第20話 決意

 俺は怠惰な生活を維持するためにはどうしたら良いか考えに考え、決意した。


「母さん、皆を集めてもらえる?」

「え? ええ」


 応接間に妻たち全員が集められた。


「リクト、集めたわよ?」

「うん、ありがとう母さん」


 俺は集まった皆に向けてこう宣言した。


「聞いてくれ。近々ここギュネイ王国が戦に巻き込まれるかもしれないらしい」

「「「い、戦!?」」」

「ああ」


 俺は先日きた王子らの話を妻たちにも話した。すると騎士団長が表情を歪めた。


「バロン王国が負けたら次はここ……か。確かにありえない話ではないな。リンカネット帝国はそう言う国だとこの大陸に住む者なら誰もが知っている話だ」


 俺は興味無かったから知らないのだが。


「騎士団長、正直な話だ。バロン王国とギュネイ王国、二つの国が手を組んだとして、リンカネット帝国に抗えると思うか?」


 騎士団長は首を横に振った。


「無理だ。今のリンカネット帝国は大国だ。小国二つが手を組んだとしても気休めにもならない」

「そうか。……戦に負けたら……お前たちも奪われてしまうかもしれないなぁ……」


 俺は妻と子らを見てそう呟いた。


「……やはり出るしかない……か」

「リクト殿……まさか……」


 俺は決意した。何があろうと怠惰な生活を確固たるものにするために。


「みんな、俺はリンカネット帝国を潰す」

「「「リクト!」」」

「考えはある。リンカネット帝国は重税と無理矢理徴兵で民からの信頼は地に落ちているはずだ。ここから腐っているのは国の頭だけと推測できる。ならば……頭さえ叩けば戦は回避出来るだろう?」


 それを聞きバカ王子が俺に言ってきた。


「それこそ無理な考えっすよ」

「何故だ?」

「そんな事今まで誰も思い付かないわけないでしょ? 大国になる前、同じ事を実行した国がいくつもありましたが……全て失敗に終わりましたよ」

「……ほう? 詳しく」

「なら納屋生活から解放してくれませんかね?」


 何か変な自信を得てんなこいつ。


「まぁ良いだろう。有益な話だったら母親と同じ部屋にしてやる。話せ」

「個室はくれないのかよ……。ま、まぁ良いや」


 王子は各国が何故負け続けていたか詳しく話し始めた。


「理由は簡単っす。リンカネット帝国には怪物がいるんっすよ」

「怪物?」

「そう怪物。それは全ての魔法を無効にする【神盾】と全ての命を刈り取る【死神】と呼ばれ、今やこの大陸中で恐れられているんっす。その二人が帝国を大きく絶対なる国にしたんっすよ」

「全ての魔法を無効……? そうか……」


 これは不味い。俺には魔法しかない。いきなり対抗手段が消えてしまった。


「この二人を何とかしない限りあの国には絶対勝てないんっすよ」

「……なるほどな。つまり、その二人さえ何とかすれば勝ちは転がり込んでくるって事だな」

「は? そりゃそうっすけど……。話聞いてました? あんたは魔法しか使えないんだろ? それじゃ神盾には絶対に勝てないって!」

「……だろうな。だが……勝てないから抗わないのは間違っている。何もしなければ勝ちすらないのだからな。俺は何もしないで奪われるのだけはごめんだ。この生活を守るために抗う」

「あんた……」


 王子は身震いしていた。最初は酷い扱いを受けたがそれは自業自得、玉座が欲しいがためだけに妹の命を狙った自分を初めて恥じた。そして王子はリクトにこう言った。


「ふ、ふんっ! 負けたらどうせ全部失うんだ。なら好きにすれば良いさっ。お前がいない間は俺がここを守っておいてやるよっ!」

「あ? 必要ない。お前より強い騎士団長もいるし」

「んなっ!? 違うだろ!? そこはありがとうだろうがっ! 全く……。さっさと行って殺されちまえっ!」

「……お前、無事に戻ったら泣かせるからな!」


 王子の頭に拳を落とし、俺は改めて皆を見た。


「……じゃあ……ちょっくら人助け行ってくるわ。留守の間この家をよろしく頼む!」

「「「「はいっ! あなたっ!」」」」


 この日の夜、俺は妻子たち全員と寝る事にした。これが最後になるかもしれないと妻たちは覚悟を決めていた。またリクト自信ももしかしたら最後になるのではと考えていた。

 夜明け前、微睡む意識の中に久しぶりに神が現れた。


《陸人、陸人よ……》

《ん? ああ、神様か。久しぶりですね》

《うむ、久しいのう。陸人よ今日はお前に話があってきたのじゃ》

《話?》

《うむ》


 神は髭を擦りながら俺を真っ直ぐ見ていた。


《陸人よ、いよいよ国を発つのじゃな?》

《……ええ。今動かないと大事なものを失ってしまうかもしれませんので》

《……ふむ。陸人よ、一つお前に知らせておこう。お前がこれから戦うであろう【神盾】と【死神】。この二人はお前と同じ国から召喚された者たちじゃ》

《……は?》


 俺は驚きを隠せなかった。


《知識が豊富なお前なら【勇者召喚】と言う言葉を耳にした事はあるじゃろう?》

《は、はぁ……》

《あの国は国民の魂を贄として二人の地球人をこの世界に召喚したのじゃ》

《そ、そんな事出来るのか!? しかも地球ってピンポイント過ぎじゃね!?》


 神は言った。


《地球には、しかも特に日本には異世界に行ってみたいと願う者が数多くいる。そのせいかチャンネルが合いやすいのじゃよ》

《チャンネル……》

《うむ。じゃがな、これは許されるべきではない。お前の魂をこの世界に落とした事は地球の神々とワシで話し合って決めたので問題はない。じゃが、勇者召喚は別じゃ。これで地球の神々が怒り狂っていてのう……》


 地球にも神はいたのか……。驚愕の事実だ。


《そこでじゃ、お前に新たなスキルを授ける》

《スキル?》

《うむ。これから与えるスキルはこうした神々の意図を無視した魂や肉体の転移をあるべき姿に戻すスキルじゃ。まずは【洗脳状態解除】。おそらく召喚された者たちは自分の意思を何らかの方法で封印されておる。まずはこれを使い人格を取り戻すのじゃ》

《はい》


 神はそのまま話を続けた。


《うむ。次にスキル【帰還】じゃ。これは召喚された勇者らのスキルを奪い、元いた世界に戻してやるスキルじゃ》

《スキルを奪う?》

《うむ。スキル持ちで地球に帰すわけにはいかぬでな。過ぎた力は不幸を生む。ましてや魔法やスキルのない地球では尚更な。じゃからそれを取り除いて帰すのじゃ》

《……奪ったスキルは?》

《お前のものになる。お前はこの世界に転生しておるでな。地球には帰れん。じゃからいくらスキルを持っていようが問題はない。人々を救うためには力が必要じゃ。陸人よ、この二つのスキルを使いこの世界と召喚された者を救うのじゃ。そうしないと……地球の神々にワシが怒られてしまうでのう……》


 最後のが本音っぽいな。


《陸人よ、くれぐれも頼むぞ? ではまた会おう》


 そう言い残し、神は消えた。

 そして翌朝、いよいよ旅立ちの時がやってきた。


「じゃあサクッと解決してくるわ」

「リクト? 何か自信に満ち溢れてない?」

「ああ。俺に負けはなくなったからね。さっさと終わらせて帰ってくるよ」


 そう言い、俺は空へと浮かび上がった。


「気をつけてねっ! リクト!」

「ああ、任せろっ! じゃあ行ってくる!」

「「「「頑張ってねっ!!」」」」


 こうして俺は怠惰な生活を守るためにリンカネット帝国へと向かい空を駆けるのであった。

 

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