『いい夫婦の日』2020


「ぎゃあーーーー!」

 という、はしたない悲鳴を上げてしまったのは仕方ない。

 だって倉庫に小麦粉を取りに行ったら、いたんだもの……あれが!

「ラナ!? どうしたの!? 今の悲鳴は……」

「フラーン!」

 すぐに駆けつけてくれるとか、さすが私の旦那様!

 思い切り抱き着いて、とりあえず吸う。え、吸うよね? 旦那は吸うものよね?

 吸ってとりあえず落ち着く。

「…………」

「はっ! そ、そうだ、フラン! ネ、ネズミ! ネズミが出たのよ! すごく丸々太ってて……って、どうしたの?」

 固まってる。

「は……ど、どうもしない、よ。とりあえずルーシィに水をあげてくる……」

「わー! 待って! まずは倉庫のネズミをなんとかしてぇ!」

「ネズミ?」

 聞いてなかったんかい!?

「だから言ったじゃない、倉庫にネズミが走ってたの! ぼってり、丸々したやつが!」

「……あ、ああ、ネズミか……確かにうちの倉庫、美味しいものは多いしね。うーん、猫でも飼えばいなくなると思うけど……」

「猫……」

 猫……と、二人で声を揃えてしばし見つめ合う。

 思いつく猫がミケたちなのだけど、さすがにミケたちは敷地内で飼えないし、倉庫内のネズミを狩らせるわけにもいかない。

 この場合の猫はごくごく普通の猫のこと。うん、大丈夫猫イコール虎じゃない!

「猫かぁ、猫もいいけど……うちにはシュシュがいるし大丈夫かしら? ワズのところで猫も買えるんだっけ?」

「どうだっただろう? 今度町に行った時聞いてみよう」

「でも、それまではどうしたら……」

 どすん。……と、倉庫の入り口付近で音がした。

 ゆっくり振り返るとそこには、ミケの娘……コウメが!

「にゃん」

 鳴き声は可愛いけど本当に立派に育ったわね。

 え、なに? 遊びに来たのかしら?

「コウメ、どうしたの」

「にゃん」

「え? ああ、親離れの時期なのか。1歳半を過ぎると自分の縄張りを持つように、親の側からうろつくようになるんだよ」

「へー、そうなのね。そういえばミケたちと出会ったの去年になるのか……」

 手を差し出すとぽむ、と大きな手がのる。重くて私の手が負けるんだけど、今のまるでお手……。

「でもそれならなんでうちに来たのかしら?」

「にゃん」

「悲鳴が聞こえたから、心配してきてくれたみたい」

「あ、そ、そうなのね。実は倉庫にネズミが出たのよ。それでびっくりして叫んじゃったの」

「にゃぁー」

「え? ちょうどお腹が空いていたからつまんでいいのかって?」

 フランの動物との意思疎通能力はもはやなにかの加護の力なのでは。

 そう疑った瞬間、コウメがものすごい勢いで倉庫の中にジャンプした。

 ズドーン、という……あまり聞かない音。

「「…………」」

「あにゅあにゅ……」

 倉庫の中の惨状を眺めながら「とりあえず明日猫買いに行こう」と思った。




 夫婦の心が一つになった瞬間。




******



いい夫婦の日なのでSS書いた。のでTwitterに載せたんですけどこっちにも載せますね。


2巻は12月10日発売中です

電子書籍版は今年もクリスマスイブに発売されました。

無自覚イチャイチャまじほんとこいつら……。


ちなみに担当さんは今年も「特典お願いします、3,000文字で」って言い出したので「どこの特典ですか? 去年3,000文字と聞いて1,000文字書き足してページ設定で1,000文字削らされましたけど」「大丈夫です上限はありませんよ!」「上限ないってまさかQRコード特典のことですか? 原稿と一緒にお送りしましたよね?」「え? あ、本当ですね。大変お騒がせしました(^^;;」っていうやりとりをしたので確認って大事〜〜〜〜☆

まったくこのうっかりやさんめ〜〜〜〜〜〜☆


なお、そんなQRコード特典 (カバー帯裏のQRコードを読み込むと読めるやつ) はSSショートストーリーなんだけど30,000文字書いたので、楽しんでくださると嬉しいです。

いつものショートストーリー詐欺。


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