第48話 揺らぐ縁ーヨスガー
「守さん、大丈夫なんですか?」
「過ぎたことを悔やんでも仕方がないぞ。賽は投げられたのだ」
一応、大学の前期を終了させる布石は打った。テストのできは
まず一つ目から取り組もう。俺は今日、とうとう犯罪に手を伸ばす。ただ己の利益のためだけに、
これは俺が悪いのではない。この世間・環境が俺をそうさせるのだ。まさに
そんな理屈は置いといて、なぜストーキングする流れになったのか。それ自体は単純明快で、麻衣が神出鬼没で正体不明だから。
数ヶ月前に読者とのオフ会と称して会ってみると、明るい文体からは過ごし意外なことに、かなりクールというか無表情な天然系美少女が現れ、智音や椎名は少なからず素性を知る仲なのに、未だに麻衣はのらりくらりと明かすのを避けている。
まぁ、つまるところ、興味本位と捉えられても仕方のない動機なのだが、日常に潜む謎に、内なる女神は「私気になります!」と訴えかけてくるのでどうしようもない。夏休みの自由研究みたいなものだな、うん。
連絡先以外、ほぼ何も知らないので俺から会いに行くのは事実上不可能。だからいつもみたく、俺の家に来るのを待って、帰るところを尾行という計画だが我ながらキモいのでやっぱやめとく?
それともう一つはかなりデリケートだ。椎名が俺の目の前に姿を現さなくなった。
だがしかし、俺はその原因と対処法を知っている。
その原因は二日前に遡る。
*
「お兄さんのことが好きです」
ここ最近の日課と化していた勉強会に最中、椎名は突然にもそう告白した。言われなれない俺でもそれが冗談でないことは声色で明らかだった。
「し、椎名」
「待って。答えは一週間後の夜、あの公園で聞かせてくれないかな?」
「……分かった」
*
俺がどう答えるせよ、今までの関係は消え去る。アニメであれば俺は確実に泣いているのだろうが、当事者になってみると、嬉しいや悲しいなどといったような単純な感情では表すことが出来ず、「複雑な感情」と言うよりほか仕方ない。
返事をしなければならない一週間後が来るまでの現実逃避が麻衣の素性調査であると言っても間違いではない。
JKと言ってももう数ヶ月もすれば卒業。一応、社会的にもグレーではあるがギリギリセーフ。あとは俺が何と答えるか。
これには別な問題も連動している。そう、智音だ。あのヤンデレ属性の前では、並大抵の抗いなど意味もなく、仮に付き合えば智音との友好関係が破綻し、断れば単純に椎名との関わりが
「はぁ……」
どうしたものか。
「そんなにテストできなかったんですか……?」
「いや、愛について考えてた」
「もう、守さんったら♡」
別に智音との愛なんて誰も言ってないけどな。自信があるのは結構だが。
「いつでも私を頼ってくださいね」
「ありがと」
こればっかりは難しいだろ。科学者に占いしてもらうみたいな違和感しかない。
「やあ」
あっ、麻衣。流石にストーカー行為をする気力はもう無いので、今まで通り、ミステリアスな無表情女子として接することにする。
合宿の時も感じた事だが、俺の中では恋愛感情は一旦抜きとしても、この3人と今さら離れるのは心苦しい境地には達している。
名状ともにぼっちとは相対する存在へと変貌した俺。
たとえ望まなくとも別れは来る。そしてその別れの危機は、今まさに避けられぬ試練として立ち塞がった。
帰宅し、いつものように智音と麻衣を部屋にあげる。ふと目についたのは、かなり以前に智音から貰った観葉植物「アイビー」。
まるで今の俺を象徴するかのように、アイビーはツタを巻くように、支柱な沿ってすくすくと育っていた。
あの時はマジで震え上がった裏・花言葉「死んでも離れない」。
それが今、俺の言葉一つで具現化されかねない。
対人関係一年生の俺は、彼女たちと近くに居すぎたのかもしれない。だが育ててしまった以上、ツタを剥がすことはあまりにも酷で、よほどの事がない限り、強いて害を与えるはずはない。
でも俺は決断しなければならず、事によっては麻衣すらも傷つける。「恋は罪悪ですよ」と語った「先生」はやはり聡明な人物だったようだ。………俺はどうすればいいんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます