18 四つ目の鍵
どれくらいの空白の時間が過ぎただろう。顔を上げれば、笑顔の三人がそこにいるとどうしても信じてしまう。ロン、ケネス、ゴドウィン……会いたい。でも、怖くて顔を上げることができない。
「悪かったな。巻き込んじまって」
ジェラードの声がした。その瞬間、ミランダは
「ねえ、火事って? 事故ってなんのこと? なんでケネスはあんな風に。どうしてロンが、ゴドウィンが、あんな風に消えなくちゃならなかったの!」
目と鼻の間が詰まっている。喉は焼けたように息苦しい。全身に粘度の高い熱い液体が巡るよう。体外に出せば楽になるはずだが、吐き出し方が分からない。
「どうして……どうしてこんなに悲しいのに、涙が出ないのよ……」
「性格や感情を受け継いでいるからだろう。異世界で対になる者のな」
思いがけない答えに、ミランダは息を止めてゆっくり顔を上げる。ジェラードは片膝を立てて、木の幹に身体を預けている。無愛想というよりは、生気のないやつれた顔をしていた。
「鍵に触れたとき、お前も異世界の光景を見るだろう。あの現象はお前だけじゃない。俺もケネスも同じ。おそらくこの世界で生きているすべての者に起こる。鍵は、鍵に触れた者と異世界で対になる者にまつわる光景を見せるんだろう」
「異世界で、対になる者?」
「鍵に触れたときに見る映像には、いつも同じ人物が映っているだろ。そいつのことだ」
ミランダにとっては、真波という少女のことだろう。「俺は寺口琉大、ケネスは羽田健人という男がそうだった。二人は幼いころから親友で、同じ夢を目指して必死に努力してきた。でも、夢が叶う目前、健人は交通事故に遭い、夢を諦めざるを得なかった。道路にとび出したネロと洸大を助けようとして、羽田だけが怪我をしたんだ。ネロはロン、洸大はゴドウィンと対になる者で、俺の飼い犬と弟だった」
ゴドウィンがジェラードの弟だったということだろうか。ジェラードの話を頭の中で文字に起こしていくように必死に聞き取ろうとするが、文字は宙に浮くだけでまったく飲み込めない。
「健人は穏やかな性格だったから表には出さなかったが、酷くネロと洸大を恨んでたんだろう。ある日、ネロと洸大をバッドで何度も殴るほど。だからケネスはすべての鍵に触れたとき、同じようにネロとゴドウィンを攻撃したんだ」
「ちょっと待ってよ」
ミランダは耐えきれず口を挟んだ。「異世界で対になる者がそうだったからって、なんでロンとゴドウィンが消されなくちゃならなかったの? そもそも対になる者とか、異世界って何? どうして鍵に触れるとそんなものが見えるの? 異世界と私たちは、どう関係してるっていうの?」
ジェラードはミランダの手元に何かを投げた。
「お前にとっての最後の鍵だ。別に裏切ろうと思って隠し持っていたわけじゃない。それに触れたら、すべて分かるだろ。お前が泣けない理由とやらも」
光が波打つようにキラキラと輝く、透明な鍵。
ミランダは息をのんだ。恐る恐る、鍵に手を伸ばして触れる。
キーンという、呼吸が止まるほどの耳鳴り、脳内を走る強風。それは、三つの鍵に触れたときの今までの衝撃よりもはるかに大きい。
ミランダは目を見開いた。そこにはまた、異世界の光景が広がっていた。
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