プロローグ
第0話
ここは<
人々は大地をとどろかす産声を上げたとき、神から祝福を授かる。
その祝福の名は<
——<
人々は授かった大いなる祝福とともに、時に笑い、時に泣き、幸福や悲しみ、嬉しさや寂しさ、そういったものが当たり前に存在する世界で身を寄せ合っていた。
そこに一人、身を削るように泣いている男がいた。
地面にうずくまり、体を震わせ、荒い呼吸を繰り返す。
どうしようもない寂しさと悲しみに自分の体をひたすら掻き抱いてむせび泣いていた。
「殺してくれ!俺を殺せ!」
耳を割くような悲痛な叫びが、あたりに響き渡り、聞く者の肌を
どす黒い涙が、男の頬に、いくつもいくつも線を描いていく。
悔しさに地面を引っ掻くその爪ははがれかけ、血がにじんでいる。
——しかし、ひとり……ただひとり、その女だけは違っていた。
まっすぐ、ただひたすらまっすぐに男を見つめていた。
一歩、また一歩と地をしっかりと強く踏みつけ、足を繰り出していく。
黒い、黒い絶望が蛇のようにうねり、彼女はあっという間に絶望に飲み込まれた。
白い皮膚がさけ、真っ赤な血が放射状に飛び散り、びしゃりと地に音をならして落ちた。
しかし、それでも彼女は歩みをとめなかった。
無数の黒い手が男の背から伸び、彼女の体を貫いた。
ぽっかりとした空洞が彼女の腹にあき、かけた内臓が地に落ちた。
風がびゅうびゅうと穴を吹き抜け、滝のように流れる血が白い衣を赤く染め上げていく。
しかし、それでも彼女は歩みをとめなかった。
ぜひゅぅぜひゅぅと血でからむ息をはきだし、何度も貫かれ体に穴をあけようが、切り裂かれ指がもげようが彼女はとまらなかった。
少しずつ、少しずつ前へ前へと重い足を繰り出す。
目はかすみ、ほとんど何も見えなかった。
できることならば意識を手放してしまいたかった。
自分の命が血となって流れ落ちていくのを感じる。
遠のきそうになる意識を必死に手繰り寄せながら、彼女は一歩、また一歩と地を踏みしめ、膝でそれを受け止めた。
——そして彼女はついに、うずくまる男の前に立った。
うずくまる男と彼女の目が
まるで、そうして何かを語りあっているかのようだ。
女はすでに
それでも、小指と薬指のかけた左手で、グッと
彼女は笑顔だった。
その
その微笑みのまま、左腕を振り上げた。
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