第21話 リンカネット帝国兵
大国リンカネット帝国。元はリンカネット王国という小さな数ある国の一つに過ぎなかった。だがある日、かつての王は勇者を召喚する方法を発見してしまった。王は自国の犯罪者を生け贄とするために軽犯罪者から重犯罪者まで全てを集めた。だがそれだけでは到底足りず、王は貧しい者にも僅かな金銭を与え贄にした。そして最初の勇者、【死神】を召喚したのだった。
王はこの死神に隷族の首輪を嵌め、意思を奪った。これは自分の命を守るために用意したものであったが、召喚された【死神】の力が強すぎたために王は歪んでしまった。
王はこの死神を使い次々と周辺国を取り込んでいった。そうして出来上がった国が今のリンカネット帝国である。
その後、王は初代皇帝を名乗り、取り込んだ国から再び生け贄を集め何度も勇者を召喚した。中には外れた勇者もいた。その者らは力を封印され地下深くに今も幽閉されている。だがリクトはまだそれを知る由もなかった。
この召喚で皇帝は二人目の勇者【神盾】を得た。最強の攻守を得たリンカネット帝国はさらに勢いを増し、大陸統一を掲げ躍進している。
リクトはリンカネット帝国方面に飛行したが、直接は向かっていなかった。
リクトが向かった先はバロン王国。今リンカネット帝国に狙われている国だ。ここが今防波堤となりギュネイ王国への侵略を防いでくれている。リクトは今まで怠惰な生活を送っていられたのもこの国があってこそと感謝し、この国を救う事にした。
「見つけた、あれが戦場だな。……よし」
リクトはフードを目深にかぶり互いの軍が争う上空に姿を見せた。
両軍が地に影を発見し、空を見上げた。
「な、なんだありゃ? 人か?」
「真っ赤なローブ……? 何者だ?」
リクトは顔を隠し空から叫んだ。
「リンカネット帝国兵に告ぐ。俺は今からお前たちに攻撃を加える。命が惜しい者は装備を捨てその場にひれ伏せ。わかりやすいようにもう一度言うぞ? 死にたくなかったら武器を捨てろ。今から十秒待つ。一、二……」
リクトはカウントを開始した。
「ふざけんなボケがぁっ! おい、弓兵! あのバカを撃ち落とせ!」
「おうよっ! おらっ!!」
リクトに向かい大量の弓矢が放たれた。
「無駄無駄。七、八……」
「なっ!? 弓矢が!? ま、魔導師かっ!!」
弓矢はリクトに当たる前に消えた。リクトは自分の前に無限収納の入口を開き、矢を全て回収したのだった。資源は大切にしないとな。
「九、十。終わりだ。【ジャッジメント】」
「「「「ぎあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
ジャッジメント。これはリクトが敵とみなした者のみを断罪する正義の雷である。武器を捨てる事のなかったリンカネット帝国兵は全て正義の雷をくらい絶命した。
この光景を目の当たりにしたバロン王国兵は全員唖然としたままその場で固まっていた。
「な、なんだ……今の? もしかして……戦は終わり?」
「そ、そうだ……! 勝った! 勝ったぞっ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」
劣勢だったバロン王国兵は突如現れた魔導師の加勢を受け勝利をおさめた。死を覚悟していたバロン王国兵たちは空に浮かぶリクトにむけ剣を掲げるのであった。
「さて……」
リクトはバロン王国兵を見た後ゆっくりと一番レベルの高い者の前へと降り立った。
「はじめまして。俺はリクト。ギュネイ王国からきた者だ」
「ギュネイ……王国? す、すると我らの加勢に? おぉっ、これはありがたい! 私は兵士長の【ドラクロス】だ。残りの加勢はいつ到着を?」
「残念だが加勢は俺だけだ。だが、俺だけいれば十分だろう」
「ひ、一人……だけ? 君はギュネイ王国の関係者か?」
「いや、ただの一国民だよ。ギュネイ王国は俺が来ている事すら知らんよ。真っ直ぐリンカネット帝国を潰しに向かう所だったのだがな、やめた。バロン王国を守りにきたのだ。今までよくリンカネット帝国の侵攻を防いでくれた。ありがとう」
そう言い、リクトは兵士長に頭を下げた。
「いや! 頭を上げてくれっ! 君が来てくれなければ私達は今頃死んでいたはずだっ! 空から見ただろう、私達の兵力を……。私達がバロン王国最後の兵力なのだよ……」
バロン王国兵は二千人弱しかいなかった。これまで度重なるリンカネット帝国からの侵攻を全力で防いでいたのだろう。
「そう言えば神盾や死神はいないのか? 今の戦いで見掛けなかったが……」
「ああ、その二人はもうリンカネット帝国の城から出る事はないさ。あの二人を出さずともリンカネット帝国の兵力は小国を飲み込むには十分だからね。っと、それよりだ。君に礼をしたい。すまないがバロン王国の主城まで足を運んでもらえないだろうか?」
「礼は……いや、行こう。ついでに傷ついた者たちを癒しにいこう。案内してもらえるかな?」
「か、回復魔法も使えるのか! す、すごいな君……」
「まぁ、修行したので」
リクトはバロン王国兵と共に王都へと向かった。どうやら町まで一度か二度攻め込まれていたらしく、町は酷い状況だった。
「……悲惨だろう?」
「ああ」
「これがリンカネット帝国のやり方なんだ。奴らは自分の国を大きくするためにはいくらでも他国に損害を与えるんだ。そして占領した後は放置する。傷ついた者たちは重税と徴兵でどんどん死んでいってるのさ」
「……酷い国だな。少し待っててもらえるか?」
リクトは町に溢れる傷病者たちを癒して回った。
「き、傷が……! ありがとうっありがとうっ!」
「あぁ、止めてくれっ! 治してもらっても俺らには治療費なんて払えないよっ!」
リクトは言った。
「治療費なんてとらないよ。傷ついたままだと生活するのも大変だろう? 無理するな。さあ、傷ついたみんなを集めてくれ! 全員タダで治療してあげよう!」
「「か、神か……! なんてお方だ……!」」
兵士長は止めろとは到底言い出せなかった。
「リクト殿、我々は先に王へと報告に行かねばならないのだ。後から必ず城に来て欲しい」
「ああ、これが終わったら必ず行くよ。足を止めさせて悪かったな」
「いや、こちらこそ……。我が国民を治療していただき感謝する……!」
兵士長は深々と頭を下げ、兵たちを引き連れ先に城へと戻るのであった。
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