまった。見られた! パンチラ拝んでるところ見られちゃったあ!

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