第25話 死神

「はっ!?」

「よう、気が付いたか?」

「え?」


 死神はベッドで手足を拘束され横にされていた。


「なに……これ?」

「お前は敵だったからな。念のため拘束させてもらった」

「敵? なに言っ……ねぇ?」

「あん?」


 死神は顔を真っ赤にしてリクトに怒鳴った。


「拘束はわかったけど……なんで……裸?」

「趣味だ」

「……ヘンタイ」


 リクトは軽く笑った。


「それよりだ、今までの記憶はあるか?」

「……ない……こともない。たまに欠けてる……」

「なるほど。なら自分が何故ここにいるかは?」


 死神は真っ直ぐリクトを見て答えた。


「召喚された。……いきなり」

「そうか。災難だったな。さて……」


 リクトは椅子から立ち上がりベッドに近付いた。そしてそのままベッドに腰掛ける。


「……なに?」

「お前に選択肢をやろう」

「選択肢?」

「そうだ。日本に帰るか、それともここで死ぬかだ。好きな方を選べ」

「に、日本? 知ってる!?」


 死神は驚いていた。


「そりゃ知ってるさ。俺も日本にいたからな。ま、俺は召喚じゃなく転生なんだけどさ」

「……違いがわからない。それより……私帰れる?」

「ああ。ちゃんと帰してやれる」


 死神はすぐにでも帰ると言うかと思いきや再び無表情の仮面を被りだした。


「……無理。私はいっぱい人を殺した……。何人も何十人も何百人も……っ! そんな私が今さら日本に帰る……できない」

「そこの記憶はあるのか……。参ったな……」


 リクトは頭を抱えた。人を殺す。こんな子供がトラウマを抱えるには十分だ。帰したとしても恐らく心を病むだろう。


「……私は帰らない。あっちに私の居場所なんてない」

「あ? 親はいるだろ? 友達とかもさ?」


 死神は首を横に振った。


「いない。私は施設で暮らしてた。いつも……一人」

「……孤児……か」


 死神の首が縦に動いた。


「……帰りたくない。あっちでは何も出来ない私。だけど……ここは違う。何でも出来る!」

「お前……」


 リクトは強い意思を瞳に宿す死神の頭を撫でた。


「……触るな……ヘンタイ」

「いいだろ、触り心地が良いんだよ」

「……本当にヘンタイだった」


 リクトは死神の拘束を解除してやった。


「……暴れるよ?」

「お前は暴れない。本当は暴れたくなかったんだろ。お前が支配されていた首輪はもうない」

「……違う。私初めてだから……。痛かったら暴れる」

「……なに言ってんの?」

「……ヘンタイなコトするんじゃないの?」

「しねぇよ!? ガキが何言ってんだ!?」

「見てた。お兄さん、私くらいの女の子を並べてヘンタイしてた」

「は? ……見てたの?」


 死神はこくりと頷いた。


「皆気持ち良さそうにしてた。私もしてみたい」

「いや、アレはほら……。後悔するぞ?」

「……しない。私の居場所はここに決めた」

「うぉっ!?」


 死神はピョンっと飛び上がりリクトに跨がり抱きついた。


「お兄さんが私の居場所。お兄さんは私の面倒を見る。私はお兄さんに食べさせてもらう。もう決めた」

「なんで俺が面倒見る事になってんの?」

「お兄さんはヘンタイ。日本から来たなら私くらいの子供に反応したら犯罪」

「だってここ地球じゃねーし」

「うん。だから……好きにしていいんだよ? 地球じゃ捕まるけどここなら……ね?」


 リクトは誘惑に負けた。それからリクトは何度も何度も死神を貪った。

 そして夜が明けた。


「……さすがヘンタイお兄さん……容赦ない」

「うっせ。お前だって後半ノリノリだったじゃねーか」


 死神はリクトに座り直してこう言った。


「お前……じゃない。私は【ミハル】。わかった? ヘンタイお兄さん?」

「いったたたたっ! 締めんなバカ! 千切れるだろ!?」

「こんなの千切ないよ、ヘンタイお兄さん?」


 そのままミハルはまた動きはじめた。


「なぁ、まだ続けんの?」

「ん。……枯れるまでやる。私以外に反応しないように」

「残念、俺は底無しなんだよ」

「むぅ……。なら……私の虜にする! 私がヘンタイお兄さんの一番になるっ!」

「ははっ、そりゃ険しい道のりだな。まぁ……だが悪くない。戦ったりなんだりよりは全然マシな生き方だ。怠惰にいこうぜ?」

「ん。……怠惰……いい響き……」


 そして時間は正午。室内に見習い兵が飛び込んできた。


「リクト様っ! 砦の前にリンカネット兵が……あ」

「んにゅぅぅぅぅっ!」

「……あ」


 ちょうどミハルを抱えてフィニッシュを迎えていた。


「り、リクト様? て、敵といったい何を?」

「敵? ああ、もうミハルは敵じゃない。俺の仲間だ」

「え? えぇぇぇぇぇぇっ!?」


 ミハルはリクトに抱きつきながら口唇を重ねた。


「私はこのヘンタイお兄さんと一生怠惰に生きる。邪魔する奴は許さない……。お兄さん、いこ?」

「ああ。さっさと終わらせて続きすっか」

「ん。……ようやくミハルの良さに気付いた。さらに気付かせるためにもさっさと終わらせる」


 二人は赤と黒のローブを纏い部屋を出た。


「……な、なにあれ? ……うわ、えっちぃ匂い充満しちゃってるよぉ……。……はっ! 換気換気っ!」


 見習い兵が自分を慰めるかどうか一瞬悩んでいた頃外では……。


「き、きさまぁぁぁぁっ! 死神ぃぃぃぃっ! 裏切ったなぁぁぁぁぁぁっ!」

「……裏切るなんてバカ? 私は無理矢理従わされていただけ。死ね、ムカつく……!」

「ぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「そうだ、ヘンタイお兄さんは?」


 ミハルは隊を指揮する指揮官を征した後、後ろを振り向いた。


「ハッハー!! まとめて砕けろっ!【オメガ・バーストォォォォォォッ】!!」

「「「「ぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」


 数万の兵がまとめて爆散していた。


「お……おぉぉぉ……! ただのヘンタイお兄さんじゃなかった!」

「こらこら、誰がただのヘンタイお兄さんだ、全く」

「ん」


 そう言い悪びれることなくリクトを指差すミハル。


「よーし、お前お仕置きな」

「……ほらヘンタイだ」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃっ! ば、バケモンだっ!」


 そこにはたった一人生き残った帝国兵がいた。情けなくも失禁し地べたを這っている。リクトはその背中を思いっきり踏みつけた。


「がぁっ!?」

「お~い、助かりたい?」

「ひっ、ひぎっ!? た、たたたた助け……!」

「ああ、助けてやんよ。だからよ、帝国に伝えてくんねぇかな? 死神は俺のモンにした。次は神盾の番だってな? 全面戦争だ。奪われたくなけりゃさっさと攻め込んできな。面倒な事はさっさと終わらせようや、な?」

「つ、伝えるから足をっ!」

「頼むぜ? 多少誇張しても構わねぇからよ? オラッ!」

「がぁっ!?」


 リクトは帝国兵を馬まで蹴り飛ばした。


「早く行けよ?」

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 帝国兵は馬を走らせ彼方へと消えていった。


「……ヘンタイお兄さん。続き続き!」

「あぁ? 先ずはその血を洗い流してこいよ。バッチィぞ」

「ヘンタイお兄さんこそ。ローブ肉片だらけのくせに」

「……風呂行くかー」

「ん」


 こうして、二戦目もバロン王国側が圧勝するのであった。

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