日暮

不登校で、部屋にこもっていたのは、

大体ひと月くらい。

その後は、フラフラと出かけるようになった。

まあ、出かけるようになっても、学校に行く気にはならなかったが。

学校に行こうとすると、気が滅入って、前の状態に戻ってしまうのだ。

最近のマイブームは、知らない街を探索に行くこと。

電車にから外を見ていて、気になった風景があると、

電車を降りて一駅分歩いてみる。

そんなこんなで、いくつか僕のお気に入りの場所を見つけた。

知り合いに会うことはほとんどない。

高校にはほとんど行ってないので、

僕を知っている人間なんていないのだ。

同じように僕も、高校に誰がいたかなんて覚えていない。

たまに、この前のように、

中学時代の知り合いに会うことはあるけど、

そもそも僕を知っている輩と、

行動をしている時間が違う。

僕が出歩いているとき、

奴らは学校に行っているはずだから。

土日には出かけないし、

父親はずっと引きこもっていると思っているらしい。

母親曰く、その方が面倒臭くなくて良いという。

僕はいつものように、コンビニでパンを買って、

公園のベンチに座っている。

といってもここは、

中学の同級生、希望と会った公園ではない。

乗降客の少ない駅の裏側の、

人の寄り付かない公園だ。

人を拒絶しているといってもいい。

建物の関係で、昼間でもほとんど日が射さない。

夜は不気味で怖そうだ。

「あの、コッキお兄さんですよね」

「黄泉ちゃんのお兄さんの」

黄泉の友達?

見たことがあるような気もするけど、思い出せない。

「やっぱり、思い出せないかなあ」

「あたしが遊びに行ったのは小学生の頃だから」

そうか、黄泉が小学生の頃、連れてきた友達の一人か。

不思議とあの頃の子たちは、覚えてるんだよな。

僕は名前をいくつか思い出してみる。

「キワちゃん」とか、いたかなあ。

「そうです、希和と一緒に行ってました」

「それじゃ、ノアちゃん」

「そうです。思い出してくれました。乃愛です」

「日暮乃愛」

女の子はにっこり笑う。

ところが、僕はまだ名前と顔が一致していない。

ひぐらし?

そうか、日暮ちゃんか。

ようやく思い出して、女の子の顔をもう一度見た。

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