いい夫婦の日SS

『いい夫婦の日』


 そうよ。

 そうなのよ。

 私の誕生日の翌週、11月22日……つまり今日はいい夫婦の日なのよ!

 ついにフランと恋人同士になったとはいえ、私とフランはそもそも『夫婦』から始まっている。

 ならばこの日はここぞとばかりに夫婦っぽい事をすべきではなくて!?

 ……でも夫婦っぽい事ってなに?

 考えを巡らせた結果、わたしの脳内に蘇った前世の記憶がコレというものを教えてくれる。

 果たしてこんなものが『夫婦っぽい』のだろうか?

 前世と今世を交えても、そもそも結婚そのものが初めてだ。

 正しい夫婦の形など分からないというのが、正直なところ……。

 けど、けど……私は、もう少しフランとイチャイチャしてみたい!

 ので、実行してみる事にしたわ。

 とても恥ずかしいけどね。

「こほん! えっと、クラナ、少しここを任せてもいいかしら? 私、自宅の方に戻って夕飯の準備をするわ」

「え? はい。分かりました」

 クラナたちは、新しく出来た児童施設に来週お引越し。

 その準備に入っていた。

 寂しいけれど、別に遠くに行って二度と会えない、という距離ではない。むしろ徒歩五分という驚きの御近所さん。

 子どもたちも自分の部屋を持てるし、うちの二部屋しかない子ども部屋に三人ずつ詰め込まれている現状を思えばよほどいい環境になるはずだ。

 フランは元より、ドゥルトーニルのおじ様やクーロウさん、レグルスも設計に携わり、子どもたちがいかに伸び伸びと成長してゆけるか、安全に生活出来るかを遅くまであーでもないこーでもないと熟考して作られたがあの施設。

 あの子たちだって、そんな気持ちのこもった施設をきっと気に入ってくれるだろう。

 そう確信めいたものを持ちながら、自宅のドアを開く。

 そして持っている中で一番可愛いエプロンを身につけた。

 準備は万端。

 さあ、いつでも帰ってらっしゃい! フラン!

 骨抜きにしてあげるわ! オーッホッホッホッホッホッ!

「ただいま」

 やはり来たわね!

 この時間帯、フランは一人先に自宅の方に帰ってきてお風呂の掃除をするものね!

 最近は温泉まで行って帰ってくる間に体が冷えてしまう気温になってきたから、自宅のお風呂を素早くみんなで使うようになっていたのよ。

 もちろん水の消費が早いので、ちょっと大変なのだけれど……まあうちは側に川もあるし……じゃなくて!

「あ、おおぉ帰りなさいフラン! ご飯にする? お風呂にする? そ、それとも……」

 ——私? ……と、聞く場面である。

 なのに、恥ずかしくて言葉が出ない。

 な、なんて恥ずかしいセリフなのだろう。前世の私はこんな恥ずかしいセリフを…………いや、使った記憶ないわ。どこで仕入れてきたのかしら?

「え? お風呂掃除にするけど」

 ……そしてフランは安定のフラン! それでこそのフラン!

 くっ、そうよね、普通にお風呂洗うっていうわよね!

「それにご飯には早すぎない?」

「…………うっ」

「どうしたの?」

 首を傾げて聞かれて、肩を落とす。

 仕方がない、白状しよう。

「実はね、私の前世で今日は『いい夫婦の日』というやつなのよ。11月22日で、まあ、数字の読み方を少しもじる感じで読んで……」

「いい夫婦の日? へー、そんなのがあるんだ? ……いい夫婦の日……んん? それでなんで今の質問になるの?」

 くっ、ごもっともな疑問!

「……えーと、まあ、その、つまり、い……『いい夫婦の日』だから、ちょっとだけ、いつもよりいい奥さんになろうかと……」

「はあ? ラナはいつもいい奥さんだろう? これ以上いい奥さんになられたら、俺はどんな旦那になればいいの」

「っ……」

 突っ込みたいところは山のようにあるセリフだけれど……。

「ああ、でも……なるほど……いい奥さんに感謝する日なのかな? いつもありがとう、ラナ。うちの可愛い奥さん」

「……………………こっっっっちらこそっっっ!」

 私の誕生日以降、うちのフランが私の致死量を軽く超えてきている気がする。





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