一章 邪気眼少年と眼帯少女 その1

  俺、立川たちかわ幸人ゆきとは、中二病キャラとして周囲に知られている。もう高校二年生なのに中二。いや、最近は厨二って言うのかな。


 例えば、みんなが見てる前で唐突にスマフォ(電源入ってない)を耳に当て「組織が動いたようだな……」と意味深につぶやく。中二病あるある。また、体育の授業中、校庭でふと上に手を伸ばし、「今日は風が騒がしいな……」と遠い目をしてつぶやく。これも中二病あるある。


 極めつけはもちろん、左手の肘から手首にかけて巻かれた包帯。時々、苦しげな面持ちでここを押さえて「くっ……静まれっ!」とか言う。そう、これこそまさに中二病の花型、邪気眼の症状。俺は時折こんな姿を級友たちに晒しては笑い物になってるわけなのだった。


 ま、全部演技なんだけどね。


 つまり、これは全部俺の素じゃなくて「キャラ」ってわけだ。俺はある理由から道化を演じてるってわけなのだ。


 実のところ、俺は自分で言うのも何だが、かなり平凡、容姿も含めて完璧な「フツメン」だと思う。将来の夢とかなくて、ただなんとなく高校に通って、授業やらテストやらかったるいなとか思いながらも真面目に受けて、時にはスマフォでエロ動画観賞したり、ゲームやったり、そういう実にイマドキの高校生なのだ。


 だが、中二病キャラである以上、そういうフツメンっぽさは常に隠匿してなければならない。辛い。例えば、昼休みの時間、教室の片隅で他の男子達が和気あいあいとフツメントークしてたりすると、話の輪に加わりたくてうずうずする。それが下ネタトークとか今やってるゲームの話とかだとなおさらだ。しかし、中二病患者というものはそんな俗世に関心を持ってはならない。ゆえに俺は我慢するしかない。辛い辛い。せめて俺が中二病キャラを保ったままできることといえば、物憂げに髪をかき上げ自分の席を立ったのち、けだるそうにズボンのポケットに両手を突っ込んで、そのフツメン男子達の話が聞こえやすいところまでほんのちょっぴり移動するぐらいだった。いかにも全てに無関心であるふうを装いながら。


 そう、その日の休み時間も、そんな感じで俺は男子達の話に聞き耳を立てていたわけだった。


「おい、知ってるか、例のパンチラ丸見えスポット」


 なんと、俺の耳に素晴らしいネタが飛び込んでくるではないか! おおお! 全力で聴覚を研ぎ澄ます。


「確か、あの歩道橋だろ? ローザリアってパン屋の脇にある」

「そうそう。あれの下からイケるらしいんだわ」

「マジか。ソッコーばれんじゃね?」

「いや、それが街路樹がうまいことカモフラージュになってて……」


 なるほど、なるほど! もう一つおまけになるほど! その街路樹の陰に隠れていれば、歩道橋の階段を上る女のパンツが見えるという寸法ですな! 俺はただちに早足で教室を出て、人気のない階段の踊り場まで行き、スマフォでローザリアなるパン屋を探した。それはうちの学校のすぐ近くにあった。徒歩十分くらい?


「こ、これはすぐに計画を実行に移さなければ……」


 俺はスマフォを耳に当て、シリアスな雰囲気で一人つぶやいた。そう、善は急げだ。

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