第30話 純粋なその瞳に映るのは
「お待たせ~」
「?……お、おう!」
麻衣とのデートを無事に終え、歩き回ったこの肉体と、慣れない二人行動で消耗された精神を7時間休息させたが、多忙なことに今日もまた予定は埋まっている。
それもまた例のデート作戦であり、今日のお相手は現役JK。いよいよ危ない香りだ漂ってはいるが、現れたのは、普段の斜に構えた彼女らしいと言えば彼女らしい、クールな装い。
麻衣は清楚、普段の朱音はゆるふわ?なので、なかなか新鮮だ。一応再確認しておくが、これはラブプラスの話ではなく、目の前に広がる三次元の話だ。
やり直しがきかないのに、ゲーム以上に痛い目を見るあの現実だ。
そういった意味では、椎名は少なからず好意はあっても、恋愛感情はないだろうから、気楽でもある。
「そういや初めて私服見たかも」
「どうよ」
「悪くないな」
「さすがモテ男、上から目線が板についてんね」
「さ、行くとするか」
「うん、一日カップルだもんね」
椎名のご希望のデートスポットは水族館。これまた定番なだけに、緊張もひとしおだが、いかなるアベックであろうともデート成功率が高いが故に定番なのだから、気にせずお魚観賞と
「お兄さんはここ来たことあんの?」
「小さい頃に家族と数回。昔は生き物の写真を撮るのが好きだったんだ」
「そうなんだぁ~確かにそんな感じするかも」
「自分だけの生き物図鑑を作るみたいな感じでさ、そういうのもあって俺の両親は一年に一回か二回くらい連れて行ってくれてたんだ」
「いいご両親じゃん」
「そういう椎名は来たことあんの?」
「ないよ。私はそういう感じじゃなかったからさ……」
「そっか。じゃあ俺が解説してやるから逃げんなよ」
「うわ、つまんなそ~」
チケットを無事購入し、海を再現した涼しい暗がりへと身を投じる。
幸い、人は鬱陶しいほどいる訳でもなく、わりとゆっくり出来そうな感じだ。俺もここでリラクゼーションを狙ってたり、童心にも戻れそうだから、実は楽しみだったりする。
「……きれいだね」
「そうだな」
しっかり子どもの顔をしている。朱音たちからは病みが溢れているが、椎名は闇が垣間見えるので、こういった表情を見れるとなんだかホッとする。妹みたいな感覚に近いな。
「……ここの水族館には一度来てみたかったんだよね。でも結局家族で来る機会はなさそうだから、初めてはデートにしよって決めてたんだ」
「記念になんか買ってやるよ」
「ホントに!?何にしよっかな~」
売店の商品をいろいろと吟味し、椎名が最終的に持ってきたのはジンベイザメの大きなぬいぐるみ。そのサイズは枕に引けを取らないもので、ただでさえ価格平均が高い商品群の中でもサイズに比例するようになかなかの値段だ。
「かわいいでしょ」
妹がゲージが更に高まったので仕方なくレジへと進む。抱きかかえてなかったら却下してたかもな。悪いが朱音のデートはファミレスだな。
「ありがと」
「大切にしろよ」
「当たり前じゃん」
大きな袋を持つ椎名と共にフードコートへ向かう。こんなに金がかかるのに清廉潔白なパパ活がかつてあっただろうか。いや兄活か?
「ねえ、聞いてる?」
「ごめん、かわいいなと思ってて」
「でしょ?でも貸してあげないからね~」
いや、椎名の事だけど、とはやはり言わないでおこう。
「で、お兄さんは何食べるの?」
「寿司とか?」
「うっわ、鬼畜すぎ」
「うそうそ、うどん食べるわ」
「……私もうどんのつもり」
「じゃあ早く注文しようぜ」
ピュアな椎名ちゃんには、このネタは合わなかったようだ。寿司だけに……
「きつねうどん、ちょっと頂戴」
「油揚げ食べ過ぎんなよ」
「ありがと。うん、結構おいしいね」
「椎名のわかめうどんも」
「わかめは食べないでね」
「それ貰う意味ある?」
いやぁ、バッドエンドへの地雷が少ない救済キャラはいいねぇ。
「お兄さんの好きなタイプは?」
「弱いと知りつつも最初は草タイプ選んでしまうんだよな」
「ゲームじゃなくて女の子」
「そうだな、ショートボブで私服はクールというかボーイッシュみたいな感じで、短めのショートパンツから見える太ももの太さが程よい女子かな?」
「普通にキモいし、それ私だし。このセクハラロリコン」
「ホントだ、俺のタイプの女子が目の前に」
「その設定続けるな」
こんな冗談を言える仲は初めてだ。椎名冬、お前は最高だよ。
「今日はありがとね。ジンベイくん、絶対大切にするから」
ぬいぐるみに名前付けてんのか。
「じゃあ、またな」
「うん……またね」
帰宅して数分が経った頃、またもや朱音から(以下略)
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