『エクシの町』(没特典SS)
「ん、んん〜! なにこの肉汁……! お、美味しい〜」
「だろう? この町の名物の一つ……肉キャベツ煮込みだ!」
うん、確かに美味しい。
『緑竜セルジジオス』の最初の町『エクシの町』に着いて、偶然これから訪ねる予定だったドゥルトーニル家の長男、カールレート兄さんに会えたおかげでとてもよい食堂に連れてきてもらえた。
小さめの土鍋に、交互に敷き詰められた薄切り肉とキャベツの層。
それがスープを吸って、とても美味。
肉とキャベツをフォークで一口サイズに巻いて食べるというのは苦戦するかと思ったけど……存外なんとかなるものだ。
エラーナ嬢も満足そうに頰を手で押さえてホクホクした顔をしている。なにあれ可愛い。
「でも、これってなんの肉ですか? 豚……にしては少し硬いというか……」
「それか? それはポークボアという豚とボアの間の生き物の肉だな」
「ポークボア……い、猪豚?」
「イノブタ? いや、ポークボアだ」
ポークボア——『緑竜セルジジオス』のみに生息する食肉用の家畜だ。
豚とボアをかけ合わせて繁殖させ、ボア肉のクセの強さをを緩和し、食べやすくした生き物。
歯応えもあるし、野菜が主食とされる『緑竜セルジジオス』でも国民に根強く愛されている……だったかな?
もう少し『緑竜セルジジオス』の北に行くとポークボアのステーキや極厚焼き、丸焼きが名物になっていたはず。
そっちも食べてみたいけど、新しく運ばれてきた野菜のスープもマジで美味いな。
「それにしても、ユーフランが結婚かぁ。二人はいつ出会ったんだ?」
おっと、カールレート兄さん、それは聞いてはいけない。
案の定エラーナ嬢の表情が固まった。
「学園で。同じクラスだったんだよ」
「なるほどクラスメイトだったのか! ユーフランは婚約者を頑なに作らなかったとおじ様が言ってたのに……どういう風の吹き回しだ?」
カールレート兄さんの言うおじ様は俺の親父だ。チッ、親父め余計な話を余計な人に。
ええい、面倒くさい。
「どうって、見て分かる通りエラーナ嬢は美人だし、かと思えば動きも性格も可愛らしいし……彼女となら幸せになりそうだなって思っただけだけど?」
「っ……」
「ほーう! 確かになぁ」
と、まじまじエラーナ嬢を見るカールレート兄さん。
それが大変面白くないので、その鳩尾に肘を突き入れてやった。
「ん? エラーナ嬢、顔が赤いけど……鍋で舌を火傷とかしてません?」
「し、してません……っていうか舌を火傷しても顔は赤くならな——な、なんでもないですわ! 料理が美味しかっただけです!」
……なるほど! 確かに!
「……エラーナ嬢、ユーフラン相手じゃ苦労しそうだなぁ」
「は? どういう意味?」
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