Ⅴ のび太さんによろしく
さて、そうして女子達が極上露天風呂を満喫していたその時、新たに「秘鍵乃湯」の暖簾を潜る一つの人影があった……。
「――うい~……宴会前からだいぶ飲んじまったぜ。酔い覚ましに一っ風呂浴びさせてもらうぜ」
食料貯蔵庫に忍び込み、有翼総統ハーゲンティの造ったワインを盗み飲んでいたリュカである。
「けっこう飲んだから足りなくなっちまったかなあ……ま、あのワインが旨すぎたのと周りにツマミがいっぱいあったのがいけねえんだ。あの悪魔野郎、もっと造れっていったのに言うこと聞かずに消えちまったしな……男湯はこっちか……」
ご機嫌な様子でぶつくさ独り言を口にしながら、無論、右側の「男
「……んん? なんか騒がしいな。女湯の方か……ま、こっちはまだ誰も入ってねえみてえだし、男湯は俺が一番風呂かな……」
浴場の方からはキャピキャピとした女子二人のはしゃぎ騒ぐ声が聞こえてくるが、こちらの脱衣場には脱いだ衣服の入った籠はない。
その様子にまだ男湯には誰もいないものと判断し、粗野に衣服を脱ぎ捨てたリュカは、千鳥足で浴場へと向かう。
「さあて、お頭はどんな風呂作ったんだあ? ……あ、露天風呂って言ってたし、ワイン持ってきて飲みなが入いりゃあ風情があってよかったな。あの温泉玉子もツマミになるし……」
そして、仕切りの布を捲り上げ、酔い覚ましに来たとは思えない戯事を口走りつつ浴場へ足を踏み入れたのであったが。
「ヒュ~…こいつはまた豪勢な風呂だなあ……あん?」
露天風呂の見事な出来にやはり目を見張るリュカであるが、視界に入った
「…………ひぃ…」
「アイヤー!」
他方、裸体の少女二人の大きく見開かれた瞳には、一糸纏わぬリュカの引き締まった裸体がありのままに映っている……しかも、股間を遮るものも何もない。
じつは、入口と脱衣場はちゃんと男女別になっていたのであるが、その先の浴場は一つだけで分れていなかったのだ。
造形や演出はこんなにも凝っているというのに、そこにはまったく気づかなかったという、マルク、痛恨の設計ミス。
「なんだ、混浴だったのかよ……よお! 湯加減はどうだ?」
だが、酒が入っているせいもあり、全裸の女子二人を見てもなんら動じることなく、リュカは隠すものも隠さずに彼女達のもとへ堂々と歩み寄って行く。
「オオカミネ。リュカが人狼じゃなくオオカミになったネ……」
「……き、キャァァァァーっ! ゴリアテちゃぁぁぁーん!」
そんな、最早、変態としか思えない行動をとる仲間に対し、露華は白い眼で彼を見つめ、マリアンネは発展途上の胸を両の腕で覆いながら、思いっきり悲鳴をあげるとともに自らのゴーレムの名を大声で叫ぶ。
「オオオオオオ…!」
すると、それまで浴場の傍らで神話の英雄のようなポーズをとっていたゴリアテが、低い唸り声を発しながらその巨体を動かし始める。
「あん? ハハハ…なんだゴリアテ、その恰好は? ああ、そうか! 宴会の出し物かなん…うごぉあああぁぁぁ~っ…!」
そして、その岩よりも硬い大きな拳を繰り出すと、状況を理解できていないリュカを容赦なく殴り飛ばした。
遥か空の彼方までぶっ飛ばされたリュカは、そのままキラリと光って姿を消す。
「もお! リュカちゃんがあんな変態だなんて思わなかったよ!」
「男は所詮、みんなオオカミネ……」
そんなお星さまになったリュカを見送ると、女子二人は文句を口にしつつ、再び
しかし、浴場が一つであることなどは露とも知らず、温泉を使
いに来る者はリュカ一人ではなかった……。
「――うむ。良い汗をかいた。やはり、こんな時には風呂が一番だな…モゴモゴ……このタマゴも空いた小腹にちょうどよい」
「はい、宴の前にさっぱりしておきたいですしね…もぐもぐ……このタマゴ、美味しいですけど、なんで殻が黒いんですかね?」
それは、先程まで剣の稽古をしていたドン・キホルテスと、彼を温泉へ誘いに行ったサウロの主従コンビである。
「あ、これはリュカさんの……リュカさんも入りに来たみたいですね」
「左様か。では、男三人、裸の付き合いと参ろうぞ」
無論、男側の脱衣場に入ったサウロとキホルテスは、その場に脱ぎ捨ててあった彼の衣服にそう思い込む……最早、空の彼方へ殴り飛ばされた後などとは知る由もない。
「なんか露華とマリアンネの声もしますね。二人も女湯の方に入ってるみたいです」
「なんだ。けっきょく皆一緒になったか。やはり似た者同士の集まった海賊の一味。考えることは同じのようだの。ハハハハハ…」
浴場から聞こえてくる女子達の声にも気づくが、やはり中が繋がっているなどとは思いもよらず、自分達も裸になると仲よく談笑しながら浴場へと進む。
「……ん? なんと! なぜ男湯に
「……え、え、な、なんで? 男女別じゃなかったの!?」
当然、そこにいた生まれたままの姿である女子二人が目に入ると、ドン・キホルテスはわずかながらにも驚きを見せ、サウロの方は顔面蒼白に慌てふためく。
「ドンキちゃん、サウロちゃん……あなた達までぇ……」
「オオカミなのはリュカだけじゃなかったネ……」
対して、咄嗟に泡の中に身を隠したマリアンネは鋭い目つきで二人を睨みつけ、すばやくミニスカ辰国ドレスの如くタオルを幼児体形に巻きつけた露華は、やはり白い眼を全裸の男達に対して向ける。
「ち、違うんだ! ご、誤解だよ! てっきり男女別だと思って……」
「なーに、ご安心召され両ご婦人方。それがしは
その突き刺すような痛い視線に、両手で股間を覆うサウロはふるふると顔を振って必死に弁明をするが、ちょっと天然の入ったキホルテスは仁王立ちに全裸で胸を張ると、なんだかわけのわからないことを自慢げに語って高笑いをあげる。
「…くっ……ゴリアテちゃん、お願い……」
「変態には鉄拳制裁ネ!」
もちろん、それで彼らが許されるはずもなく、眼の据わったマリアンネはオブジェに戻っていたゴーレムを再び呼び寄せ、露華はポキポキと拳を鳴らしている。
「ま、待ってくれ! は、話せばわかる! 君らの裸を覗こうなんて気はさらさら……あ、いや、別にまだこどもっぽいだとか、女性的魅力がないとかそういう意味ではなくて……」
「ま、互いに裸を見せ合っているゆえ、これでおあいこというもの。ここは混浴露天風呂。裸の付き合いで我らの絆をより強めようぞ。ハハハハハハ…!」
計り知れない殺意を感じ、しどろもどろに誤解を解こうとするサウロは余計火に油を注ぎ、相変わらず空気読めないキホルテスはますます彼女らの逆鱗に触れまくる。
「ゴリアテちゃん!
「さあ、オマエの罪を数えるネっ!」
次の瞬間、ゴリアテの巨大な拳が全裸で高笑いするキホルテスに炸裂し、露華の繰り出す殴打と蹴りが雨霰の如くサウロに降り注ぐ。
「何故ぞぉぉぉぉ~っ…!」
「ぶごはぁぁぁぁ~…!」
先刻のリュカ同様、素っ裸の騎士主従二人も南国の空高くぶっ飛ばされると、遥か天の彼方でキラリと光って消え失せた。
「もう、ほんと男どもはどいつもこいつも……」
「オオカミになる男は
ようやく平穏を取り戻した古代イスカンドリア風の露天風呂で、無慈悲な女子二人はなおもぶつくさ口にしつつ、改めてゆったりとラグジュアリーな
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