第29話 不純異性交遊―水瀬麻衣―
いつからだろうか。この俺が誰かとここまで同じ一時を共有することとなるなんて。この問いかけすらも飽々とするほど、眠る前に浮かぶのだが、今はは真っ昼間。場所はそれなりに大きな書店。いや、場所はこの際、さしたる問題ではない。問題はお連れさんがこれまた例のごとくいるというのだ。
「守くん、ネコちゃんかわいいね」
無論、書店に野良猫も飼い猫もいるはずはなく、文庫本コーナーまでわざわざ写真集を抱えて小走りに麻衣が近づいてきたのだ。
「……まあ、そうだな」
「この子守くんみたいだね」
何となくふてぶてしい顔をしているうにも見えるんだが。
そう、俺は今、麻衣と二人きりで書店デートを行っていたのだ。その発端は昨日の三人組がもうそろそろ帰ろうかという雰囲気似なりつつある時に、間宮朱音、あのヤンデレクイーンが提案したからである。
「あのさ、守さんと二人っきりで会える日がどんどん減っちゃうじゃん。っだからさ、一人ずつデートしない!?」
「はあ!?」
「珍しく賛成」
「ま、私も面白そうだし賛成~」
多数決の原則に押し負かされて、あみだくじの結果、一人目は麻衣、という次第である……
「守くんは何かオススメの小説とかあるの?」
「ホームズとか?」
「名探偵の?」
「そう。小学校の頃に初めて読んだ小説で、今でも時々読み返したりするな」
「確かに少し年期の入ったのが、守くんの本棚にあったような」
……ホームズにひけをとらない観察力なことで。
「じゃあ、今度貸してよ」
「いいよ」
そこまで熱心なファンという訳ではないが、自分の好きなものに興味を持ってもらえるのは、やはり気分がいいものだ。
他人の目はそこまで気にならないのに、小説の評価もそうだが、全く興味が湧かない世捨て人にまでもなれはしない。
「じゃあ、どうしてミステリー小説を書かないの?」
「そうなんだよなあ」
自分でもそれは思う。己の知識が最大限に活かしきれていないから人気がないとは言わないが、生まれてから数十年少なからず培ってきた知識を作品に昇華できていないのは、褒められたことではない。
「いつか読ませてね」
書店を出て麻衣の好きなカフェ向かう最中、無表情を崩してそう伝えてきた。心地のよい初夏の訪れを肌に感じながら。
結局俺たちは何も買うことなく、麻衣のオススメの喫茶店のふかふかとしいた椅子に腰掛けた。
「少し暑いからアイスカフェオレにしよっかな」
「私も」
………これがあと二回続くのか。嫌ではないが、何だかデート・ア・ライブみたいで疲れる。
何だか既視感が凄いが、ここに来たことは無いので取り敢えずはよしとしておこう。麻衣は熱い視線をずっと向けてきている。もちろん俺は惚れ薬など入れてはいないので麻衣が自発的にそうしているのだが、こころなしかどんどん顔が赤くなってきている。
「あの、麻衣?」
「守くん、それ私のなんだよ」
それ、とは他ならぬカフェオレのことだ。
「ご、ごめん!!??」
だがしかし、これは単に俺のうっかりミスなどではない。俺はカフェオレの位置を再確認した時ピントきた。
これは作為的誤認であると。麻衣が俺のもののすぐ近くに置いたが為にこんな恥ずかしい結果が生じたのである。
「もう、守くんったら。あっ」
そして一息つくように間接キスも忘れない麻衣さん、さすがっす。大根役者感もある意味ぴったりだ。今となっては二人とも赤々と顔を染めている。それでも素直にカフェオレが飲みづらくなってしまったので、時間に任せるより方法がないのだった。
「今日はありがとうございました。またいろんな所行きましょうね」
「俺も楽しかったよ、じゃあまた」
別れ際に俺の唇は突如として湿り気を得た。それがキスだということに気づくのに40秒。
「ままま麻衣!!???」
この反応はさすがの本人でもキモいわ。まあ便宜上、貞操観念と純潔を奪われた乙女とでも思ってくれ。
「またね」
走っていいく一秒前にニコニコと照れる麻衣の横顔がちらっと見えた気がした………
その晩、執拗に今日の内容を問いただしてくる朱音にはとても言えるものではなかった。麻衣が自分から自慢しそうなの本当に心配でならないんだが。
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