第7話 (余談)魔界の地
魔界の地の風が滞ると、魔界の地に花は咲かなくなる、と言われている。
それは当然のごとく、魔界の地の終わりを告げる「始まりだ」と言われている。
なぜそうなるかはわからない。
すべての物の成り立ちは物質と魔素の結合で成り立っている。
魔界ではそれが常識で、それを疑問に思ったことはないが、魔素の薄い場所に魔族は住めないので当然のように住居エリアは狭くなる。
魔素が薄い場所は、作物すら育たない。荒野が続くだけである。緑豊かな山も、一瞬にしてはげ山になり、土はサラサラの砂漠のようになり、岩がむき出しになる。だというのに、魔素が満ちれば一瞬にして緑豊かな山や花畑が続くのである。
だから、人々は魔素に敏感な花をあちこちに植えた。
先はじめは緑色の花をつけるが、時間と共にピンクになり、散ってゆく。時に緑、ピンクの後、魔素の影響を受けて青と色を変えることもあるがそれは珍しい。
だが、人間が召喚されたときはその程度に応じて青からさらに紫、そして白に変わってゆく。魔素が満ちれば満ちるほど、色が変わるのだ。
召喚されなければ緑かピンクの花を咲かせた後、実をつけ種をこぼし、すぐに再び葉を出す。
万一、魔素がなくなってくれば黄色やオレンジの色に替わり、その危険を知らせ、花を落とし、実をつける。人が住めなくなる荒野に種となって再び咲くその日までじっと荒野の地で耐えるのである。
こうして魔族は自分たちの居住域を広げてきた。
ただ、居住域が狭まれば魔族は自分の子孫を産み育ててゆくということができなくなる。出産や育児に必要な魔素が薄くなっているからだ。当然だが、魔素が薄い場所には子供が生まれない。
そういったことから、魔族の間では魔力が強いものが絶対であるという風潮が生まれ、魔族を統べるのは魔力の強い魔王が絶対王者として君臨してきた。
だからこそ、魔力の強い後継者が必要とされ、研究の末、召喚される人間が一番強いという研究結果が出た。
魔族の力あるものが召喚を行い、血みどろの歴史を刻むことになり、憂慮した魔王は魔王しか召喚を行えないという魔族総意の血の血判を得たのである。
魔王は召喚する代わりに、その能力を魔界の安定のために使うことを余儀なくされている。
つまり、召喚した人間をあらゆる手練手管で魔界に住まわせ、順応させるということである。そうすれば召喚された人間の年齢もあるが、300年から500年の安泰が約束される。
その間に魔族は子孫を紡ぎ、次の代に受け継いでゆくということを行う。
だから、召喚した人間を魔界になじませ、花嫁とするのが第一なのだ。
魔王が召喚術に成功すると、その行為はすぐに市井がわかることだ。
召喚しただけで魔素が空中にきらめくからである。
その濃さは、尋常ではない。
魔素の粒子が、召喚された場所、つまり魔王城を中心として魔界各地に瞬時に散らばってゆくのだ。だから、椎名が召喚されたときも魔王場を中心として魔素が方々に散っていった。光のシャワーが起きたのである。
魔界の果てまでその光のシャワーは降り注ぎ、可憐な緑色の花が青い色に変化し、あちこちで群生することになった。
その報告は、直ちに各地に駐在する魔王軍兵士から関係各所に伝えられ、魔王城に届けられることになったのである。
その花が咲き続けるかどうか、色が変化していくかどうかは、この先魔界に住む者たちの期待に満ちた目にさらされることになるのである。
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