記事 3



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 昭和のドヤ街然とした街並みの残る××区○○町二丁目にて身元不明の変死体が発見された。普段からあまり治安のよい街とはいえない印象を受ける二丁目内は雑然とした呑み屋や粗末な長屋家屋などが建ち並び、今も格安で寝泊まりのできる簡易宿が軒を連ねている。

 場所柄、余所で行き場のなくした人々の逃げ場所としての機能も有しており、一般的な人々には足の踏み入れ難い地区かもしれない。

 さて遺体発見現場であるが、場所は簡易宿『×××荘』の二階に位置する一室であると推測される。警察による厳重な報道規制の中を掻い潜り入手した情報によると発見当時の事件現場は想像を絶する光景だったという。

 今回発見された変死体はどうやら、昨今話題に上っている通称〝禍文字事件〟の実質的な犯人ではないかと噂されている。それも、発見された遺体の全身には鋭利な刃物によって文字が刻まれており、その内容が自身の犯罪行為の告白、および犯人でないと知り得ない情報が書き込まれていたからである。

 なお、直接の死因は自らの手で首を絞めた頸部圧迫による窒息死とされている。つまり、罪の償いとして自殺に及んだのではないかということらしい。

 また、ある筋の情報によると発見された変死体は両性具有者であったと言う。これは、一つの肉体に男性器と女性器を併せ持った奇形の一種である。これまでの事件の異様性から鑑みるに自身の性別に関するコンプレックスによるところが犯行の動機であったのではないかと推測される。

 事件当時からひと月ほど経過しているが、遺体の身元は今も特定できていないらしい。この点は、犯人が両性具有者であるという蓋然性を強めているのではないか? というのも、両性具有という奇形を抱えているがゆえに、適切な医療機関を利用できなかった/しなかった。あるいは、その特殊な身体を公けにしないために自身の身分を偽っていた可能性が考えられるからだ。

 それにしても、これが連続する〝禍文字事件〟の犯人による自殺だったとすれば、今なお各所で発見され続けている同一の変死体をどう説明したらよいのだろうか? いたずらに警察の捜査を撹乱する模倣による自殺とも考えられるが、はたして自らの手で首を絞めて自殺に至れるかは疑わしい。

 ともあれ、事件は収束するどころか加速の一途をたどっているようだ。○○町二丁目で発見された変死体が犯人にしろそうでないにしろ、その状況の特異性から視て全体の事件のターニングポイントであることは間違いないだろう。この一件によって〝禍文字事件〟の名は日本全国に轟き、この一件で発見された変死体を神格化する熱狂的信者然とした輩も増えている。事件発生現場も日本各地へと拡散しだしている。この前代未聞の殺人事件の解決はいったいいつになるのか? あるいは被疑者逮捕に至っても終わることはないのではないか? 人々の不安は一層深まり夜の街には人が途絶え、寒々とした暗闇が広がっている。

           〈『オカルト@掲示板チャンネル』20XX/5/1X現在より一部抜粋〉

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絶禍凛 梅星 如雨露 @kyo-ka

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