閑話002 二見 昴の慟哭その2

数日後のある日。


彼女は学校を休んだ。

学校でのイジメ?それとも家で何かあったのか?

彼女がひどい目にあう心当たりが多すぎて、あれこれ考えてしまう。




その日の夕方、俺は例のグループに屋上へ呼び出されていた。

普段は鍵が閉まっていて入れないスペースだ。

がちゃっとドアを開けると、びゅっと風に煽られた。


例のグループリーダーの女子は、普段とは違い真剣な眼差しでこちらを見ている。他にはいつものグループより少ない3人が取り巻いていた。


「何か用か?」

「いらっしゃい二見君?彼女が心配?」

「彼女?花咲さんのことか?」

「そう、もう彼女に関わるのは止めてくれない?」

「どういうことだ!?休んでいるのは何かしたのか!!??」


最近俺は喧嘩してなかったが、またあの時の心が蘇って来るのを感じた。

鋭い眼光でにらみつけ、殺気を放つ。


「ご、誤解してもらっては困るわ!私たちは何もしてない」

「そうそう、彼女の噂しってるよね?」

「……あぁ……あの胸糞わるいやつな……」


俺は彼女のことを知る中で、こんな噂を事前に耳にしていた。

(花咲って、たしかヤリマンビッチだったよね?)

(そうそう!思い出した!とっかえひっかえ告白させて一回やったらポイッ!ってね)

(えーと、たしかイケメンの彼も餌食になったとか)

((((ゆるすまじ!!!!)))


「知ってるなら話が早いわね。その噂は当然嘘なのだけれど、|何かあるたびに(、、、、、、)再燃するの」

「不良の二見君にわかるかなぁ?」

「どういうことだ?」

「つーまーり……。内容から考えればわかるでしょ?」

「花咲さんを貶めるため?」

「そうそう……ただ貶めるんじゃなくて、男の子からの印象を貶める噂だよね?」

「つまりそういうこと。彼女をかばったり彼女を味方する男の子が表れる度に、このうわさが再燃するの」

「なっ!……まさか……」

「そう、今日彼女が休んでるのは、おそらく……昨日の放課後ね」

「そ、そんな……彼女になにが?」

「まだわからない、明日くればはっきりするでしょうね」

「彼女はぁ、いま女子の全校生徒に嫌われてるの」

「前回のかかわった男の子はあの飛鳥井くんだったからね」

「なっ!?あの野郎が!?」

「ええ……嘘告白でひと悶着あったらしいわ」

「あんの野郎……!」

「あんたは人のこと言えないの!わかるでしょ」

「ああ……」

「女子の嫉妬ってぐっちょぐちょのねっとねと!」

「まぁそういうことね。私は私なりに彼女をサポートしてるから、あなたのあれは邪魔でしかない!」

「あれはサポート……なのか?」

「嘘だと思うなら、私たちが行動した後の様子を観察してごらんなさい?」


「ああ……わかった。」


くそっ!くそっ!くそっ!


たしかに今日登校して気が付いたのは、俺とこのグループの対立の噂が出てない事。俺の名前は一切発せられることは無く、代わりに花咲さんの噂が再燃した。つまりあのギャル女が言ってたことが正しい。


もう忘れられていたはずなのに!

俺が下らない正義感で掘り出してしまった!!!


くそくそくそぉおおおお!!!


何も言い返すことが出来ずに俺はその場を後にした。

しかし意外にも鈴沢らはイジメることで、花咲への他の敵意を霧散させていた。おそらく俺が関わる前からずっとこうやっていたんだろう。

そうなると、俺と鈴沢は協力者になれるんじゃないだろうか?




さらに次の日。

いつもは早く来ている彼女は教室に来ていなかった。

SHRまではまだ時間があるが、昨日も休みだったから、今日も休みかと思った。しかしSHR間近になったら彼女はきた。




ざわわわっ!!




クラスには不安と暗雲の含んだ、大きなざわつきが起きた。

彼女は登校できるような状態じゃないほどの大怪我を負っていた。


かなり痛々しい……。



包帯は巻かれているが、所々青い肌を覗かせているし、血もにじんでるところがある。

足と腕、頭部に包帯を巻いていた。

それが清潔ならまだしも、土や泥で汚れている。

松葉杖が必要なはずの大怪我なのに、足を引きずりながら歩いていた。

そのため彼女の足の腫れは、ものすごく酷い。



ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……!!!!!



何が守ってやりたいだ!!俺の所為だ!!!!俺が悪化させた!!!


何だこれは?こんな戦場みたいな怪我を負っている彼女はなんだ?ここは平和ボケした日本じゃないのか?これでは彼女だけ中東戦争を切り抜けてきた難民だ!俺は手を差し伸べてやることすらできないのか?




俺が出来る事と言えば、イジメられそうになったタイミングでデカい音を鳴らしたり、デカい舌打ちで会話をぶったぎったりする程度のチンケなものだった……。


せめてそれだけでも……。

それが俺の最近の日課になった。






そしてまたとある日のSHR。

クラス全員と大黒の野郎が異世界とやらに転移させられた。


俺はこれは彼女にとっては好機じゃないのかと思った。

この世界で立場に変化が起きれば、彼女を救うチャンスが生まれるかもしれなかったからだ。この時を待っていた!


しかしそれが叶うことはなかった……。

彼女のステータスは最弱。元の世界の傷や病気もそのまま反映されている。さらには彼女の不幸体質は天性のものと言わんばかりに【呪い】の文字が見えた。


それに俺の立場がトップクラスになれば、大黒やあの気に食わねぇトップ連中を押さえつけて彼女を守ってやれる。

そう思っていたが、それも叶わない。

俺のステータスは驚かれるほど上位のものだけれど、クラスメイトの中ではやはりカーストトップに及ばない中途半端なものだったのだ。


奴らに勝てなきゃこんなもん糞にも役に立たねぇ……。


くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!


……そして不幸は続いた。

知り合いも少ないこの世界で彼女はさらに大怪我を負って、失踪してしまったのだ……。責任を感じて自ら出ていったと神官が言っていたが、あれは嘘だろう……。


クラスメイトのクズ共は「死んだ」とか、「逃げた」など一貫しない、いい加減な噂をしていた。俺は世界を救ってほしいという王家の指示はしっかりこなし、それ以外の時間は全て彼女の捜索に費やしていた。


しかし未だ発見出来てはいない。

ここでも俺は彼女を守ることが出来ないのか……。


……


……


……


……


……


……くそっ!



落胆している俺の背中に、そっとやさしく手を添える幼馴染の姿があった。

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