料理(没特典SS)
「そういえばフランは料理が作れるのよね」
「そうだけど、今更なに?」
食事を作る。その手伝いをする。これは、俺にとってとても幸せな時間だ。
決して手が届かないと思っていた彼女の隣に立てる。
同じ空間にいて、時折会話をしながら二人で食べるものを準備するなんて……夢心地が続いていて今でも変な感じだ。
時々ラナは鼻歌を歌う。彼女の機嫌がいいのだと伝わる数少ない機会はご褒美だ。
その最中、そんな事を言われる。
「結構色々作れるのね、って。私が作れるメニューはほとんど作れるんだもの」
「え、でも半分くらいはラナが教えてくれたから作れるようになったんだよ」
「そ、そうね」
「?」
なぜ突然目が遠くなるのだろう?
機嫌が悪くなった……ようには見えないが……。
「なんでもすぐに作れるようになるから複雑だわ」
「え?」
「……しかもどんどん私より手際がよくなるんだもの……なんかこう焦ってくる……」
「へ?」
小声でぶつぶつ、表情は険しい。
あれぇ? さっきまでご機嫌だったのに。
「その上、私が作るより美味しいし……美味しいし!」
「……え、なんで怒るの」
「怒ってないわ! 悔しがっているのよ!」
と、おたまを突きつけてきた。
……く、悔しがる? なぜ?
「フランのご飯は最近ますます私の好みドンピシャになってきていて!」
あ、ああ、一応感想を聞いたり反応を観察したり、自己申告されたりしたのを覚えたりしたのでラナの好みに作れるようになってきていると思う。
は? それが不満という事? なんで? どういう事?
「下半身に余分なお肉がついてきた気がするのよ……!」
「え? でもそんなに食べてないだろう?」
「そんなわけないでしょう!? 明らかに毎食量が増えてるわよ! スープなんて特にそう! フランが美味しいものを作るから、私がついお代わりして二人で三食分の量を朝作っても、昼にはなくなって夜、新しいのを作り直してる!」
……言われてみれば……。
「でもスープくらい……」
「スープが美味しいと他の食も進むのよ!」
……そういうものですか?
「そうだわ! 節約よ!」
「節約」
「そうよ! このままでは瞬く間に食糧がなくなるわ! 町へ買いに行くのにもお金がかかるし」
でもラナのお父様……宰相様から生活費送るって手紙来てたし、別にいいんじゃ……。
「なによりこのままでは太ってしまう……!」
太っても可愛いと思うんだけどな……。
「そしてついでにダイエットも頑張る! コルセットから解放されてほんっとにヤバイし!」
想像してみた。…………うん、可愛いな。
「太ってても可愛いと思うよ?」
「シャーラップ! そんな慰めはいらないわ! というわけで減らすわよ、材料! あと、これからはフランの好みもちゃんと教えて! 私の好みで作ったら食べすぎるから!」
……ええ……なにその理屈……俺を喜ばせてどうするの……。
「分かった」
そのあとラナの好みに近い味付けが好みだと言ったらめちゃくちゃ怒られた。
なぜばれたのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます