SSとか

ハッピーハロウィン



『収穫祭』を明日に控えたその日の夜、ラナはカボチャだらけの夕飯を作った。

 カボチャのスープ、カボチャのキッシュ、カボチャクリームのパン、カボチャのサラダ、カボチャのクッキー……。

 大きく実ったカボチャの上部を切り落として、子どもたちに中身をくり抜かせた。

 子どもたちはキャッキャと喜んで、なかなかに力が必要な仕事を楽しんでお手伝い。

 さらに使ったカボチャの皮をくり抜いて、目と鼻と口が出来る。

 その上くり抜かれたカボチャの中に蝋燭を立て、上部を蓋として元に戻すと——なんということでしょう……カボチャの顔が光ってる……。

「すごーい! すごーい!」

「かわいい〜!」

「かわいい〜」

「本当、すごく可愛いですね!」

「でしょう〜!」

 だがしかし女子ウケしまくっとる。

 こ、こんなことが……!

「えーと、これは?」

「カボチャランタンよ」

 名前があることに驚きだし、ドヤ顔で言うということは前世関係のものなのだろうけど……でかいカボチャも小さいカボチャも全部この形にした意味は?

「さ、それじゃあ次ね!」

「まだなにかするの?」

「なに言ってるの! ここからが本番よ!」

 嫌な予感はしないけどいい予感もしない。

 ラナは空いていた大きめなカボチャランタンなるものに、作って包装したクッキーを詰めていく。

 今日一日なにかしていたと思ったけど、これを作っていたのか。

 まあ、そこの謎は解けたけど、じゃあこれはなんだ? という話である。

「じゃあ説明するわね。『トリック、オア、トリート』と言うの! 意味は『お菓子くれなきゃイタズラするぞ!』よ!」

 ……想像の斜め上の厄介なイベントだった。

 え、なにそれ、ラナの前世の世界ってそんな恐ろしいイベントが横行していたの?

 いや、話には聞いていたけどさ? 想像以上にヤベェ場所なんだな。

「ハイ、質問です。ラナさん」

「はい、なんでしょう。ユーフランくん」

「なぜ突然そんなことを始めたのでしょうか?」

「私がやりたかったからです!」

「なるほど」

 お好きにどうぞ。……ではなく。

「まあ、最後まで説明を聞きなさいな。これは私の……じゃなくてほ、本で読んだ、そう、物語に書いてあったイベントなんだけどね! 10月の末は死んだ人がお化けになって帰ってくるの! お化けに子どもを攫われないよう、子どもたちにお化けの格好をさせて区別をつかなくさせ、お化けが家に訪ねてきたら『トリック・オア・トリート』と言って追い返すのよ」

 へー、と子どもたちから感心の声が上がる。

 要するにこの国で明日行われる『収穫祭』とは少し違って、死者を慰め、子どものお祭りとして楽しむもの、って感じ?

「だけどお化けの格好は間に合わなかったから、ちょっと趣向を変えて『かくれんぼ』しましょう」

「かくれんぼ?」

 クラナが首を傾げて聞き返す。

 ラナの提案としては、俺とラナとクラナがお菓子を持って家の中に隠れる。子どもたちは空のランタンを持って、俺たちを探す。

 そして俺たちを見つけたら『トリック・オア・トリート』と呪文を唱える。俺たちはその呪文を言われたらお菓子を差し出す。

 なるほど、面白そう。

「もちろんお菓子がなかったらイタズラよ!」

「「よっしゃーーー!」」

 などとはしゃぐやんちゃ坊主組、シータルとアル。

 残念ながらお菓子は全員分あるのだ。誰が好き好んで『イタズラ』を選ぶか。

「あら、シータルとアルは『イタズラ』したいの? お菓子なしになるわよ。にしし」

「「え!」」

 ……考えが及んでなかっただけか。

「それじゃあ私たちは隠れるから、みんなで100数えてね!」

「「「はーい!」」」

 と、お菓子を渡されて隠れる事になったわけだが……隠れるところで思いつくのって自分の部屋以外だと倉庫くらいなんだよなぁ。

 案の定、俺もラナもクラナも揃って二階に登ってきた。

 で、そこからどうする? と顔を見合わせる。

「私は倉庫に隠れるわ」

「じゃあ、わたしは店舗の二階に隠れます!」

「んー、じゃあ俺は部屋にいようかなー」

「フ、フラン……。あ、けど灯台下暗しで逆に分かりづらいかも?」

「でしょー?」

 そうなるかどうかは知らんけど。

 まあ、そんな感じで俺だけ自室に入った。

「……あ……」

 でも、倉庫の中は暗くて寒いんじゃないだろうか?

 クローゼットから上着を取って、ランプと共に差し入れしに行く。

「ラナ、これ使って」

「え⁉︎ ちょ、フラン! もうあの子たち来るわよ⁉︎」

「うん、まあ、だから……」

「みーっけたー!」

「「「トリック・オア・トリート!」」」

「「あ」」

 階段から押し寄せてきた子どもたち。

 俺とラナのお菓子は秒で消え去ったのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る