#1 AfterStory

「…………行きましたかねー?」


 小屋のドアから少女が首を出して周囲を見渡す。彼女は外に気配がないことを確認すると、ひょこっと身体を小屋から出した。


「あれだけ去ったもの扱いされると出て行きづらいったらありゃしませんよー。まあどちらにしろ出ていくつもりなんてありませんでしたがー」


 メガネをかけた少女は自身の死体が転がっている場所へとてくてく歩いていく。


「これ、便利なんですが自分の去体を見るのはやっぱり気味悪いですねー」


 彼女が横になったもう一人の自身に触れると、それは彼女へ吸収されるようにして触れた部分からゆっくりと消えていく。


「メイさんもまだまだ勉強不足ですねー、去体が消滅してない時点で少しは違和感を覚えてくれてもいいものなんですがー」


 身体が足まで消えたことをしっかり確認すると、彼女は重い腰を上げて身体を伸ばす。


「ツァナドさんがケチらずちゃんと用意してくれたらもうちょっと得られたんですがねー。まあ面白い能力も見られたんで良しとしましょうかー」


 そういって彼女は短く折られた棒状の碧絶岩が大量に入ったリュックをよいしょと背負う。そして、暗い森の中を一人スタスタと歩き始めた。


 *



「――――で、この場合どうなるんだ?」


 ギルベルトが石椅子に腰かけたレクリムへ振り向いて尋ねる。


「それはもちろん、僕の勝ちでしょ。彼は去絶しなかったわけだし」

「いや、あんなのほとんど去絶したようなもんだろ、反則だ!」

「そんなこと言っても彼がまだリズにいるんだからそういうことさ。ほら、わがまま言わずにさっさとここに座りなよ」


 笑顔で席を立つと、ギルベルトは舌打ちをしながらも渋々その椅子に座る。その様子を見てレクリムの笑みがよりいっそう深くなる。


「……お前、まさかとは思うが刻筆師の娘がいるとわかってて賭けを申し込んだんじゃねえだろうな」

「まさか、あんなところにあんな強い人がいるなんて知らなかったさ。ギルこそあの森の状態を知ってて賭けにノったんじゃないの?」

「そんな細けーコト知るわけねえだろうが」


 まあまあ落ち着いて、とレクリムはギルベルトの肩にポンと手を置く。


「いいじゃないか、先輩を労うと思ってさ」

「ここには先輩も後輩もない、って初めの頃に言ってたのはお前だろうが」

「そうだっけ? まあ数字で言うと僕の方が先だしさ。それじゃあ100魂分の転命、よろしく頼むよ」


 レクリムはそう言い残して濃藍の奥へと消えていく。


「くそっ、もう二度と賭けなんかしねえ」

「その言葉、次のときまで覚えてたらいいねー」

「うるせぇ!」


 ギルベルトは振り返って怒鳴ると、深く息をついて両腕を肘掛けに置く。そして、椅子の端を指先で叩きながら転生者の魂が訪れるのを待ち続けた。


「黒い骸…………か」

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