第22話 英雄扱いはちょっと……
リクトは町にいた全ての民の傷を治療してやった。そればかりか壊れた家屋の変わりを土魔法で作って見せた。簡易な物だが雨風を凌げる建物は今民たちにとって一番欲しいものであった。
「すまないっ……俺たちのためにこんな家まで……っ!」
「いえ、気にしないで下さい。家があれじゃ逆に危険でしょう? いつ倒壊するかわかりませんしね。せっかく助かった命をそんな理由で失ったらやるせないでしょう?」
「ははっ、確かに……。またリンカネット帝国兵がくるかと思うとさ、直したくても直せなかったんだ……。どうせ直してもまた……って考えちまうとさ……」
リクトは肩を落とす男に言った。
「それならもう直しても良いですよ。この先一歩も帝国兵はこの町に近付けさせませんからね」
「そりゃあ……本当か?」
「ええ、約束しましょう。なのでなるべく早くみんなが元の生活に戻れるように頑張って協力しあって町を建て直して下さいね」
「……ああっ! もう壊される心配がないならすぐに補修に入るさ。色々とありがとうな、兄さん!」
「いえいえ。ああ、では俺はこれで。城に行かなきゃならない事を思い出しました」
「引き止めて悪かったな。頑張って帝国の奴らを追い払ってくれよっ! この町の全員が応援してるからなっ!」
「ありがとうございます、ではまた」
リクトは町の人たちに盛大に見送られながらバロンの城へと向かった。城門に着くとすぐに謁見の間へと案内され、リクトは現在謁見の間でバロン国王と対面していた。
バロン王は連戦の疲れからかかなり疲弊しているようだ。目の下にはクマがあり、蓄えた髭も乱れていた。全体的に覇気がないとリクトは感じた。
「そなたがギュネイ王国からきた加勢か……。すまぬ、恩に切るっ! ワシには頭を下げる事しかできぬ……。兵を救ってもらったばかりか民の治療まで……。何から何まで迷惑を掛けてしまったなぁ……」
「いえ、こちらに寄った事も民を助けた事も俺自らの意思でやった事なのでお気になさらず。それに……俺はギュネイ王国国民ではありますが、政治事とは無関係の一般人ですので」
それを聞きバロン国王は驚いていた。
「き、君のような有能な人材がい、一般人? ギュネイ王国は人を見る目がないのか!?」
「いえ。国王とは面識はあります。ただ、俺自身が政治事に関わる事が嫌なだけでして。ギュネイ王国が無能というわけではありませんよ」
「そうか。……しかし君はなぜ我が国に助力を? 政治事が嫌いなのならば静観しておれば良かったものを……」
リクトは王に言った。
「政治事は嫌いですが……自分の大切にしているモノを奪われる事はもっと嫌でしてね。実はリンカネット帝国の事を聞いたのがつい最近の話でして。それでバロン王国が滅んだら次はギュネイ王国って話じゃないですか。なら奪われる前に何とかしようと思い立ち、今に至ったのですよ」
「そうか。……今回の戦で我が国の兵力は尽きるはずじゃった。君のおかげで我が国は一先ずの窮地を脱したのじゃ。感謝しよう。……じゃがな、帝国にはまだ最悪な人物が二人おるのじゃ」
「【神盾】と【死神】ですね?」
「……そうじゃ。あれらは最早人ではない……。君でも正直勝てるかどうか……。君はこれを聞いても我が国を守るために戦ってくれるか……?」
リクトは立ち上がり拳を握り胸に当て礼を尽くした。
「この国のために戦うと言う事はギュネイ王国のためにもなると言う事。つまりはギュネイ王国で暮らす家族を守る事にも繋がるでしょう。俺は家族を守るためにここバロン王国をリンカネット帝国から守る剣となると誓います!」
「すまぬ……! 情けないとは思うが我が国はもう戦う力をほとんど残しておらぬのじゃ……。どうか……我が国を頼むっ!!」
「はい、お任せ下さい。では俺はこれで……」
そう言い立ち去ろうとしたリクトをバロン国王が引き止めた。
「む? どこへ行こうと言うのじゃ?」
「え? いや、もう挨拶も済みましたし町で宿でもと……」
「いやいやいや、リクト殿はこれから城で待機してもらわねばならぬ。いざ戦となった時に探しに行くのは手間じゃからな。我が国内にリンカネット兵が近付いて来たらすぐに国境へと向かってもらわねばならぬ。ましてやその中に神盾か死神がいたら尚更じゃ。すまぬがこの城内で待機していただきたいと」
リクトは考えた。確かに一理あるがそれだと民に金が回らないのではないかと。言わずもがな、リクトには莫大な資産がある。それはこういった場面でこそ使われるべきだと思う。
その事を国王に告げると、国王はこう返してきた。
「いや、それは今でなくとも良いのじゃ。我が国は戦に入った時から税を集めておらぬ。そして兵に志願してきた者の家族には謝礼金もしっかり渡してあるのじゃよ」
「失礼ですが、この国にはそんなに資金が豊富にあるのですか?」
「うむ。我が国の資金源は鉱山でのう。これまでに溜め込んだ金がたんまりあるのじゃ。そして民からはあまり税を徴収しておらぬ。つまり、民は以外と掛け持ちなのじゃよ」
国王は良い笑顔でリクトにそう返したのだった。さらに話はここで終わらず、国王はリクトにとんでもない事を願ってきた。
「リクト殿、すまぬが我が娘たちをもらってはくれんかの?」
「……は? ……はいっ!?」
リクトは慌てて国王に問い返すのであった。
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