第26話 ミハルと王女たち

「ヘンタイお兄さんはやはりヘンタイ」

「あん? 仕方ないだろ、こいつらも入りたいって言うんだしよ」

「お風呂~お風呂~!」


 現在戦闘後の大浴場。ミハルと二人で入っていたら王女たちも入りたいと言いわらわらと集まってきていた。しかもまだ手をつけていなかった年少組のほうである。


「ミハル様はもうリクト様と?」

「ん。百回以上はした」

「まぁっ! ど、どうでした?」

「……逝く時のお兄さんの顔が可愛い」

「おいっ!? っく!」

「やぁぁぁぁぁんっ」

「ほら」

「まぁ、確かに!」

「何が確かにだ! 全く……。ほら、お前も来い」


 それから連日連夜全員で至福の時を過ごすのであった。


 しばらくし、瀕死の帝国兵がようやく自国へと辿り着いた。


「ど、どうしたっ!」

「で、伝令っ……! 死神が落ちた!」

「な、なにっ!?」

「そればかりか……死神は敵に回った!」

「そ、そんなバカなっ!!」

「は、早く閣下に知らせないと……!」

「か、肩を貸そうっ! 掴まれっ!」

「……すまんっ……!」


 傷だらけの敗残兵は同僚に肩を借りすぐに皇帝に戦の状況を伝えた。しかもリクトの言った通り、リクトを悪しき者として。


「次は神盾の番だとっ!! 舐めてくれるわっ……! おい」

「はっ!」


 皇帝は横に控える配下を呼びつけた。


「相手は神盾の力を舐めているらしい。全軍引き連れて皆殺しにしてこい」

「ぜ、全軍ですか!? しかしそれでは守りが……」

「守りなど不要だっ!! どうせ民には反乱する体力すらないのだからなっ! それよりだ、死神を落とした敵の首と死神の首を持って来いっ!! わかったら早く行かんかっ!!」

「はっ!!」


 皇帝は苛立っていた。


「私が戦で負けるなどあってはならんっ!! ようやくここまで大きくしたのだ……! バロン王国なんぞに誰が負けるかっ!! 絶対防御からの遠距離攻撃……これで奴らもおしまいだっ!! ふふっ……ふはははははっ!!」


 皇帝の命を受けた男は神盾の部屋に向かっていた。


「おい、出番だ」

「……」

「全く……。相変わらず聞いているかどうか判断出来ない奴だな。気持ち悪い……」

「……」

「まぁいい。仕事だ。支度しろ」


 そう言い残し男は部屋を出ようとした。その時だ。


「……は?」

「あ? なんだって?」

「死神は?」


 男は驚いていた。戦場以外で神盾が喋った事など一度もなかったからだ。


「あいつなら敵に寝返った。もうここには来ない」

「……そう」


 今度こそ男は部屋を後にした。


「……本当に薄気味悪い奴だ……」


 男が部屋から遠ざかった頃、室内で一人笑う女がいた。


「うふふふ……。見つけたのね、ミハル……。私達の希望を……。敵に回ったと言う事は……、この忌々しい首輪が外れたのね……」


 暗い室内で笑う女に怒りの炎が沸き上がった。


「……こんな首輪で私を玩具にした帝国……! 絶対に赦さない……! ミハル……、必ず私も行くからっ!」


 女は装備を身に纏い部屋を出るのであった。


 その頃、ミハルはリクトに神盾について話していた。


「ほ~ん。お前を庇って帝国兵の玩具にねぇ……」

「ん。チグサ姉はまだ幼い私を庇ってくれた良い人」

「それがこんな好きもんだって知った日にはそいつ泣くぞ?」

「これは……違う。ちゃんと愛がある」

「どうだか」


 二人は常に繋がったままだった。


「ヘンタイお兄さん、何とか助けてあげられない?」

「あ? ん~そうだなぁ。助けてやれない事もないが……そいつはボロクソ玩具にされたんだろ? そう言う奴は大概病んじまってんだよなぁ……」

「大丈夫! チグサ姉は私と違って地味っ子! そんなにヤられてないはず!」

「お前……中々毒吐くな……」

「ん。私は可愛い! ヘンタイお兄さんを超ヘンタイお兄さんにするくらいに可愛い!」

「このっ……」


 そして一戦交え……。


「話進まねぇよ! 何の話だっけ……」

「私が可愛い?」

「違うわっ! いや、可愛いけどさ」

「むふ~」


 さらに一戦交え……。


「頼むから真面目に話そうな?」

「ん、何を知りたい?」


 リクトは次々と質問を投げ掛けた。そうして神盾についての考察を開始した。


 まず、チグサ姉とやらとはこの世界で初めて会ったそうだ。歳は十四、見た目は地味らしい。そしてミハルを庇った事から正義感は強いらしい。ただ、心はどうかわからない。十四で集団にアレされたら歪んじまってもおかしくない。

 そして二人は帝国で同じ部屋で暮らしていたそうだ。ベッドしかないとても狭く汚い部屋でだ。食事も一日一回、しかも残飯だ。俺がそうだったら泣く。

 そして二人はこう誓いあったらしい。


「どちらかが助かった場合必ず相手も助ける。……か」

「お兄さん……、チグサ姉を……助けて!」


 珍しくミハルの顔が真剣なものになっていた。


「……ああ、任せろよ。もう作戦は考えてある」

「ホントッ!?」

「ああ。まずな?」


 リクトはミハルに神盾救出作戦の内容を伝えてやった。


「……ヘンタイお兄さんはズルっ子お兄さんだ」

「ズルじゃねっつーの。神盾のスキルは攻撃しか防げねぇんだろ?」

「ん」

「なら楽勝よ。お前のために身を差し出した女は見捨てられねぇよ。さっさと呪縛から解放してやんよ」

「お兄さん……。んっ!」


 こうして、いよいよ両国の全面戦争が始まりを迎えるのであった。

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