第20話 修羅場の先に見えるもの
「やっぱり洗い物させればよかった」
波瀾万丈な一日がようやく終わろうとしている。とりあえず今日はわずかな自我の一つである執筆はお休みだな。
キリスト教徒ではないが安息日を取り入れる事は制度としては可能であっても、現実的にこの食器を明日に持ち越すのは得策とは言えない。
曲がりなりにも美少女二人と食事したことの代償はしっかりと払わねばならないだろう。
それにしても麻衣さんが可愛かった。柄にもない言葉だが、たった二人しかいないファンが、そろいもそろって美少女という確率は何パーセントなのだろうか。数学を得意でなくとも、極めて稀なケースであり、本来はもっと感謝すべきなのだろう。
この現状が特殊であるからには、それに伴って、美少女達もなかなかに特殊であるから困惑しているのだが。
「細川、シフト入ってないわりには何だか疲れてるな」
「まぁ、いろいろありまして……」
「この前の彼女か?」
「付き合ってませんよ」
「パフェ二人で食べてたのに?」
「見てたんですか!!??」
最悪だ。あの時の事がフラッシュバックし、再び悶える。
「忘れてください」
「今度ラーメンおごれよ」
「ご配慮感謝します………」
「あぁ、それと今日バイトの面接頼むわ」
「わかりました」
「なぜここに」
「細川さんと一汗かこうと思いまして」
「お掛けください」
ご丁寧に履歴書までたずさえて現れたのは、水瀬麻衣。
客として来た朱音と似ているが、どこか違う積極性。朱音もそうだが、ここまでふりきってるとストーカーという表現がしっくりこなくなる。
「私、細川さんの手足になります」
「志望動機が重いよ……」
「奴隷の方がよかったですか?」
「弊社は日本国憲法に則って、基本的人権を尊重しておりますので」
「細川さん、私と働くの、イヤなんですか?」
「嫌ってわけじゃないよ。そうだな、真剣なんであれば、俺から推薦しとくけど」
「
そういうところがなんだか、ふざけてる感があるんだよなぁ。
「細川さん、またね」
「じゃあ、また」
これまた清楚に胸元で小さく手を振る麻衣さん。ロングスカートが文学少女風の雰囲気を醸し出している。これでカフェ巡りが好きだというのだから歩くイデオロギーみたいなものだ。
「もしかして細川の知り合い?」
「まぁ、そんな感じです」
「細川も隅に置けないな」
「そんなんじゃないですよ」
「守さ~ん♡」
「噂をすればパフェ友が来たぞ」
「パフェ友!?」
朱音まで来るとは思っていなかった。そろそろ俺も何かリフレッシュ法見つけなければ、こっちが病みそうだ。ヤンデレ書きがヤンデレになるなんて、次回作にはピッタリかもしれないが、被験体にはなりたくない。人体実験が元となったラノベなんて誰が喜んで読む。ただでさえ二人しか固定客いないのに。
「諸事情により本日、パフェはご注文できませんので」
「そうなんですか……じゃあ~プリンアラモードにします」
結局パフェみたいなもの頼みやがったな。二の舞を演じるつもりは毛頭ない。賢者は歴史から学び、残念ながら愚者は経験から学ぶとされているが、経験からも学べないのは愚者にすら劣るのだ。
どうでもいいが、プリンアラモードって時代を感じさせるよな。プリンにホイップクリームとサクランボなどのフルーツのせるだけで、これほど豪華な一品に仕上がるとは。みんなも作ってアラモード。
「ファミレスの中でもここはスイーツが充実してますね。もしかして守さん、このまかない狙いでここを?」
「そこまでスイーツ男子じゃないから。それに、そんないいまかないも出ないし」
「そうなんですか?」
今回は前のように俺に食べさせることなくパクパクと頬張る朱音。デパートに連れてきた娘を見守る父親さながらのゆるい時間が流れていた。
つい数週間前まではもっと惰性に日々を過ごし、心が決壊していたかのように独り執筆していたあの頃。
今は残念ながら執筆時間がバラバラになってしまってはいるが、少なくとも事実として今の俺は明らかに今日を生きている。それはもう、うんざりするくらいに。
本当のところは、web作家として何も向上してはいない。大学生の憧れる毎日かと言えば一概にはそう言えない。だが……
「細川さん、差し入れに」
「……なんでアンタがここに来るのよ!」
「私、ここのアルバイトの内定の内定が出てますから」
内定の内定?てか良い感じに感慨に耽ってたのに…………
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