第56話「激突」
ノティア・ガイストを脅威と感じたのかヒュドラが駆ける。
9つの首に大きな翼、長い尻尾を支える脚は太く、前傾姿勢のまま首と尻尾でバランスを取っていて大きさに似合わず俊敏だった。
石畳で舗装された地面が揺らぐ。それはヒュドラの走りとは関係なく、水面に小石でも落としたかのような波紋を作り、中心が一際盛り上がって暗い岩で構成されたゴーレムが現れた。
下から打ち上げるようにヒュドラの突進を抑え込んだゴーレムは、やがて紅く光りを灯し、周囲の空気を歪めていく。
灼石のノティア・ガイストの精霊、溶岩石のゴーレム。大人二人分の大きさはある巨大なゴーレムは異様な存在感があった。
衝撃が響く中、ゴーレムの主ノティアが動く。
出現時の地面の揺らぎは続き、ゴーレムを中心に波打つように地形を変形させ続けている。その波に乗るように、老体は鎧の男へと迫った。
反撃にファイカの力を広げる男だったが、石畳の波は止まらない。
「その力、地中深くまでは届かんようだな」
不安定な地面に足を取られる男と、石畳の流れに乗る老体との差は歴然だった。
「死にぞこないが!」
「それこそが亡霊だよ」
黒い長剣を構えたノティアは自身では動かず、運ばれるままファイカの力へ突入する。
向けられた切っ先は微動だにせず、振りかぶる事もなかったが、動かぬとも危険である事に変わりはない。
接触する寸前に、男は鎧に覆われた右手で剣先を押し退けた。が、その力に合わせ、長剣が動く。
出された腕をぐるりと最小限の動きで回り込み、男の首へ。どうにか左手を差し入れて首への一撃を防ぐ男だったが、黒い長剣が手のひらに突き刺さった。
「なんだ、その動きは……!」
「対人、それも鎧を着こんだ相手に大袈裟な動きは必要ない。そして終わりだ」
ノティアがそう言うと、黒だった長剣が紅く光り始めた。
男がその動きを抑えようとファイカの力に集中するも、光はおさまらない。
「無駄だ。ファイカの力で精霊は消せんよ」
黒い長剣。それはノティア・ガイストが代々受け継いできた精霊、溶岩を核とするゴーレムの一部を切り出し、加工したものだった。
精霊はそれぞれ独自の形を取るが、身体が鉱物だからこそ出来る芸当である。
その分類は生態であり、そこにある命は魔術で編まれた現象ではなく、魔力を奪ったところで消えることはなかった。
「守護精霊! どいつもこいつもその力と特権を振り回しおって! その力の存在すら知らされない我々は団結せねばならんのだ!」
「団結? 西の王を名乗っていたな小僧。貴様が西の地をまとめあげ、組織として一族としてその責務を負うというのなら認めてやらんでもないがね」
熱量が増し、肉の焦げる臭いと煙が上がる。ファイカの羽根が熱に耐えられないのか、鎧を構成する鱗が何枚か砕け、長剣がゆっくりと男の首へ進んでいく。
「その特権を徴収するだけではな」
「解放したのだ。これこそが西の民の願いだ!」
男は迫る切っ先を睨み、叫ぶ。
呼応してゴーレムと格闘戦をしていたヒュドラも雄叫びをあげ
そして――、爆ぜた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます