天下泰平の幕開け③ 太平洋連邦への道

「軟弱な黄色い猿どもを皆殺しにせよ! 突撃ぃー!」


「「オオオォォー!!」」


イスパニア軍の意気旺盛な喊声が響き渡ると、それを合図として戦闘が始まった。


――ダダーン、ダダーン、ダダーン


しかし、指揮官の号令の下、イスパニア軍が城攻めに突撃すると、日ノ本軍1万の中でも射撃に優れた根来衆がイスパニア兵を百発百中で狙撃した。


――ドガーン、ドガーン


さらには城から打ち込まれた大鉄砲の砲撃により、イスパニア軍は木っ端微塵に吹き飛ばされていく。


「南蛮人どもは生かして帰さぬ!」


運良く生き残ったイスパニア兵も、城から打って出た精鋭の日ノ本兵によって殲滅されていく。


「猿どもが野戦砲を使うだと? しかも数が尋常でないぞ!」


「こっ、これは悪夢だ! 我らイスパニアが猿どもに負けるなど、あるはずがない!」


目の前に繰り広げられる信じられない光景に呆然とするイスパニア艦隊の司令官らは生け捕りにされ、1千のイスパニア軍は壊滅する憂き目に遭った。


一方、上陸したイスパニア軍が城攻めを始めようとした頃、陸戦兵を上陸させた後も湾内に停泊していたイスパニア艦隊の3隻に、寺倉海軍の南蛮船6隻が音もなく近づいた。


寺倉海軍の南蛮船がイスパニア艦隊の南蛮船に接舷すると同時に、日ノ本に服属した高山族の勇猛な戦士たちが果敢にイスパニア船へと飛び移っていく。


「「ヒャッハー!!」」


「「ギャアァー!!」」


高山族の戦士たちはまるで軽業師のように甲板上を駆け巡り、雄叫びを上げながらイスパニアの船員たちの首を刎ねていった。


わずか10分ほどで首狩りの風習がある高山族の戦士たちにより甲板は血の海となり、南蛮船3隻は鹵獲され、船長3人は捕虜となってしまう。


敬虔なカソリック信者だった司令官と船長の4人は、戒律のために自殺することも出来ず、過酷な拷問によりルソンや南米、さらにはイスパニア本国について知っている限りの情報を洗い浚い自白させられた末に息絶えた。




◇◇◇




10日後、ルソンの港にイスパニアの国旗を掲げたイスパニア艦隊の南蛮船3隻が帰還した。しかし、3隻を操船していたのはイスパニア人ではなかった。


帰還した南蛮船3隻が港に停泊していた南蛮船2隻に接舷すると、突如として日ノ本兵が襲い掛かり、南蛮船の船員を皆殺しにした。司令官の自白どおり2隻の船倉には南米から運ばれた大量の金銀が積まれており、まんまと強奪に成功する。


さらには、沖から寺倉海軍の南蛮船6隻が現れ、日ノ本兵1万がルソン上陸を果たした。5日後には日ノ本軍はルソンの町を制圧すると南のセブ島も占領し、イスパニア人を根切りにした。


かくして、イスパニア軍との決戦は余りにも呆気ない幕切れとなった。日ノ本はルソンを支配下に置くと、ルソンには台湾と同じく防衛用の城塞が築かれ、大倉久秀が守将として守ることとなった。


その後もルソン失陥を知らないイスパニアの南蛮船が南米から金銀を積んでルソンに到着する度に、南蛮船と金銀は鹵獲されることとなり、年末には寺倉海軍は計20隻もの南蛮船を有する東アジア最大の海軍となったのである。


一方、イスパニアは史実では1588年の「アルマダの海戦」で無敵艦隊がイギリス海軍に敗れるが、この世界ではイスパニア艦隊が東アジアで半減したため、イスパニアは「アルマダの海戦」を待たずして凋落の道を辿ることとなる。


しかし、日ノ本がルソンを制圧し、イスパニア勢力を叩き潰したことにより困ったのは明だった。イスパニアが南米から運んできた大量の銀が手に入らなくなり、明は国家財政に支障を来す事態に陥ったのだ。


そこで、朝貢国だった琉球に加えて台湾とルソンを奪った日ノ本を痛めつけようと、明は属国である李氏朝鮮に日本侵攻を命じる。「元寇」の時のように自ら大軍を率いて外征するには財力が乏しかったためであった。




◇◇◇




恒和4年(1574年)3月。李氏朝鮮が済州島に攻めてくる事件が起こった。


併合していた済州島を倭寇討伐を名目として勝手に奪われ、メンツを潰されて怒ったのだろう。史実の豊臣秀吉の「文禄・慶長の役」の逆パターンだな。


とはいえ、李氏朝鮮が済州島や対馬に攻めてくるのは想定内だ。済州島と対馬にはそれぞれ5千の陸軍兵力と南蛮船やジャンク船を中心とした海軍兵力を配置し、李氏朝鮮の侵攻を待ち構えていたのだ。


済州島の指揮官は『済州伯』の島津義弘だ。史実でも朝鮮軍から鬼島津と恐れられた男なので、心配は無用である。


義弘は済州島に上陸した朝鮮軍を完膚なきまでに叩き潰すと、撤退する朝鮮水軍の亀甲船艦隊を艦砲射撃で撃沈して圧勝し、史実では救国の英雄とされた李舜臣も戦死に追い込んだ。


さらには朝鮮半島南部の釜山や順天、木浦などの沿岸都市を艦砲射撃で壊滅させると、やがて李氏朝鮮から休戦交渉の使者が訪ねてきた。実際は"敗北"なのだが、メンツを保つために"休戦"と言っているにすぎない。


だが、自分から仕掛けておいて、不利になると慌てて態度を翻すのは奴らの常套手段だ。古代から漢民族に従属することで生き残ってきた朝鮮半島の人間にとって、日ノ本は島国の後進国であり、日本人は劣等民族と見下す存在である。故に対等な友好関係なんてあり得ないのは当然だ。


4月、俺は大宰府に赴くと休戦交渉に臨んだ。李氏朝鮮の使者は賠償として釜山など朝鮮南部の割譲を提示してきた。


正直に言えば、明と地続きとなる朝鮮半島など不要である。日本が古代より独立を守ってこられたのは島国だからだ。史実のように中国大陸に進出すれば、要らぬ戦乱に巻き込まれるのがオチで、要らぬ戦費を消費し、国力の低下に繋がるのは明白である。


だから今回の戦も艦砲射撃だけに留め、朝鮮半島への上陸は禁じたのだ。それに朝鮮南部の沿岸都市は艦砲射撃により壊滅している。沿岸都市を俺たちに復興させた後に再び奪おうという魂胆だろう。そんな見え透いた手に引っ掛かるものか。


仕掛けてきて負けたのは向こうなので、領地の割譲の代わりに大勢の朝鮮兵捕虜の身代金を含めた莫大な賠償金を要求した。ところが、使者は李氏朝鮮の財政は困窮しているため賠償金は僅かしか支払えないと主張する。


少しでも賠償金を値切ろうと、使者は朝鮮兵捕虜を奴隷として譲渡すると言うが、朝鮮人奴隷など受け入れたところで価値はない。仕方がないので、俺は朝鮮北部にある茂山鉱山の100年間の採掘権を獲得し、朝鮮兵捕虜を鉱山奴隷とすることにした。


茂山鉱山は東アジア屈指の埋蔵量を誇る鉄鉱山で露天掘りも可能だ。これで日ノ本の鉄不足も大きく改善できるだろう。


それと、対馬と済州島、竹島、鬱陵島を永久に日本の領土と認める朝鮮国王の玉璽入りの公式文書を受け取った。これで前世のような朝鮮との不毛な領有権問題も避けられるな。


史実では、李氏朝鮮は衰退しながらも19世紀まで存続する。しかし李氏朝鮮が滅ぶと、清が朝鮮半島まで進出して緩衝地帯が無くなり、「元寇」のように日本に侵攻してくる恐れが生じるため、李氏朝鮮には史実と同じ状況で、力ない貧国として存続してもらいたい。


一方、17世紀初頭には女真のヌルハチが台頭して満州に清が建国され、1644年には「李自成の乱」により明は滅亡するが、日ノ本がイスパニアの銀を奪ったことにより明の滅亡は史実よりも早まるかもしれないな。

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