第32話 椎名冬、お前もか
「智音さんでいいですか?」
「うん!冬ちゃん黙っててごめんね」
「智音」
「麻衣は呼ばなくてもいいよ~」
今日もまた集会場、またの名を細川守の自宅に女子三人衆が集っている。一応簡単に智音の件を話したのだが、何とか丸く収まったようだ。
ちなみに今日こそは彼女らに構っている暇は無く、そろそろ締め切り間近となった新人賞への応募作を執筆しなければならない。女子がキャッキャッと語り合うのに負けじとキーボードの寿命を縮めるように叩きならす。
あっ、なんか高校生の頃の事がフラッシュバックしてきた。クラスの女子が楽し気に昨日の番組に出ていたアイドルの話で盛り上がる同じ空間で、ただ一人シリーズものの文庫本を読破しようとしていたあの時を……
まだぼっちが辛かったあの時分を思い出すのは心身に毒でしかないな。
「守くん、はいお茶」
「ありがとな」
老年夫婦さながらのやりとりをした俺に智音は案の定、睨んできている。一方、椎名はと言えばのんきに自分で買ってきたプリンを頬張っている。純粋こそ正義なんだな。
それから一時間ほどはなかなか良好なスピードで執筆できていたのだが、精神が一番幼女な智音がとうとう耐えきれずに
「守さん、休憩しましょうよ~」
などと誘惑してくる。麻衣もそうとなればやはり退屈に感じていたのか、いつものクールな声色でただ一言「賛成」と呟く。椎名はニヤニヤと傍観しているだけという各々の個性がはっきりと現れた反応でもって遅延を誘発。
君子危うきに近寄らずという金言を知りつつもヨーグルトを食べている俺は小人なんだろうな。三大欲求恐るべし。
「守さんってたしかに食は細いですけど、健康的な生活ではないですよね」
「何そのダメだし」
「いやっ、そういうのじゃなくて、そのいつでもご飯食べに来てくれてもいいんですよ?ていうか待ってます」
「それなら私だって守くんの管理したい」
二人の料理は美味しいんだが、文字通り「管理」されてしまうからな。
「お兄さんっでも睡眠時間短いですよね」
「何で知ってるの」
「あはは」
笑って誤魔化せるのは子どもの特権なので仕方なくスルー。
「それで何が言いたい」
「午前中は大学で、たまにバイトもあるけど、そっから今度は深夜まで小説書いて。栄養も大事だけどさ、もう少しスケジュール見直した方が今後のためにもいいと思うよ」
至極ごもっともなご意見で。つまりはダラダラタイムを減らして効率を高める必要がある。レポートも執筆もギリギリまで放っておくんじゃなくてな。
そういやアルバイトのシフト、最近全然入れてないな。俺としては働きたくないから構わないが、催促メールが来ないってことは俺、知らぬ間に解雇されてる?
「もうすぐ夏だね~」
脈絡がなくても許されるのが女子会トーク。だからこんなことでツッコミを入れるのは野暮でしかない。
「智音さんは何か予定あるんですか?」
「守さん、どうしましょうか?」
「クーラーの効いた部屋で引きこもります」
「だそうです」
「私も守くんと引きこもる」
「二人とも許可した覚えはないし、それじゃあ引きこもりっていうか、それこそいつかの合宿じゃん」
「それです!!??」
「キャッ!?」
おい、いきなり大声を出すから、JKが怯えてるぞ。麻衣も目をパチパチとさせてるし。髪型のせいで片目しか見えないけど。
「どれだよ」
「合宿しましょう!」
「ダメだろ」
「何も同じベッドじゃなけば健全です!もちろん一緒でも可!」
グッドとポーズを決めて嬉々として返事を求められても……
「私と一緒なら問題ない」
「論点は『智音だから』って訳じゃないから」
「ならお兄さんとは私が寝ますね」
「一番ダメだから。捕まるから」
てか椎名ノリノリじゃん。流石は華のJK。青春の一ページになる出来事には積極的だ。
またもや数の暴力、マジョリティによる暴政によって開催は決定。首脳たちは早くも開催地候補を考案していた。内閣不信任案はもちろん三頭政治によって機能を果たしていない。
三頭政治なんて不審な言葉は使うべきではなかったかな。カエサルが三人が
「心配しなくてもお金のかかり過ぎない所にしますから。なんたって合宿ですからね!」
わ~それなら安心だ……
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