第18話 小悪魔と共に聖地巡礼

 それからしばらくは同じような口論が続き、最後は料理対決!ではなく結局三人で移動する事になった。

「作品誕生の地……楽しみ」

「ふふん、私は何度か入ったことあるもん」

 次なるフィールドは俺の部屋といういろんな意味でドッキドキの超展開。お持ち帰りではなく実際のところは自宅軟禁の恐れがあって十代の喜びはほぼ砂上の楼閣と化している。


「まさか、守さんのお部屋で二人っきりになれない日があるなんて、ホントに残念だよ!」

「ここが細川さんの……感激です」

「ちょっと無視しないでよ!」

 麻衣さんの無表情な瞳の先には、もはや朱音は映ってはいないのだった。

「ズバリ聞きますよ!守さんはクーデレ好きなんですか!?」


 クーデレ。ヤンデレはメンヘラとして実在しうる存在だが、クーデレはそうお目にかかれるものではない。

 それはアニメであっても同じように言え、まだまだ創作者の端くれとしてはのびしろのある属性のように思う。

 そう、キャラであれば。リアルでクーデレなど、絶滅危惧種どころか異世界人と言っても過言ではない。

 少しでもオタク的でない者にとっては、ややもすると聞いたことすらない単語かもしれない。


 考えあぐね、ふと麻衣さんの方を見る。

 やはり容姿端麗で、少し見慣れない、いや、奇抜ではないのだが、この片眼を隠す髪型も美少女感を増幅し、より一層特異的に見えてくる。そう、目があった時のこの微笑みとかも。

「細川さん、サインしてもらえますか?」

 またもや朱音完全スルー。

「もちろん良いけど……クーデレは嫌いじゃないけど、考えたことはなかったな」

「……ヤンデレはイヤって言ったのに」

 朱音の小声は出来るだけ聞こえなかった事にするに限る。今は無心でサインを書く。

 もちろん恭しくサインと言っても、宅急便などで普段書くような、単なる氏名の走り書きみたいなものだ。

 それでも麻衣さんは満足してくれたようだが。心なしか少し顔を赤らめている気もする。この率直さ、マズイな。落とされるかも。

 もちろん朱音もサインを要求してくる。そしてまたこちらも顔を赤めている。ほとんど嫉妬からなのだが。


「さすがは細川さん。サインからも気品が窺われます。細川さんの初めてのサイン……」

 それにしても、麻衣さんはいやにを強調するな。そのこだわりはさながら処○厨。

 そういう意味でも俺は優良物件なのだろう。なんたって、これっぽっちも人気が無いのだから、ファンサービスも大抵は、初めての事だらけだ。


「麻衣さんは、どうしてほぼ無表情なんですか?」

「細川さんは私をずっと笑顔でいさせてくれますか?」

 なにそれ、プロポーズ?

「だ~め!そんなの絶対ダメ!!」

 朱音もおそらく俺と麻衣さんのハッピーエンドを思い浮かべたのだろう。妄想を掻き消すように、ぶるんぶるんと頭を左右に振る。

「ダメですよ」

 振り乱した髪で、こちらを脅す朱音。ヤンデレがそういう事したら、バッドエンドに片足突っ込んでそうで怖いよ。


「細川さん、この近くにスーパーはありますか?」

「あるよ」

 朱音のアルバイト先だが。

「それは安心です。細川さん、今日は私が晩御飯ご馳走しますね」

「ええ!?」

 俺よりも先に朱音が驚嘆する。

「そんなのズルい!」

「ズルいかはともかく、会って間もないのに、そんなの悪いよ」

「確かに会って間もないかもしれないですけど、知り合ったのは今日ではありません。それに、細川さんにはこれからも小説を書き続けてもらいたいので」

「じゃ、じゃあ俺も手伝うから、ご馳走、と言うよりも共有?みたいな感じで良ければ」

「もちろんです。初めての愛の共同作業。ゴクリ」

 確かにこれは、俺の表現が悪かったのかもな。それと、ゴクリってわざわざ声に出して言うのはどういう趣向?

「守さん、私も一緒に作ってもいいよね?」

「まぁ、仲間外れも可哀想なんで、今日は三人で何か作るか」

「うん!」「はい」


「何作ろっかな~♪」

「細川さんを再構成……」

 麻衣さん、今のは飛び抜けてヤバかったよ。朱音が純真無垢な女の子に思えてくるレベルで。しかも真顔だから、たぶん真剣なんだろうな。


 次回、最後はやっぱりお料理対決!?

 お楽しみに!

 ……俺、知ってるぞ。食べきられない量、二人から食べさせられるお約束を………

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