第31話 休息からの……

 一生分の税金を稼いで戻った翌日、リクト達は城の中庭でバーベキュー大会を開いていた。


「んまっんまっ!」

「このお肉……凄く柔らかいですねっ!」


 ダンジョンでは装備などの他にも食材がたっぷりと手に入った。普通なら遠方にしかいない魔物の肉もダンジョンでは手に入る。つまりダンジョンとは世界中の食材が集まる宝庫でもあるのだ。


 王女が肉を見ながらボソッと呟く。


「私達だけこんな贅沢してて良いのでしょうか……」

「どう言う意味で?」

「あ、はい。リクト様はこの城下町や領内の町を見ていないのでわからないと思いますが、民にも貧富の差というものがありましてですね……」

「んん? それは当然じゃないか? 真面目に働けば金持ちになれるだろうし、サボって大して働かない奴は貧しくなる」


 王女は首を横に振った。


「それは正論ですが、違います。私の言った貧しい者とは戦で親を失った孤児や手足を失った兵士、働く場所のない年寄りたちが集まるスラム地区に住む者たちの事でして……」

「……そう言う人達を救うために教会があるんじゃないのか? そのために寄付金払ってんだしさ」

「そうですが、それだけでは足りないのですよ。部位欠損を治療できるシスターはいませんし、年寄りに職を斡旋することも出来ない。精々が親を失った子供を育てるくらいなのです」

「……話が違うぞ。それじゃ教会なんてほとんど役立たずじゃないか」

「はい。しかし、教会は大きな組織です。これを排除したとなれば本部のある【聖王国シンカレア】に目をつけられてしまうでしょう」


 それは不味い。わざわざ争いの火種をばら蒔く事はないだろう。リクトは役に立たないなら排除しようと思ったが止めた。


「スラムがあるのは理解した。だがそれは各町や村に任せる。その為の自治だからな」

「恐らくそれでは解決には至らないでしょう。なにせ町や村の民はスラムの住人を快く思っていませんので」

「……やだ、働きたくない!」

「民は民でしょう? 領主様ともあろう者が民を見捨てるのですか?」


 こいつ……こんなキャラだったか?


 リクトは第一王女に圧倒されていた。


「リクト様なら治療も出来るのでしょう?」

「そりゃ出来るけどさぁ……」

「今は無気力な元兵士たちも治療さえ受ければ立派な労働力になります。お年寄りはその長き人生で蓄えた知識などを教える場さえあれば自分で稼ぐことも……」

「わかったわかった! やります! やらせていただきますよっ!」

「さすがリクト様です! これで各町や村からきていたスラムに関する陳情も解決ですっ!」


 そんなのきてたのか。って言うかそれお前の仕事じゃね?


 とは言えないリクトなのである。


 そして翌日、リクトはこの領内について情報を集める事から始めた。

 まず、領内には町がこの城下町をいれて四つある。そして村は五つ。元は国だったため数が多い。

 この内スラムについて陳情が挙がっている町が四つ、村が一つあった。全ての町から陳情されるとは余程困っているのだろう。さらに詳しく問い詰めた結果、実はバロン王国時代からその陳情はあったらしい。解決しておけよなと声を大にして言いたい。

 リクトは地図を広げ各町や村の位置を確認した。


「……無駄に広いんだよなぁ」

「元は国ですからねぇ……。解決できそうでしょうか?」

「この目で見てみない事にはなんとも言えないかな」

「それもそうですね。ではまずこの城下町から調査されてはいかがでしょう? まずは実際にリクト様の目で御覧になってみて下さい」

「ああ、そうするよ。近いしね」


 リクトは赤のローブに着替え城門の前に立つ。


「じゃあ行ってくる」

「はい、お気をつけて~」


 わざわざ妻たちが見送りに出てきてくれた。可愛い奴らだ。


 リクトは初めて城下町をゆっくり見て回った。自治の効果が出ているのか町は活気に満ち溢れている。


「リクト様だ! リクト様がいらっしゃってるぞ!」

「「「「なにっ!? おぉぉぉぉぉっ! ほ、本物だぁぁぁぁぁっ! リクト様ぁぁぁぁっ!」」」」

「え? は? 何事っ!?」


 リクトは町衆に見つかり瞬く間に取り囲まれた。


「リクト様! リクト様が領主になってくれたお陰で生活が楽になりましたっ!」

「リクト様! リクト様の政策で私も彼と結婚することができました!」

「リクト様!」

「リクト様!」


 民からの熱い感謝の言葉が波のように襲い掛かる。


「あ、ああ。当然の事をしたまでだ。だからこれからも自分たちで協力しあって生活を豊かにしていくんだぞ? そうしてくれたら税金は一切集めないからな?」

「「「「おぉぉぉぉぉっ! この領最高っ!」」」」

「あ~、悪いが道を開けてくれ」


 そう告げると町人がリクトに尋ねてきた。


「どこかにお出掛けでしょうか、リクト様?」

「ああ、ちょっとスラム地区までね」

「「「「スラム地区!?」」」」


 スラム地区と聞いた民達はみな表情を曇らせた。


「まさか……スラムを解体しに行って下さるので?」

「解体? まさか。必要ならそうするが、まだ自分の目で確かめてないからさ。まずはスラムがどんな場所かちゃんと見てから決めようと思ったんだ。じゃあ行かせてもらうよ」

「あ、危ないっすよ!?」


 リクトはくるりと振り向いた。


「危ない? なぜ?」

「スラムには犯罪者も紛れ込んでますので。その犯罪者がスラムの住人を使って違法な草や人身売買をしたりしてるんですよ」

「……なに? それは本当か?」

「は、はい。だから早く解体して欲しくて昔から陳情書をあげていたんですが……。戦時中だったためか中々動いてはもらえず……」


 そうか、そう言えば戦してたんだっけ。


 あまりに簡単に片付けてしまったがためにリクトはすっかり戦があった事を忘れていた。


「それは早く行かないとな。俺の暮らす町で犯罪は見逃せん。よく教えてくれた。恩にきるぞ」

「ははぁっ! ありがとうございますっ!」


 スラムには犯罪者が巣食っている。それを知ったリクトは少し足早にスラム地区へと向かうのであった。

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