第5話 怠惰な生活の幕開け

 家の家具を一新した俺はついに最高の環境を獲得した。これで異世界でも怠惰な生活を満喫する事ができる。

 異世界に来て改めて思ったが、異世界には実に娯楽が少ない。なのでやることは自ずと限られてくる。


「ごめんねリクト……。母さんしばらくしてあげられないの……」

「……まさか……母さん……」

「うん、避妊魔法忘れちゃった……。今一ヶ月よ」

「絶対わざとだっ! ……でもまぁ良いや。そっか……俺と母さんの子かぁ~」

「嬉しい?」

「そりゃもう! 一緒に育てようね、母さん!」

「リクト……!」


 怠惰な生活はいきなり頓挫してしまった。これからのんびりと母を抱いて過ごそうとした俺は大きくなった村に相手を探しに出掛けた。大半の他人妻は公衆浴場で抱いた。なので皆俺を見かけると誘ってくるのだ。


「リクトく~ん! お母さん妊娠させちゃったんだって?」

「ええまぁ、なんか避妊し忘れたみたいで……」

「あらまぁ~。それじゃしばらくできないのね。……たまってない?」

「う~ん……少しだけ」


 それを聞いた他人妻が俺の腕に抱きつき誘ってきた。


「今朝早くから家の旦那仕事で王都行ったのよ。昨夜たっぷりしたけど避妊してたのよね~。旦那はしらないけど」

「は? はい?」


 俺はズルズルと家の中に引きずられていき、


「だからぁ……、今なら私の事も孕ませちゃっても旦那にはバレないわよ?」

「なっ!? さすがにそれは……」

「あなたがいけないのよ……。まだ成人したばかりなのに……旦那より良いもの持ってるからっ! いっただっきまぁ~す!」

「あっ……!」


 それはもう美味しく召し上がられた。


「ふふっ、なんだかんだ言いながら……他人妻の中にこ~んなにたっぷり……。悪い子ねぇ~……」

「いやいや、上に乗られてちゃどうにもならないし!?」

「嫌なら退かせば良いだけでしょう? なのにまだこんなにして……。まだイケる?」

「……本当に妊娠しちゃいますよ?」

「構わないわ」


 そう笑い女は柔らかい塊を押し付けながら俺に身を寄せ、耳元でこう囁いた。


「あなたの赤ちゃん……欲しいなぁ……。妊娠……させて? やぁん、そんな反応させちゃだめよぉ? 私は……他の人の妻なんだからぁっ……」

「知るかぁぁっ! どんどんいってやるっ!」

「やんっ激し……!」


 それから半月後、彼女の旦那が王都からの帰り道で盗賊に襲われ命を落とした。普通なら悲しむものだが、彼女は一切悲しむ事なく、今日も俺の家で元気に暮らしている。


「リクトったら……、いつの間に新しい相手を……」

「あら、お母さんは知らないのね? 村到着した大半の女はリクトの味を知ってるわよ?」

「へぇ~……。リクト~?」

「ち、違うんだよ母さんっ! あれは無理矢理……」

「リクト!」

「は、はい!」


 母は俺の肩に手を置き問い掛けた。


「一番は私よね?」

「も、勿論だよ! 一番多く抱いたのも母さんだしっ! 一番最初に妊娠したのも母さんだからっ!」

「そうよね……、ふふっ。なら良いわ」


 この世界は一夫一妻制ではない。力や地位に限らず、生活に余力があるなら何人妻を娶っても構わないのだ。つまり、妻を多く持つ者ほど成功者と言うわけなのである。

 酷い話だと思うかもしれないがこれもこの世界の仕組みのせいだ。一夫一妻制ではこの危険な世界では出生率が足りなすぎるのだ。

 人間対魔物、人間対悪人、人間対人間。人の命はこの世界では軽すぎるのだった。


「あ、でも……リクトくんってそんな生活に余裕あるの?」

「え? まぁ……そこそこね」

「そかそか。……リクトくんっ、これからお世話になりますっ!」

「いやいや、こちらこそ」


 彼女が引っ越してきた日の夜、再び夢に神様が現れた。


《またですか、神様……。俺今回は誰も救ってないですよ?》

《何を言うか。お前は立派に数々の命を救ったのだぞ》

《は、はい?》


 神曰く、どうやら俺が彼女に関わらなかった場合、彼女は旦那の死を深く嘆き悲しみ、精神を病み、村中で暴れまわり、いくつもの命を奪った後、最後は自害していたのだそうだ。


《あ、あぶねぇ~……》

《うむ。回りを巻き込む事もそうじゃが……、自害は一番罪が重いのじゃ。自害はこれまで積み重ねてきた徳を全て打ち消し、尚且つ数代先の輪廻にまで影響を及ぼすのじゃ。お前は彼女と関わった事でその悲しい未来を全て消し去ったのじゃ。誇ってもよいぞ、田中 陸人よ》

《は、はぁ……》


 あまり誇ってもなぁ……。抱いて孕ませただけだしな……。


《では新たな力を授けよう。田中 陸人よ、この調子で我が世界を頼むぞ……。では去らばじゃ》


 そしてまた俺は朝目を覚ます。


「なぁ、神よ……。人助けってこんなんで良いのか? しっかしまぁ……」


 俺は隣で眠る彼女を見ながら頭を撫でてやった。


「ん……ふふふっ……」

「こいつは……。まさかこいつがそんなサイコパスだったとはなぁ……。ま、とりあえずそんな不幸な未来を回避できたって事で……これで良かったのかもしれないなぁ……」


 俺は新たに手に入れたスキルの事も忘れ二人の妻の寝顔を眺めるのであった。

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