第25話 鎮魂詩
春らしい優し気な風が吹き、隣で歩く
あの
歩きながら、ネロがワッカの街を、ちょっとした情報を添えながら紹介していくと、
後ろからは
ネロ自身も、未だに
しばらくそうして歩くと、突然、
そして、龍と
<
( そうか…… )
ネロは唐突に理解した。
「
「におい?」
ネロは頷き、道を指しながら説明した。
「この道を曲がって歩いた先に、例の出来事が起こった場所があります。
ウェンは消えましたが、おそらくまだウェンの悪しき気配が
「ああ……」
何か思い当たることがあるのか、
「そうですか……あなた方<
ネロは閉口し、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「いえ……お許しください。私の知り合いに、そういった言い回しをする者がいたので……つい私も口にしてしまったのです」
ネロが手を組み、頭を下げると、
「そう畏まらずに
そう言って、
「そう……この先ですか」
小さくつぶやくと、
キラキラと光の粒が舞う。
龍は大きく頭をもたげると、体をくねらせ、そして、天へと昇っていってしまった。
小さくなっていく龍の姿を、ネロは呆然と見送りつぶやいた。
「……よろしいのですか?」
「ええ、あの子には帰るときにまた迎えに来てもらうこととします。ワッカの街にあの子の体は大きすぎますし……それに、あの子をここに置いていくわけにはいかないでしょう」
そう言うと、
「あなた方は
「畏れながら申し上げます!これ以上セト様が悪しき淀みにお近づきになれば、
頭を下げる神官を、
「いいえ……私は参ります」
「セト様!」
神官たちは焦ったように身を乗り出し、何とか思いとどまってくれるよう
頑として聞かない
「
ネロは決して、あの惨劇の跡を
神聖な
あそこにはまだウェンの爪痕が生々しく残ったままだ。
半壊した建物の取り壊しもまだすんでいないうえに、こびり付いた血痕もまだ完全には消えていない。
あのような惨たらしい跡を、清らかな
「いいえ、ネロ。私は知るためにここに参上したのです。決してあなたの話を聞くためだけにここに参ったのではありません。話を聞くだけならば、あなたを<
しかし、私はここに参りました。
それは、しかとこの目で見るため。己の目で見て、初めて知ることが出来るのです」
水底のような瞳の奥に、なにか激しいものが、確かな光を放っていた。
ネロは半ば口を開け、
( ……このお方はあたしが思っているよりも、ずっと『王』で有らせられるのかもしれない )
決して偶像などではないのだ。
意思のようなものを目にした瞬間、不思議と
もうネロが言うことは何もなかった。
やがて、あくまで意見を変えない
「なんと惨い……」
ゆっくりと腰をおり、破壊された壁に飛び散った血の跡へと、
ネロはその骨ばった白い手首を、がしっとつかんだ。
はっと我に返ったように、
その顔には、まるで己が傷つけられたかのような、痛ましさが浮かんでいた。
眉を
「ご無礼をお許しください……どうかこれ以上は……」
唸るようにそう言葉を切り、ネロは頭を振った。
やがて、
その姿を見て、誰もがこの時、自然と胸に手を当て、目を閉じ、無念にも天へと召された友人や家族の安寧を願い、祈りをささげた。
そして、果実が柔らかな草の上に落ちるように、そっと小さく息吹くと、
——泣くな、泣くな、どうか我らを
祈りをささげよう其方のために。祈りは鳥になり、其方を連れてゆくだろう。
我らは語り継ごう、其方がここにいたことを。
泣くな、泣くな、どうか我らを愁うなかれ……
遠く、透き通るような祈りが紡がれ、光となり、そして蝶となった。
蝶はひらひらと舞い、天へとのぼると、美しく天上を照らす陽の一部となった。
「……これは、私が亡き祖母から授かった死者の安寧を願う祈りの詩です」
「私はこの歌がとても好きでした……どうか、苦しんだ人々に安寧を」
そう唱えると、再び瞼を閉じ、
そして目を開けると、ネロに向き直った。
「ネロ。どうか私にお聞かせください……何があったのかを」
射貫くような、強い眼差しだった。
ネロは静かに頷くと、低い声でつぶやくように語り始めた。
駆け付けた時の街の様子やウェンの様子、<
—— そして己が目にした、目を覆いたくなるような惨たらしい光景も含めて、できる限り細かく、
それが、命を失った者たちに、安寧を届けてくださった、
ネロが語り終えると、
長い金色のまつげを伏せ、じっと何かを考えるように、黒ずんだ血痕を見つめると、やがて、
「……これほどの災厄をもたらすウェンとは……いったい何なのでしょうね……」
しかし、その問いかけは
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