第38話 波乱万丈なおやすみ時
「まもるさ~ん、果たして眠れますかぁ~♡」
「うらやま」
「智音も麻衣も早く寝なさい」
「まだまだ夜はこれからですよ♡」
「うるせえわ」
「照れてる守さんもいいですね♡」
何とでも言え……俺は良くも悪くも臆病者だからな、安心して横で眠っててくれ。
それからしばらくの間は妙にからかい続けられたが、流石に皆疲れたのだろう、数分も経てば寝顔を見せてくれていた。もちもちしたほっぺをせっかくなので一突き。
「やわらか」
「お兄さん……」
やっべ、椎名起きてたわ。噓つきは泥棒の始まり理論を応用すれば、ほっぺぷにぷに男はクズ男予備群。終わったンゴ。
「……ちょっと話そうよ」
お外で説教か。まぁ、仕方ないな。
「あの、俺はどうなるんですかね?」
「えっ、ああそれは秘密にしといてあげるけど、ちょっと相談したいことがあってさ」
「なんだ?」
まさかの展開に面食らったが、弱みを握られて無理難題を突き付けらる最悪の状況は避けられそうなので、しっかりお答えさせていただきましょうぞ。
「お兄さんは、将来小説家になるつもりなの?」
「まぁ、なりたいけど、無理だろうな」
「じゃあどうすんの?」
どうするのだろうか。俺はドリーマーほど志が高くないにもかかわらず、現実的展望は何一つとして無いのだった。まさに純度100%のモラトリアム人間。いつまで経っても学生というか子どもというか、大人への一歩を日々遅らせている。本当は目を背けているに過ぎないが。
今の俺には惰性と小説と椎名達との繋がりしかないのだ。モラトリアム期間が終わった暁には、俺という存在は自然淘汰されているのだろう。
「私ね、叔母さんとか先生とかにいろんなこと言われてさ、もう疲れたんだよね」
「そっか……椎名は何か興味ある事とかないのか?」
少し禁句っぽいけどこれ以外のレスポンス案が皆無なので仕方がない。
「私ね、今のこと以外考えることが出来ないんだ。どうしてかな?」
「俺も一緒だな」
「そうなの?私さ、いつまで生きてるのかな」
女子高生がこれほどまでに追い詰められている様を見るのは心苦しい。
何時か知らないが、ここはあまりにも暗すぎる。ただ涼しげな夜風が
悲劇のヒロインの如く椎名を祀り上げ、短い生涯でもってお涙頂戴など、まっぴら御免だ。
俺に出来る事などほぼ皆無だが、それでも俺は他人事として風化させる気にもなれなかった。
ありふれた進路の悩み。それでいて叩けば脆く砕けちりそうな椎名の心の奥底。
その日の夜空はとても美しく、透き通っていて、そして物寂しかった。
「私ね、お兄さんのそういう黙って寄り添ってくれる感じ、大好きだよ」
細かい粒子になって消え去りそうな椎名の微笑み。俺はここでも返事ができなかった。
どちらかと言えば傲慢な俺だが、いわゆるぼっちである以上、それは過大評価である事が分かる。
そんな俺を慕ってくれるこの3人は、やはりどこかズレていて、そしてどこか孤独なのだ。
「ごめんね、もう寝よっか」
部屋に戻るとなぜか二人とも起きていて、俺を布団に押し込んできた。あみだくじはどこへやら、左には麻衣、右には智音が陣取り、椎名はヘラヘラしながら、気が済んだように一人先に眠りだした。
「ぐぅ~ぐぅ~」
下手くそな寝たふりをして、少しずつ俺の布団へ侵略する智音。
麻衣はと言うと布団に入ってくる事はなかったが、手を繋ぐよう要求してきた。それはそれで恥ずかしい。今時、バカップルでもしないかもな。
これはもはやハーレムなどという甘美なものではない。一歩間違えば補食されかねないのだから。
翌朝、俺のオフトゥンにはいつの間にか麻衣も潜り込んでおり、寝返りもろくにとれない状況に陥っていた。むしろ無防備過ぎて失礼では?
「おはようございます♥異変はないですか?♥」
智音が凄く意味深な質問してくる件について。
「何した……」
「ファーストキスですよ♥キャッ♥」
椎名の時といい、二人が寝てから俺は寝たのに、どうしてそうタイミング良く起きれるんだよ……
「守くん、昨日、私の胸触った?」
「麻衣は早く顔洗って、寝ぼけを覚まそうな」
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