第11話「求めるスタイル」
「例えば、僕のステッキだと本体は魔力適性が高い樹人の枝をベースに、風狼の骨や風蜂の針、蜜蝋といったものを組み合わせている。棒術や鈍器のような使い方もする気はなく、街中で持ち歩くのに不都合がない形を求めた結果、こういうものになったわけだ」
フィオラには見当もつかず、合流したアドラーに聞きながらどうすれば良いかを考えていた。
「君が持ってきた杖は、おそらく王都の聖水を練り込み土と火の属性で焼き上げて硬質化した素材かな。元になったのも高品質の魔粉だろう。なるほど魔力との親和性は物凄く高い品だ。属性も気にせず使えるし、高級品なのは間違いない」
アドラーの言葉を聞きながら、フィオラはゆっくりと流れていく街並みを見ている。二人は職人街を出て中央へと向かう船に乗っていた。
小型船は船頭が一人、長い櫂を手に水路や他の船とぶつからぬよう操っていて、乗客はアドラーたちの他にも何人かが座っている。
ルモニも王都ほどではないが水路が多く、守護精霊や術者が動かせるようにした精霊船がよく行き交う都市だ。
とは言え庶民の普段使いは今回のような普通の小船であり、舵を取る船頭も守護精霊を扱えない者がほとんどである。
「だがその素材で実戦は耐えられない。激しい戦闘になれば攻撃を受けることもある。もっと小ぶりなら増幅器として優秀だったろう。しかしその大きさはバトルスタッフとして打ちあいをするかのようだ。お嬢さん、体術の方はどうかな?」
「護身程度には学んでいますが、武器を持って戦うような訓練はしていません。ですので、あまり得意とは……」
フィオラは自分が長い棒を持って戦う姿を想像してみたが、どうもしっくり来なかった。ある程度動けるとは思うものの、戦闘員として前に出られるか、メインの運用に入れるかと問われると無理がある。
「もちろん、君が領主の元について戦列魔術を行うだとか。守られながら大きな一撃を遠距離に発動させるような、大魔術師になるというなら話は別だが」
「それはありません」
その道は周囲から何度もすすめられた道だった。けれど自分が求めたものとは違う。逃げ出すのではない。ただ自分の力で何かを掴み、その結果で立って居たかった。そうなのだと思う。
何となくそう思っていただけのものが、アドラーを通して。そして先ほどの問答を通して、はっきりして来たような気がしていた。
「ならばそう、スタイルを決めるべきだ。でなければ何日もかかる。僕もそこまで暇じゃないからね。なに、どうせ訓練用の杖だ。気楽に行こう」
「気楽に、ですか」
「そうとも。まず、近接戦闘は基本排除かな。ただ冒険者のような実戦を望むのなら護身程度に打撃や防御に使える必要はある。しなくても、罠や滑落に巻き込まれるだとか、泥水に浸かるだとか。いくらでも丈夫であれば乗り切れる場面は多い。脆ければそれだけで壊れる。壊れて戦力半減だ。これは命に関わる」
言われてみれば確かにそうか、とフィオラは納得する。何も冒険者稼業をするわけではないが、激しい戦闘にならずとも、杖が繊細ですぐに不調になっては困る。
それに、暴漢に襲われたらすぐに身近のもので身を守れと教えられていた。咄嗟の時に防御を躊躇うような耐久度では道具として問題ありだろう。
「それならば、
「ふむ。攻撃は?」
「あまり考えませんでしたね。ただ、身を守るためにも相手を制する手段は欲しいかもしれません」
「なるほど。君はてっきりもっと激しいものをお望みかと思っていたよ。英雄に憧れるくらいだからね」
「あら、伯母様はそんなに攻撃的な人ではありませんわ」
「そうだろうね。ともかく、そういう事ならある程度方針は決められそうだ」
「本当ですか?」
自分で言っておいて、どんな攻撃からも身を守れる杖というのは些か無理難題のように思えたのだが、アドラーは平気な顔をしてそう言った。
フィオラの顔を見てそれを読み取ったのか、アドラーはひとつ頷いて先を続ける。
「もちろん何事にも完璧はない。だが限りなくそれに近づけることくらい出来るさ。そして君は運が良い」
アドラーが船頭に代金を支払い、フィオラを連れて降り立ったのは中央区の東、倉庫街の南にある行政関係の区画だった。
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