第30話 宣言
バロン国王の許可を得たリクトは翌日領民に御触れを出した。
《今日より三年間を領地の実態調査期間とし、この三年間の税を罷免するものとする》
これに領内の民は歓喜した。
「すげぇっ! 三年間は無税になるのかっ!?」
「稼いだら稼いだだけ自分のモンか!? やる気出るぜぇっ!」
「俺……この機会に彼女と結婚しようかな……!」
「私はもう一人子供作ろうかしらっ!」
この御触れを機に領内の経済活動はとんでもなく賑やかになった。家庭を持つ者が増え生活に余裕ができた者は多くの金を使うようになった。
「前から疑問だったんだけどさ、税金って何のために集めてんだろうなぁ……」
「ん。理解できない」
「ですね。ダンジョンに行けば稼げますよね?」
異世界組は頭に疑問符が沢山浮かんでいた。それに第一王女が答える。
「税金は主に民を守る騎士たちの給金や街道の整備、私達国を運営する側の生活費などに割り当てられます。他には国費を招く際のパーティーの準備、教会への寄付金、使途は様々ですわ」
「……ふむ。しかしこの領地には騎士はいないぞ?」
「いえ、領地ではなく国で働く全ての騎士のために税は集められるのです」
「自分のところにはいないのに?」
「はい」
守られているなら払う義務はあるのだろうが、守られてもいないのに払うのはおかしいだろう。いや、今はまだ知らないだけで必要になるかもしれない。治安の状況すら知らないから何とも言えない。
「知らなきゃ対策も何もないな。とりあえず……」
リクトは文官を使い、領内全ての町や村の長に調査項目表を送らせる事にした。
調べる項目は町や村の総人口、治安状況、産業、困り事から相談事などだ。
ちなみに、冒険者は人口には入らない。冒険者は依頼料に税金が最初から含まれており、達成して得られる額は税金を差し引いた額だ。そして冒険者ギルドが一括で全ての冒険者の税を支払うと言う仕組みになっている。
そしてまた教会は別だ。教会は治癒や教育機関として独自に動いている。そのため税は免除となり、国から逆に寄付というかたちで対価を得ている。これが少なすぎると教会はその国から撤退し、民は困り果てる事になる。リクトは治癒魔法を使えるが、普通の民は使えないのである。理由は治癒魔法の習得方法が教会によって秘匿されているためである。
「こんなの全然怠惰じゃねぇ……。王様が一番忙しいって上に立って初めて理解したわ……」
「ですわね。父もいつも忙しそうで私達は全然遊んでももらえませんでした」
「……やってられんな……」
もう心が折れそうだった。しかしリクトは突然妙案を思い付く。
「……閃いた!」
「なにをです?」
リクトの顔に笑みが浮かぶ。
「ふっふっふ……。各町や村を自治区にしようっ!」
「自治区……ですか」
「そうだ。んで税も集めん」
「ち、ちょっと待って下さい。ではどうやって父にこの領地の税を納めるので?」
「そりゃダンジョンに決まってんだろ」
それに勇者二人もピンときたようだ。
「なるほど。私達三人でダンジョンに潜り荒稼ぎしてくるわけですね?」
「そうだ。町や村の整備、警備は各自に任せる代わりに税をとらない。けど納めなきゃならない金は俺達でダンジョンからかき集める」
「ん! シンプル!」
「だろ? よ~し、そうと決まれば……」
リクトは文官に送る手紙の内容を変更させた。
そして一ヶ月後、国内はさらに沸き上がった。
「おいおい、税がなくなるってマジか!」
「おう、しかも町も自分らで運営しろってよ」
「町長とかも自分たちで決めていいんだって!」
「すげぇな、新しい領主様……! これは改革だぞ!」
リクトは領地を民主化した。国の意向は組むが、それはリクトが全部こなす。代わりに町や村は自分らで運営しろと、まぁ丸投げした。
「民は良い領主だと思うだろうが……これが一番楽な解決方法よ! さすが俺っ! 空いた時間は怠惰に過ごせるっ! ふははははは~」
「治安を守るために冒険者の仕事も増えますし、税がなくなった分経済も回る。素晴らしい案ですね!」
「だろ? ちょっと潜れば一生遊んで暮らせるだけの金は手に入るしな。よし、そうと決まれば早速……」
それからリクトはミハルとチグサを連れダンジョンに飛んだ。リクトは最下層、ミハルは一階上、チグサはその上と、三人でひたすら魔物を狩りまくった。二人にはリクトが次元魔法を付与した魔法の袋を持たせてある。中に入れた物は全てリクトの作った亜空間に入る仕組みだ。
一週間に一度集まりまったり休む。それを一ヶ月繰り返し行った。
そして最終日……。
「……おい、やり過ぎたぞ……」
「ん。世界まるごと買える!」
「お金になりそうな武具や薬品、色々集まりましたね……」
「リクトのが一番ヤバい。聖剣ラグナロク。これ勇者が使う武器」
「これは世に出せんな……。だがまぁ……これで……」
リクトは拳を振り上げた。
「怠惰な生活の準備終了っ! さあ宴だ宴!」
「「はいっ!」」
リクト達は三日三晩はしゃぎ、城へと戻った。
「あらお帰りなさい。どうだった?」
「有言実行! 俺達もう働かなくても大丈夫!」
「まぁっ! なら皆でのんびり暮らせるのね?」
「勿論。子供たちともゆっくり遊んであげられるよ」
妻達は頼り甲斐のありすぎるリクトに改めて惚れ直すのであった。
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