エピローグ


今回が最終話になります。下記に新作の告知がありますので、ぜひご覧ください!






ルソンのイスパニアの脅威を跳ね退けた後、俺はより一層日ノ本の国力強化に力を注いだ。


まず治水対策では既に信濃川の分水路計画は順調に進んでいるが、利根川や吉野川についても氾濫防止のため分水路を造ることとした。史実のように完全に流路を変えなかったのは、下流域の環境変化が大きすぎるというデメリットを考慮した結果だ。水不足に悩む四国や知多半島などでは、溜池やダムを建設して渇水対策を施すことにした。これらは公共工事として領民に報酬を支払って行ったので、景気対策にもなっている。


鉱山開発でも台湾の金瓜石鉱山や朝鮮の茂山鉱山だけでなく、四国の別子銅山や下野の足尾銅山、陸中の鉄鉱山の採掘も始まった。


農業関連では、越後など寒冷地で多くの穂を付けている稲を選んで交配し、寒冷地向けの品種改良に着手している。いずれは北海道でも稲作を可能にしたいものだ。全国の温泉地では温水熱を利用した果樹や野菜の温室栽培も始めている。温泉地は山間部がほとんどなので、稲作に向いてなくても商品作物を育てることで、領民たちが不自由なく生活できるようになるはずだと考えている。


また、漁業では牡蠣や海苔の養殖の他にも、北日本では鮭の養殖に着手したし、山間部のダム湖では鰻や鯉などの淡水魚の養殖も始めている。なお、志摩の真珠の養殖はまだ成功していないが、真珠の養殖法は秘伝とするつもりだ。


文化面では活版印刷の機械を製作し、小学校の教科書の製作や世論を誘導する道具として瓦版の発行も始めた。


軍事面では腕木通信やモールス信号、信号旗などにより情報通信体制を整備した。とは言っても現状ではルソンからの情報伝達に数ヶ月を要するのは如何ともし難い。




◇◇◇





恒和8年(1578年)5月。寺倉海軍改め、日ノ本海軍は新たに建造した南蛮船5隻を加え、25隻の南蛮船を保有する海軍となっていた。


既に、イスパニアはルソン失陥を察知し、東アジアに姿を現さなくなって久しい。しかし、今度はイスパニアの撤退を好機と捉えたマラッカのポルトガル艦隊8隻がマカオに進出してきたとの報告が届く。


狙いは間違いなく台湾だろう。俺は台湾州総督の北畠惟蹊とルソン州総督の大倉久秀に対して「マカオのポルトガル艦隊を先制攻撃し、マラッカまで制圧せよ」と命令した。


恒和9年(1579年)3月。ポルトガルとの戦いの結果報告が届いた。


マカオを奇襲した日ノ本海軍は、ポルトガル艦隊を壊滅させて5隻を鹵獲した後、明の領土であるマカオは占領せず、その勢いに乗ってマラッカに侵攻したという。


マラッカの要塞は海上を守る軍艦が皆無だったため、日ノ本海軍25隻による集中砲火を浴びて1日で壊滅したそうだ。これで太平洋への入口となるマラッカ海峡を押さえたことにより、当面は南蛮人の東アジア進出を阻止できるだろう。




◇◇◇





正吉郎が『大公』に就任してから10年間で、荒廃していた日ノ本は目覚ましい復興を遂げ、大きく変貌した。日本本土では戦が起こることはなく、等しく理想の統治を授かった万民はようやく平和の到来を実感した。


恒和11年(1581年)1月。正吉郎は初代『大公』の役目を終えた。


2代目の『大公』には上杉輝虎が選ばれる。既に52歳を迎えていたのが配慮された人選であった。ただし、正吉郎は輝虎の達ての希望により相談役として頻繁に大坂城を訪ねることとなる。


輝虎は『大公』就任と同時に、寺倉家から養子に迎えた峰珠丸改め、上杉弥三郎政虎に家督を譲り、政虎は本拠の黒川城で領地経営や北海道の開拓を任されることとなった。


恒和15年11月29日(1586年1月)には天正地震が発生した。北美濃から飛騨を震源とするM8ほどの大地震である。


史実では飛騨の帰雲城が山崩れに埋もれ、美濃の大垣城も全壊するが、正吉郎の指示により半月前には帰雲城や大垣城からは全員が避難したお陰で難を逃れることになり、正吉郎の"神の御使い"の評判は確固たるものとして全国に広まる。


輝虎の時代ではさらなる海軍力の強化に取り組み、太平洋の南北東に兵を送った。既にマラッカのポルトガル勢力を駆逐したことにより、日ノ本の脅威に震撼させられたヨーロッパ諸国は、当面はインドのゴアから東方への進出を見送らざるを得ない状況となった。


南方面はパプアニューギニア経由でオーストラリア、ニュージーランドに進出し、北方面は北海道から樺太、千島列島、アリューシャン列島経由で北米アラスカまで到達する。


東方面は寺倉諸島からマリアナ諸島経由でハワイ諸島を制圧し、さらには北米西海岸のカリフォルニアに進出した。


既にメキシコはイスパニアに征服されていたが、まだ入植される前のカリフォルニア以北の西海岸の領有を宣言すると、先住民のネイティブ・アメリカンとも極めて良好な関係を維持し、太平洋連邦の基礎を築き上げることとなる。


その一方で、明や朝鮮には一度として侵攻しなかった。理由は正吉郎が「中国大陸への介入は絶対に避けるべし」と進言したためである。これに従い、代々の『大公』は中国大陸への不介入を貫き通すこととなる。


恒和21年(1591年)1月。2代目『大公』の重責を務め終えた輝虎は、信濃川の分水路の完成により越後平野が穀倉地帯となるのを見届けてから安らかにこの世を去る。


その後の『大公』は、3代目(1591~1600)の織田信長、4代目(1601~1610)の蒲生忠秀、5代目(1611~1620)の竹中半兵衛、6代目(1621~1630)の浅井長政と、"六雄"全員が順番に務めた。


正吉郎は45才を迎えた時に嫡男の蔵秀丸改め、寺倉勘吉郎嘉蹊に家督を譲るが、その後も長政の任期が終わる87歳まで、相談役として精力的に『大公』を補佐し続けた。


そして、7代目『大公』に息子の嘉蹊が選ばれると、正吉郎は出家して寺倉璋繕(しょうぜん)を名乗り、統麟城で隠居生活を始めることとなった。




◇◇◇





江東州・統麟城。


桜の花が満開の季節。明媚な桜はあの「蓮華の誓い」と同様で、正吉郎の脳裏に刻まれた歴史を思い起こさせる。正吉郎は96歳を迎え、ついに最期の時を迎えようとしていた。


死の床で最愛の妻である市と息子の勘吉郎以外を人払いした正吉郎は、2人に他言無用と釘を刺しつつ、自分が400年後の未来から転生してきたという事実を明かして、遺言を授けた。


一、跡継ぎは女子であろうと庶子であろうと一切構わぬ。能力と人徳に優れた後継者を選ぶのが当主の務めと知れ。暗愚な当主は寺倉家だけでなく、日ノ本の舵取りをも誤らせる。毛利家の「三矢の教え」のように兄弟で助け合うなど御家騒動の元となる。血縁のある五公爵家や北畠家から養子を迎えようとも一向に構わぬ。


一、幼き頃から前世の記憶を頼りに有用な知識を認めてきた書物を家宝として託す。ただし、内容は寺倉家で独占するのではなく、必要とあらば『大公』に提供し、日ノ本のために活用すべし。私利私欲ではなく、日ノ本の利益を最優先にせよ。


一、以上の絶対遵守を寺倉家当主に命じる。


正吉郎が転生者であると知らされた市は、驚きながらもどこか納得しつつ、夫の安らかな最期を看取ると、1ヶ月後には後を追うように息を引き取った。




◇◇◇




正吉郎の死去の後も太平洋連邦では大きな戦乱もなく、平穏な時代は長く続いた。日ノ本は平和な国家体制を維持し、やがて独立した連邦諸国とも良好な関係を続け、太平洋連邦の盟主としての地位を堅持した。


後に、寺倉正吉郎蹊政は太平洋連邦の『神祖』という尊称を贈られ、紙幣や貨幣にも肖像が載るほど、国民の誰もが知る伝説の名君として敬愛されることとなる。


大坂の国立美術館では、正吉郎と市の仲睦まじい夫婦の姿が描かれた国宝の肖像画を見ることが出来る。国民の誰もが笑顔に溢れ、正吉郎の目指した「日ノ本の誰もが笑顔の絶えない世」が実現された証として、今もなおその象徴となって日本の民を見守っている。










最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。楽しんでいただけたでしょうか。


ここで新作の告知をさせていただきます。本作と同じく転生者が活躍する戦記である「八曜の旗印」という作品です。


URL: https://kakuyomu.jp/works/16816700426158884909


こちらからアクセスしてみてください。


内容としては加賀守護の嫡男に転生した主人公が、簒奪された守護権力を奪還し、加賀、そして天下を目指していく物語です。六芒星よりもテンポを早く意識しており、読みやすくなっていると思います。


現在たいあっぷというサイトでこの『八曜の旗印』をアップしており、コンテストに参加しております。こちらは一章の終わりまで既に公開済みとなっておりますので、是非併せてご覧ください。


(https://tieupnovels.com/tieups/1100)


イラストはハナモト様に描いていただきました。本当に素晴らしいイラストですので、イラストを見るだけでも構いませんのでぜひアクセスしてみてください。また、コンテストでは読者の皆様の『続きを買いたい』や『レビュー』が選考に直結するので、読んでみて面白い、続きが気になると感じていただけた方にはぜひ評価をして頂きたく思います。よろしくお願い致します。



他の新作もご紹介させていただきます。「銀鉱翠花のエクドール(以下略)」という作品で、ファミ通文庫大賞の中間選考通過作になります。


URL: https://kakuyomu.jp/works/1177354054896789637


この作品は他のコンテストに出すため削除しておりました。改稿を加えたのち、改題も行いリニューアルしており、十万字程度でキリよく収まっています。こちらはヒロインであるシャロンのイラストを間明田様に描いていただいており、素晴らしいイラストですのでぜひご覧ください。ついでに興味がございましたら本編も読んでいただけると幸いです。



最後に『昨日の恋を忘れても、君と未来を歩めるのなら』という作品になります。私自身初の青春恋愛作品で、たいあっぷにて公開しております。(https://tieupnovels.com/tieups/999)


イラストはりもこ様に担当して頂きました。こちらも素敵なイラストですので、ぜひご覧ください。よければ評価をして頂ければ、望外の喜びです。よろしくお願い致します。


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