第13話 嘘ついたら……


 正直なところ、寝顔の写真は悪用されない限り構わないので無視するとして、

「……いつにしようか」

 カレンダーアプリを開いてみるとそこは一面銀世界であった。美しくも時に虚しいミニマリズムを彷彿とさせる俺のスケジュールを考慮しても、やはり土日が最適であるのは言うまでもないだろう。

『先生さえよければ、明後日・土曜日の午後3時なんてどうですか?』

 こういう女子は俺みたいな奴からすれば、本当に助かるというかなんというか、駆け引きなしのお茶会が出来そうだ。デートの日程くらい早く決めてよ!みたいな女子と心から楽しめるかと言えばそうじゃないよな?

『いいですね、そうしましょう。ちなみにどこか行きたいカフェの案とかってあったりします?』

『○○駅のすぐ近くにイギリス風のオシャレなお店があるんですけど、ここでもいいですか?』

 添付されたリンクを見るかぎり、確かにオシャレだが、萎縮するレベルでもなさそうだ。この男心を理解している感じ、もしかして実は男女経験豊富なのでは……

 チャットではあるにせよ、文通相手が清楚に感じるのは、古来より続く日本人のさがなのか。須佐之男命スサノオノミコトが和歌を詠んだのが起源とされ、人間風情の俺が【八雲やくも立つ 出雲八重垣やくもやえがき 妻籠つまごみに 八重垣作る その八重垣を】の良さが全く分からなかったとしても、水瀬麻衣さんとのやりとりを楽しめるのだから、八百万の神々にすこぶる感謝。


『守さん!早く返事してくれないと寝顔SNSに彼氏って言ってアップするからね!!』

 オイオイ、シャレになってねーぞ。下品ではないが、麻衣さんと違って朱音に上品さは無い。この違いを研究すれば、俺の生涯は安定コースに入って、セミナーも開いて億万長者になれるかも。これを阻むのは、ぼっちという強大なアイデンティティ。仕方なしに俺は

『そんなことしたら即刻ブロックするからな』

 と朱音のヤンデレを逆手にとる。

『そんな世界はいらないよ!!!』

 お、おう。予想通りだが、いざ来るとやっぱり重いな。付き合ってなかったよな、俺たち。


『やっぱり嫌ですか……?』

 おっと、俺としたことが返事を忘れてた。まるでプレイボーイかのように同時に連絡を取り合うなど、誰が予測できただろうか。

 二股騒動で売れる前から自粛なんて絶対に嫌なんだが。

『そんなことないです!楽しみにしてます!』

『こちらこそ♪』

 明後日か……


『今日の守さん冷たいよ~もっとかまって』

 むしろ今日の朱音の「デレ」が強すぎるんだ。

『ねぇかまってよ』

『病んじゃうよ』

『さみしい』

『会いに行ってもいい?』

 やめろやめろ!こんなもの連投された俺が病むわ。このままではドアを潰してまで会いに来そうなので、

『ごめん、ちょっとたてこんでて……

 もう手が空いたから、許して』

『もぅ、朱音ちゃん寂しくて死ぬところだったよ!』

 ウサギな朱音ちゃんはホントに死にそうなので今度からは気を付けねば。


『ところで、何の用事?』

『たいしたことじゃないよ』

『たいしたことないのに、私のことほっといたの?』

『いや、それは……』

『ねぇ、どんな用事だったの?』

 このモードの緊迫感はチャットであるのに凄まじいものがある。だからと言って麻衣さんと話してたとは言えまい。いやはや……

『ふ~ん、言えないんだ。てことは、あの女か……』

 この天才的な勘の鋭さにはまったくもってヒヤヒヤさせられる。背筋が凍るどころか、氷の刃で脊髄をなぞられてる気にさえなる。なんだその例え……

『守さん、私、絶対に守さんのこと守ってみせるから』

 まもるまもるうるせえよ。

『……麻衣さんからか?』

『そうだよ。あんな害虫、さっさと特定しなければ、守さんが穢れちゃう』

 こいつはヘビーだ。ニュースに近々載るやつだ、これ。何が朱音をこうさせるんだ?

『いいか、朱音。自分の身は自分で守れる。いざとなれば頼りにするかもしれないが、むやみやたらに争い事は起こしたくないんだ。わかってくれるか?』

『守さんは優しいね。うん、やっぱり私、許せないよ!こんな守さんを毒牙にかけるなんて!!

 ……守さん、そもそもなんで今もまだ連絡取り合ってるの?私、もうしないでって言ったよね?守さんもお仕置きが必要なのかな?』

 もういい加減にして~(昇天)

 

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