第47話 夕暮れの道

 街で別れた時、ユシパは少しだけ、スッキリとした顔をしていた。


「あたし、リリィと一緒にサーニャの宿で暮らすことに決めたんです。

 ——あの庭を守りたいから」


 まぶたは真っ赤に腫れていたが、そう言った顔は笑顔だった。


 手を振ってユシパたちと別れると、アトイとロトルの二人だけとなり、二人は口を閉じ、宿までの帰り道を黙々と歩いた。


 風のような足音が響き、それがいっそう静けさを深める。


 しかし、やがて、ロトルがふっとアトイを見上げた。


「アトイ……」

「……なんだ?」


 アトイが尋ねると、ロトルは唇を結び、再び目線を足先へと向けた。


 夕暮れの光が、二人の影を細く伸ばしていた。


 静寂に支配された時がしばし続いたが、それを打ち消すかのように、深く息を吸う音が聞こえると、足先を見つめながら、ロトルが喉から押し出すように言った。


「……私、アトイについて行ってもいいかな?アトイと一緒にいていい?」


 頭巾に隠れ、ロトルの顔は見えなかった。

 しかし、今ロトルがどんな顔をしているのか、頭巾を透けて、アトイには解る気がした。


 やがて、ゆっくり口を開くと、アトイは静かに言った。


「お前が……」


 そこで口を閉じ、しばらく黙り込んだ。


 しかし、もう一度口を開くと、今度は最後まで言葉を紡いだ。


「……お前が、そうしたいならばそうすればいい……俺がとやかく言うことじゃないからな」


 そう言うと、ロトルが隣で吹き出した。


 アトイは眉をしかめ、不機嫌そうに尋ねた。


「なんだ……?」

「いや……ふふ、同じようなこと言うんだなって」

「?なんだよ?」


 訳がわからないアトイを置いて、ロトルはひとしきり笑うと、軽やかに夕暮れの煉瓦畳を打ち鳴らした。

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