1-1『詐欺師Yと少年K』
もしも僕があんなところに居なかったら、僕はこんな姿になっていなかったんだろうか…。
グルルと不気味に唸り声をあげて、マゼンタ色の結晶を自分の意思と関係なく斑に肌から生やして腰を抜かしている僕を、この融合獣の化け物が、濁った白眼でギョロリと睨み付けている。
「あぁ…」
僕は生きることを既に諦めている。
最早、生き残る資格なんて、僕にはないと思っているくらいなのだから。
なぁ、神様…もしも僕があんただったら、こんな化け物絶対に生まなかった…。
人間の努と哀のカテゴリをなくして、なにもかもを笑って生きていけるような世界を作るだろう。
あの子がもう泣くこともない、笑顔でいられる世界を…。
ギジャァアッッ!!
腹を空かせてる化け物は唾を振り撒きながら叫ぶ。
「もうだめか…」
僕はか細く呟き、腹の中に入る覚悟を決めると、唸り声を上げる化け物は獲物の食らい付こうと大きく口を広げ、僕はそっと目を瞑った。
ドガァァァァアンッ!
自信の走馬灯を巡ろうとした直後、突然なにか大量の液体が大きな鉄の塊に打ち付けられるような音が響いた。
恐る恐るその目を開けると、目の前に広がったのは、水に滴る少年が、凹んだ化け物の頭に乗っている光景。
「だーいじょうぶー?詐欺師くん」
後光に照らされながら、僕に向けてニヒルに笑う少年を、その時の僕は綺麗だと思った。
これが僕らにとって、騒がしい日常の始まりだったことを知らず…
◆
今日は眩い程に晴れ渡っている。
洗濯日和やおでかけ日和とも言われるこの暖かな気候で、この世界の住人は、いつも通りの日常を暮らしている…。
今日は良い天気だね
仕事怠いわぁ…
今日はスーパーのタイムセールだ!
EWMのAVヤバいw
TRYangle社の新作ゲーム買った?
僕がこの古くさく、日も入らない部屋の中でこそこそと朝食を片付けているころ、きっと街中では、そんな他愛もないことを話しながら、人間と、人間ではない様々な形をした怪人が、澄んだ青空の下に歩いているのだろう。
この世界に住んでいる生命体は人だけではなく、獣人やエイリアンのような生命も生存している。
人々は、その知能のある異形生命体を『
季節が変わっていく中で、リージェンの皆も人間と同じように、食物や水分を摂取し、着替え、出掛け、働き、青春を送り、歪み合い、信頼し合い、様々な時を過ごし、そして思い出を抱いて歩く。
そんな普通の生活を送り続けているのだ…。
ただ、人間社会というのは、やはり悪というものだって存在してしまうのがくそったれな要因だ…。
それは勿論、僕のような純粋な人類でさえも同じく…。
プルルルルル!
木製のテーブルの上、幾多もの数がおいてある携帯電話の中の一つが鳴った。
「はい。こちらはカルドニクス社、お客様相談センターですが?」
着信をとった僕は、携帯電話越しにありもしない架空のインターネット会社の名前で応答する。
〈あの…インターネットを見てたら、突然会員登録されて、ここに電話しろと表記されたのですが…〉
電話から聞こえてきたのは、なにか木管楽器がリードミスで音をはずしたような甲高い声だった。
「あっ、もしかして我が社のサービスに関するお問い合わせでしょうか?」
〈そう…ですねぇ…。ちょいとその……あれな動画を見てましたらここに……〉
「ということは、退会のお手続きというわけですねぇ…そうなったら…規約の方に少し書いているのですが…退会手数料がかかりましてねぇ…」
〈えぇ!?それって…どれくらいなんですかね…?〉
電話の奥の声がどこか大袈裟に感じるが、電話を掛けてきた人の中には似たような人間もいるため、ここで判断するには早すぎる。
「えっと…本来なら29800円なんですが…どうやら、お客様は誤認との事ですので殆ど私たちが負担いたします。ですが…やはりサーバーの料金が掛かってしまいまして…その分の料金、9800円だけお支払いただけることはできますか…?」
〈9800円…ほぼ一万円ですかぁ!あぁー…わたし、学生でして…あまりお金がなくてぇ…〉
あぁ…またこれか…。
「学生さん…?あっ!それなら初回無料で大丈夫です!ありがとうございました!」
〈え、ちょ!〉
先程の甲高い声とは裏腹に、普通の若い男子の声が聞こえると共に、僕は着信を切った。
奇妙に甲高い声で、学生という言葉を使っているとなると、その電話の主が詐欺に気づいていることが大半だ。
電話をかけてくる理由は、くだらない動画投稿のためか、単純なお遊びか…。
そのため、うちの上司からは、足がつかないように早急に切るのが先決だと言われている。
「はぁーあ…」
落胆して大きくため息をつくと、大の字に寝転がり、僕は木目の染みがついた天井を見上げた。
築80年近いこの古い木造アパートの一階に、この僕、悠樹哲也は、影の世界で大手と言われている詐欺会社の営業所で生計を立てながら、一人暮らしている。
と言うものの、その詐欺の腕は一流とは言える訳がなく、成功したのは挑戦数に比べると、雀の涙程度だが…。
「また冷やかしだった…めんどくさいなぁ…」
もしも、第三者視点で自分の姿を端から見るとしたら、僕はただクズな小言をぼやいている怠惰な犯罪者ととらえられるのだろうな。
そんな事を思いながら、僕は携帯を放り投げるように机に置いた。
たらればな上、馬鹿がつくほどのお人好しと言うのだから、詐欺師に向いてないのは、自分が十分理解している。
数ヵ月前なんて、老婆に振り込め詐欺をしようとしたら、何時間も孫の話を聞かされ、僕自信が号泣して終わっただけなのだから。
こんな馬鹿が詐欺師をしているなんて、本当にお笑いだな。
それでも、僕はとある理由のために、なんとかお金を稼ぐために、詐欺をし続けなければいけないのだ…。
「まぁ…頑張るしかないか…。家賃も滞納し始めてるし……。とにかく、事務所行こう…」
すがるものすらもない僕は、やれやれと立ち上がり、ウォールハンガーにかかった、愛着のあるマゼンタのYシャツを、白いTシャツの上に纏う。
着替え終えると、机においてある携帯電話の電源を全て切り、それとは別のプライベート用のスマートフォンを、いつも使っている濃い灰色の鞄に入れてそれを担ぐと、僕は靴を履きながら、古い木製の扉を開けた。
花びらのようにふわりと舞う春の暖かさが僕の体を包み、電線に止まっていた鳥達は、陽気に鳴きながら翼を広げ、空へと飛び去った。
外の世界は、まさに新学期や新生活の始まりといったところか。
それとはうって変わって、僕はそんな陽気な気分には、なれないんだけども…。
「あっ、ユウキさんユウキさん」
しかもその上、僕の住むアパートの大家をやっている、人間の中年女性が、物陰からぬっと現れ、僕の目の前に現れた。
「うっ…!おっ…大家さん…今日は良いお天気でぇ~そのぉ~」
家賃を滞納してしまっている僕は、作り笑いで言葉を返した。
僕は彼女の事が子供の頃から苦手だ。
よく、亡き母への偏見的陰口や小言を言ってきたし、今でもそう言う聞きたくない悪口をたまに小言として吐いてくる。
この調子だと、またなにか小言を言われるんだろうな…。
「うんうん、良いお天気ね。はいこれ」
大家さんは機嫌が良さそうに微笑むと、突然一枚の書類を僕に渡してきた。
その書類に大きく書かれているのは、まさに悪魔のような文字…。
「えっとぉ…これはなんでしょうかぁ…」
「退去願いだよ。家賃の三ヶ月滞納と、隣の店子さんから苦情が来てね」
「苦情!?」
ちょっと待て。
とりあえず、確かに家賃の滞納で追い出されるだけなら、明日払うからもう一日だけ待ってくれと言ってなんとかなるし、それでも出ていけと言われたら、仕方ないと諦めるだろう。
でも、さすがに苦情で追い出されるというのは、僕には心当たりが無さすぎる。
「僕、そんな迷惑かけるような悪いことしてないですよ!騒音をだしたりとか、ペットを飼ったりとかも一切してないですし……。それに、お隣さんなんて居なかったじゃないですか!」
「数日前に引っ越してきたんだよ。あんたのところから、電話の着信音みたいなのが沢山鳴るのが気になるんだってさ。私も鬼じゃないから、明後日までに退去してくれりゃ良いよ」
「そんなぁ!というか、着信音なんてそんなに大きくないですし、一体どんな人が…」
続きを言おうとした瞬間、懸案の隣部屋から出てきたのは、イルカ型のリージェンだった。
「あ、おはようございます!」
「おはようさん!」
イルカのリージェンはにこりと微笑みながら、スーツを着こんでさっさと行ってしまった。
確かに、イルカは人間よりも耳が良いとは聞いたことがあるが……。
「……とにかく、家賃ならちゃんと今週中にまとめて払いますから!」
革新的な当てはないが、少しは交渉になると考えて説得を続けるが、このごうつくばりの大家さんは聞く耳など持たない…。
「それに、僕だって苦情あるんですよ!上の階の住人さんの部屋から、いつも深夜に天井がギシギシきしむ音と、女の人の喘ぎgo…!」
不満を募る僕は、上の住人の苦情を言おうとすると、大家さんは僕の口をサッと抑えた。
その瞬間、上の階から出てきたのは、ネズミ型のリージェン…。
「カシムラさんとこはお盛んなの。あんたみたいな生涯独身人間に部屋貸しても、少子高齢化が進むだけなの。さっ、帰ってきたら準備しとくれよ」
「生涯独身……ちょっと大家さぁんっ!!」
なんとか彼女を止めようとするが、大家さんは僕を追っ払うような素振りをし、自分の住まう部屋の中へと戻っていった。
正直「なんだよこの、ごうつく偏見糞ババア!幼少時代にお前にゲーム機壊された愛息子に捨てられちまえ!」とでも捨て台詞的に言ってやりたかったが、さすがにそんなことしたら僕の命はないと悟り、黙っておいた。
「…はぁ~。今日は間違いなく、人生最悪の日になるなぁ…」
唐突に起きたことに憂鬱になり、思わず猫背になった僕は、もう数日しか住めなくなったアパートに背を向けて、弱々しく事務所へと歩きだした。
まさか、こんな陽気な春の日に、突然追い出されることになるだなんてな…。
まぁ…あの子がここにいたら「ハチノスツヅリガのリージェンよりはマシだよ」なんて言ってはげましてくれるのだろうか…。
「……でも、頑張んなきゃな…」
ふぅ…とため息をつきながら僕は気持ちを改め、自分を肯定するような言葉を頭のなかで復唱し、今日という日に向けて歩く。
ただ、僕の災難は、まだ序章の段階だったのだけれど…。
◆
ウザったいほどの晴天だ。
予想気温は15度、降水量0%だとテレビでは言っていたが、こんなに日が照るとは思ってなかった。
水色のパーカーについた三角形のアクセサリーを揺らしながら、僕は大きく伸びをした。
目の前に広がるのは、純人類と異形生命体、つまり人とヘトロモーガンがこの都市を歩いている姿。
僕が生まれていない年の人間にとっては、まさに異常の事だろう。
ヘトロモーガン族が地球に進行してもう何年経ったのだろうか…。
この世界で生きているヘトロモーガンは二種類存在し、『ノーイン』と呼ばれる知能を持たない種類は、未だに鏡のなかに生息しており、『リージェン』と呼ばれる知能を持った物は、今も人間同等の知能をもって、平然と暮らしている。
その上、リージェンの中には人類と愛を育んだ個体や、ドナー手術等によって、体の形が変化してしまった者もおり、それを僕らは『
そのため、この世界では純粋な人間の血液を持つものも少なくなり、後に人々は純粋な人間を『純人類』と分類することになっていた。
そのため、今この前を歩いている人々は、全身がミンクのような表皮を持っている女子高生がいたり、スーツを着て急いでいる蛾のサラリーマンであったり、たった今、手を繋いで歌いながら通りすがった親子は、親の方は普通に純人類だが、子供は人間の姿なのに肌にはトカゲのような鱗を持っていた。
ここはそんな突飛な状況が普通になっている世界なのだ…。
「ふぅー…。今日もあんまりお客さん来ないな…」
そんな中、一応人類である僕は、歩道の片隅に赤いテーブルクロスを引いた一人用の机に肘をつきながら呟いていた。
そもそも、新世界歴とか言うけれども、このバラーディアは旧2020年から状況は変わってないらしい。
せいぜい、ビルの外見や携帯電話、そしてテレビに映る特撮ヒーローや魔法少女が新しくなったくらいで、人工的技術の進歩って言うのは、もうあまり機能していないみたいだ。
というか、この国の人類に懐古廚が多いからなのかもしれないな…。
昔にすがりつく人類と自己中心的考えの多いリージェンが存在するから、犯罪率も上がっているのだろうと僕は仮定している。
「なぁ、頼むよぉ…」
ふと左をみると、その最たる例と言わんばかりに、猪の形をしたリージェンの男性が、小鬼のような角が生えたリージェレンスの少女の頭をすりすりと撫でながら、なにかを頼んでいた。
豚のような形のリージェンの中には、人間と違って、性に対して邪な心を持つものが多いと言われている。
彼の息づかいが荒く、汗が大量に出ている上、普通の人には感じにくい異臭を感じるため、恐らく強姦か誘拐一歩手前の可能性が高い。
と、こんな犯罪を食い止めるのが、僕の本業だ。
「ねぇ、おじさん」
座っている場所から話しかけると、その猪リージェンは、如何にも我をなくしている目で、僕をギロリと睨んだ。
「あ…?んだよ…」
それによって目に見えたのは、半鬼の少女が涙目になっている姿だった。
実力行使を好まない僕は、ポケットからコインを取りだして指で弾く。
クルクルと宙を舞ったそのコインが地面に落ちると、コインは裏面を天に向けていた。
「今日は運勢最悪みたいよ。頭上に注意ね」
「はぁ…?」
言い忘れていたが、僕は副業として占い師をしている。
コインを投げている瞬間、コインに注目しているその豚の人相から、今後の運勢を占っていたのだ。
まぁ、正直言うと、自分の占いは我流なもんだから、当たるのは十分の九位だ。
だから、当たらないときは必ずあるのだが…。
ガンッ!
「いってぇ!」
このように、このドスケベ豚野郎の頭に花瓶が落ちてきたように、僕の占いは当たってしまう。
「うぁ…くっ…」
頭に強い衝撃が走った事でよろめく豚に、僕は先程占った結果の内、もう一つだけアドバイスを告げてみる。
「あと、道端にも注意ね~」
キキーッ!ガァン!
そう告げ終わった頃には、よろめいた拍子に車道に出ていた豚が、車にぶつかってしまった。
「あ、遅かった…」
ヴィンテージ物の外車に思い切り退かれてしまった豚は、顔を真っ赤にしながら立ち上がり、ノシノシと車に向けて歩いていく。
「てめぇ…どこ見て運転してんだバカ野郎!」
苛立つ豚は、ぶつかった車に向けて、生意気に怒号をぶつけると、その美しい白い色のドアがガチャリと開いた。
「あぁ?んだとゴラァ…」
すると、車から降りてきたのは、スーツ姿で電子タバコを吹かせる、如何にも強面で大柄な妖狐のリージェン。
運転していた彼が睨み付ける視線と目を合わせてしまったその豚の性欲は、自信の股間と共に一気にキュッと縮み上がってしまったようだ。
「あっ…いや…その……」
「おい兄ちゃん…。ここは国道なんだからよ…勝手に出てこられちゃ困るんだよなぁ…」
副流煙を豚に向けてふぅと吹き掛けると、さっきまで真っ赤だった豚の顔が、サーッと血が抜け、青白く変化していく…。
「は…はい…す…すみましぇん……ぶひぃ……」
「つーかよぉ…?リージェンは頑丈だからお前の心配はしてねぇけど、こっちの車傷ついてんだよ。どうすんの?なぁ?大体、最近のチャラチャラした奴は……」
狐のおじ様は、豚の肩に手をやりながら、グチグチと話を続け、その間、あの豚野郎は死を悟っているように震えていた。
ちなみに、狐のおじ様が言うように、リージェレンス以外の
だから、最近ではリージェンの事故に耐えられる車が主流となっているらしいのだが、今回は旧世界歴2000年モデルの物だから、思い切り凹んでしまっていた…。
「あ…ありがとうございました!」
すると、鬼のリージェレンスが駆けつけ、僕に頭を下げて礼を言う。
それほど怖かったのか、まだ少し腕が震えているように見えた。
「良いよ。別に、感謝されるようなことしてないし…」
僕はそれだけ言うと、彼女は涙をぬぐいながらニコリと微笑み、感謝料かなにかはわからんが、鞄から取り出した袋菓子を机の上におき、何度も何度も頭を下げて去っていった…。
「……まぁ、これが仕事だしな…。感謝されるなら貰っとこ」
僕はそう呟きながら、袋菓子を開けると、中身は個包装になっているキャンディで、それを口のなかに放り込んで、また頬杖を付きながら外の世界を眺める。
ソーダキャンディの味がまだ普通に感じれるだけ、この世界はまだ平和な方だ。
犯罪率が増加している世の中ではあるが、僕らがこうやって実力行使無しで生きていると言うことが、どれ程救いな事なのだろうか…。
「ただ、平和の裏にはいつだって不幸が紛れている」
飴を味わい、平和を謳歌している僕に割り込むように現れた老け顔の純人類の男が、僕の机に寄りかかってきた。
想像の邪魔するなよと思いつつ、僕は彼の顔を見た。
「どうかしたの…?サトナカくん…」
僕が聞くと、彼はニヒルに微笑みながら、僕が貰った袋の中から、飴を複数手に取った。
「いやぁ、ちょいと良い被写体を探すために散歩をしてた途中だったのさ。いくつか貰うよ」
「はいはい…。お好きにどーぞ」
郷仲凍利、多分39歳。
印象画アーティストのS,Touriとして世界で活躍している芸術家で、僕の本業である裏組織のリーダーであり創設者だ。
灰色のストールに青色のノーカラージャケットが特徴で、どれだけ近くで彼を見ても、何を考えているのかがよく分からない。
その上、書く絵も恐ろしいと言うか、度し難いと言うか…。
だから、僕は彼のことはあまり好きではない。
「で…本当は散歩って訳ではないんでしょう?」
「あぁ…君に、武装警察からの依頼が来ている…」
初めからなにか企んでいた郷仲は、懐から今時珍しい紐付き封筒を取りだし、机の上に置いた。
彼をジトりと見つめながら、僕はそれを手に取り、紐をほどいて中身を見てみた。
写真付きの書類には、どこにでもありそうな何気ない詐欺組織と、鏡の世界でリージェンを至上するために暗躍する組織『ミラーマフィア』と思わしき生命体の名簿等が、沢山入っていた。
「株式会社ラーア。IT取引をしている子会社と言っているが、本当は多くの人間を詐欺に陥れてきた違法組織さ。詐欺組織だから株式でもないしね。しかも彼ら、今日の午後15時辺りにミラーマフィアと違法薬物の取引をして、大量の資金を調達し、マフィアをバックに正式にIT業界に介入するらしく、その取り締まりをしてほしいとのことだ」
「…詳しいソースはどこ情報?」
「いつものムカデ情報さ」
「あぁ…」
組織にしか通用しない隠語を使いながら、僕は書類をパラパラと拝見する。
この組織に入ってから、承る仕事はこんな危険でディープなことばかりだ。
正直めんどくさいが、僕らは免罪符として組織にいるようなものなのだから、仕事を受けるしかない。
まぁ、大層な仕事でない限りは僕は死なないし。
「まぁ、お金も欲しいから、頼まれた仕事は受けるけどさ…なんで僕なの?キヤマくんやミヤマくんも、今日はバラーディア待機のはずじゃないの?」
他のメンバーを頭に浮かべながら首をかしげると、郷仲は僕が持っている書類の中から、選び抜くようにして、一枚の名簿をとりだした。
「どうしても…今回は君に行ってほしくてねぇ…。君になら…わかるだろう?」
微笑む彼の姿が、また一層に光を遮るように感じる。
郷仲凍利と言う人間は、俗に言うミステリアスに値する者だ。
その上、誰かの不幸であったり、殺人や自殺と言った、残虐なものを芸術品と捉えることが多いサイコパスにも属する。
そんなところで感じる恐怖や、胸のうちに隠している多くの謎が、彼の心理をさらに読みにくいものにしている物だから、彼の考えを当てるには僕が彼の言動と手元にある書類を整理し、改めて占うしかない。
「ふぅん…」
郷仲の取り出した書類をさっと奪い取ると、そこには20代ほどの男性の写真が貼ってあった。
ちらりと写るピンク色の上着と、優しげな垂れた目に、焦げ茶色の髪。
この人間が郷仲の考えとなにか関係があると悟り、僕は即座にその人相を見て、未来を占った。
「ははぁ、そー言うことね…」
頭の中に飛び込んできたのは、ブランド物のアタッシュケースと、身体から生えるキラキラした何か、そして同族の香り…。
写真に写るその人間の、今日一日の運命が大体だけどわかった。
まぁ、未来なんて不確定の産物なのだから、分岐する様々な物があるからして、あまり信用はしたくないのだけれど。
「んじゃあ…これ片付けといてくれるんだったら…今すぐに行こうかなぁ?」
「御安いご用。そういうと思ってたよ」
契約完了の合図として、僕らは悪どくニヤリと無垢な笑みを交わすと、僕は立ち上がり、パーカーにつけられた鮫の歯を模した三角の飾りを揺らしながら、この明るみを歩きだした。
「言ってくる」
郷仲から背を向けながら手を振る。
「いってらっしゃい。頼んだよミズハラくん」
水原角也、14才。
今日はいつも以上に騒々しくなるなと思いながら、本業である探偵組織として、事件現場へと足を進めた。
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