第3話:胸の大きな美少女エルフ・リーリエ
「落ち着いたか?」
「はい……なんとか」
連続ポージングの甲斐あって、少女はなんとか落ち着いた。いやもっと他のやり方あっただろと思わんでもないがしゃーなし。世の中ノリと勢いが大事な場面だってあるのだ。
少女が息を整えたところで、俺達は向かい合う形で近くにあった岩の上に腰を下ろしていた。
「あー……色々聞きたい事はあるけどまずは自己紹介からだな。俺の名前は武蔵だ、君は?」
「ムサシさん、ですか。私はリーリエっていいます。《ミーティン》を拠点に活動している《スレイヤー》なんですけど」
オゥ、早速知らない単語が二つほど出てきたな。聞き返さざるを得ない。
「えっとぉ……ちょっと聞かせて貰いたいんだがその――」
「あの!!」
「ハイッ!?」
座り込んでいた彼女が突然立ち上がりこちらにずいっと顔を近づけてきた。ちょっ、近い! 近いっす! 風に乗ってすげえいい匂いがする!!
「私と! パーティーを組んでくれませんか!?」
「――は?」
「いきなりで不躾だとは思います! でも、ミーティンでパーティーを組んでくれる人がいなくて、私もう後が――」
「待て、待て! 落ち着きたまえよキミィ!」
折角平静を取り戻したと思ったら再び興奮し始めた少女をなんとか宥める。よく分からんがとりあえず仕切り直しだ。
「あ……ごめんなさい、いきなりこんな」
「いや、いい。君が何かを俺に頼みたいってのは分かった。でも、その前にこっちから質問させてくれ……まずそのミーティンとスレイヤーってのはなんぞ?」
「えっ? それって……どういう?」
少女――リーリエが困惑した顔で俺を見ているが、残念ながらずっと山に籠っていた俺にはこの世界の知識などほとんど無い。
しかしどうしたものか。馬鹿正直に「俺、実は別の世界からやってきたから何もかも分からないんだよね」とか言ったら頭がかわいそうな奴認定されそうだ。
少し考えた末……俺は、適当な言い分を考えた。
「あーすまんな。実は俺、物心ついた頃からずっとこの山で暮らしてたから、ここで暮らすのに必要な知識以外何も知らないんだ」
「ええっ! そうなんですか!?」
「おう。自分以外の人間に出会ったのもリーリエが初めてだぞ」
「そ、そうですか」
腑に落ちないような表情をしながらも、リーリエは納得してくれたようだ。もっとマシな理由があったかもしれないが、まぁいいだろう。
今の俺には知らない事が多すぎるので、少しでも情報が欲しい。せっかく初めて異世界人に出会ったんだ、聞ける事は聞いておきたい。
「えっと、じゃあムサシさんが気になった事について話しますね。まずミーティンっていうのは、ここから馬車で二日ほど行った所にある街の名前です」
「街! 大きいのか?」
「そうですね。この地方では一番大きな街だと思います。それとスレイヤーというのは《ギルド》という組織に属して、そこで受けられる《クエスト》っていう様々な依頼を請け負うことで生計を立てている者の事を指します。クエストの内容は様々ですが、花形と呼ばれるクエストはやっぱりドラゴンの討伐ですね」
「なるほど、大体分かった。ちなみにドラゴンってのはさっき俺が仕留めたアイツみたいなヤツの事でいいのか?」
俺が親指で後ろに転がっているアイツの事を指さすと、リーリエはこくんと頷く。
「はい、そうです。でも驚きました、単独でヴェルドラを討伐したのでてっきり高名なスレイヤーの方かと……」
高名なスレイヤーだったらこんな見てくれはしていないんじゃないかというツッコミは置いておいて。
「アイツはヴェルドラって名前なのか、全く知らんかった」
「はい、【碧鋭殻竜】とも言いまして……本来なら赤等級以上のスレイヤーが複数人で討伐する相手ですよ。この〝魔の山〟自体スレイヤーでも上位じゃ無い限りまず近寄らないので討伐例はあまり多くありませんけど」
魔の山。シンプルながらも〝ヤベーぞ〟って空気が伝わる名前だ、ここは随分と物々しい場所だったんだな。道理で十年の間人っ子一人見つからんかった訳だ。
「はい先生、赤等級ってなんぞ?」
「ああ、えっと……スレイヤーはその実力によってギルドが決めた五つの等級に分けられるんです。下から白・黄・赤・青・紫の五つがあって、自分の等級によっては受けられるクエストに制限がかかるんですよ」
「受けるクエストの難易度によって要求される等級が変わるって事か」
「お察しの通りです」
頷くリーリエを見て、俺は人と会話する時の思考力が落ちていない事に今更ながら安堵した。
うーん、しかし聞けば聞くほどファンタジーだな。改めてこの世界は地球とは全く別の世界なんだと実感させられる。
割かしすんなり理解できるのは多分中学高校と一緒だった親友(オタクくん)のお陰だな、元気してっかなアイツ。
「で、君が俺を誘ったパーティーっていうのは一つのクエストを複数のスレイヤーで受ける時の形態って事で合ってる?」
「はい。でも、ムサシさんはスレイヤーじゃないんですもんね……」
しょんぼりと肩を落とすリーリエを見て、うっと俺は言葉に詰まる。
あのね、正直に言うと俺は他の誰かが落ち込んだりガッカリしているのを見るのが好きじゃないのよ。という訳で、俺は一つ決心をする。そりゃあもう、軽いノリで。
「質問なんだが、そのスレイヤーってのは俺でもなれるの?」
「え? そうですね……碧鋭殻竜を一人で討伐出来るくらいですから実力的には何の問題も無いと思います」
「よっしゃ、じゃあ俺スレイヤーになるわ! そんで君とパーティー組んだる」
「えぇっ!? い、いいんですか?」
「おう。ここで会ったのも何かの縁だしな。その代わりと言っちゃなんだけど、人里で生きていけるだけの一般常識やらその他諸々を教えてくれ」
「は、はい! よろしくお願いします!」
パッと顔を上げて俺が差し出した手を握ってブンブンと振る姿は年相応って感じだな。我武者羅に生きて三十手前のおっさんになってしまった俺にはその笑顔がやたら眩しく見えた。
「どれ、じゃあ下山する前に一旦拠点に戻って持ってける物は持ってくか。あぁ、それと一応アイツ解体(バラ)して素材と肉も持ってこう」
「そうですね。碧鋭殻竜(ヴェルドラ)の素材ならギルドで換金すればかなりの値が付くでしょうし、武具の素材にもなりますよ」
「いいねぇ、じゃあさっそく取りかかろうか」
「あっ、待ってください。今マジックポーチの容量を空けるので」
「マ、マジックポーチ……」
「? はい、流石に全部担いで運ぶわけにはいかないでしょう?」
すんません、全部背負って持ってくつもりでした。多分なんでも入るんだろうな。そうなんだろうなぁ。
「そういえば、なんでリーリエは碧鋭殻竜(ヴェルドラ)に追い回されてたんだ?」
「あ……その……薬草集めのクエストを受けてたんですけど、いつの間にか迷子になっちゃって……気がついたら魔の山に入り込んじゃってたんです、よね」
「そ、そうか」
……なんかこの子、目を離したら駄目な気がしてきた。
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