第34話 会場での再会③
ああ疲れた、アイリスも重くなったな、ちょっと床に下ろそう。
ケイトリンさんが、アイリスと手を繋いでくれると言うので、少しの間、任せることにした。
ああ暑かった。子供の体温って、なんであんなに高いんだろ。ああ顔がかゆい。化粧がずれてしまうから掻けないけど、かゆい。
「ベラドンナ・レニーだ!」
誰かが叫んだ。とたんに、会場がシーンと静まる。もはや化け物扱いだな、ケルベロスたちだってここまで静かにならなかったぞ。
こんなに騒がれて、さぞ怒ってるだろうなと僕も目で探してみると、執事に開けてもらった扉から堂々と入場している彼女の姿があった。
わあ、青系統のグラデーションが絶妙なドレスだ、綺麗だな〜。繊細なレースが随所で揺れていて、魚のヒレみたいだ。モチーフは海かな? この人含めて、まるで芸術品だな。体の線にぴったり沿った作りだから、彼女の自信とスタイルの良さが際立っていて、なんだかこっちが照れてしまう。色も青色だから、まるで水面と遊ぶ人魚姫みたいだ。
って、こっちに来たぞ。招待状とアイリスの衣装のお礼を、したほうがいいだろうか。
「あーらあら、三人揃って仮装なんて、仲がよろしいこと。自前のドレスも買えないほど家畜の餌代がかさんでいるのかしら」
うわ、開幕ケルベロスたちを家畜呼ばわりしてきた。うーんと、なんて言い返そうかな……あーダメだ、寝不足じゃ頭が働かない。眠気覚ましにお茶が飲みたくなってきた。
「おねーちゃま、しゅっごいきれーい。おひめしゃまみたーい」
「きゃ〜ありがとう、アイリスちゃんも可愛いですわ〜! その服はわたくしがプレゼントしましたのよ、着てくれてよかった〜ん」
「おねーちゃまがくりぇたの!? ありがちょ〜」
二人してへらへらしながら手を振り合う。なんだ、この光景。
その後、彼女はケイトリンさんのドレスを嗤い、僕の見てくれと教養が比例するとは限らないとか、難しい嫌味を言ってきたけど、女性を褒めるときは、自信を持って、という妖精の言葉を思い出した僕は、明るく大きな声で、ケイトリンさんのドレスを褒めて反撃した。
センスを疑うと言い返されたけど、だって綺麗なモノは綺麗だもんな。何度だって褒めて反撃した。
あ、彼女の後ろに、涼しい顔したウェルクライム・ハイドが控えている。
こうして背筋を伸ばして静かに微笑んでいるだけで、下品さも粗暴さも隠せてしまうのだから、やっぱり人って見た目だけで判断しちゃいけないって思った。その後の付き合いで、本当はどんな人なのか、探っていかなくちゃいけないんだと学んだよ。
ことごとく僕に反撃されたベラドンナ・レニーが、苛立った様子で扇を広げた。
「わたくしはこれから、陛下へのご挨拶に参りますけれど、なにか陛下に
「え? 急にそんなこと言われても」
「特に無いんですのね。では失礼」
青い扇を広げて高笑いしながら、
ふう、疲れた……あ、そう言えば僕は彼女からダンスのお誘いを受けてたんだったな。この流れの後で踊るの? 気まずい。
ケイトリンさんも不機嫌そうに、うつむいてるし……あれ? もしかして、褒め過ぎてうっとうしいって思われたのかも。やっちゃったなー、どうしよう。
「どうしよう妖精、ケイトリンさんが怒っちゃった」
「あたしの
推しって? もう、何言ってんだよ。アイリスといい、妖精といい、僕の男友達と間違えるなよ。失礼過ぎるだろ。
「ぷんぷんな推しも可愛いけど、今は後回しよクラウス王子。あたしの知ってるゲームの展開ではね、舞踏会は最後の、つまり大詰めの章なの。この章で、今まで築き上げてきたフラグやステータス、身に付けてきたスキルと人脈が効いてくるのよ。なんの準備もしていないクラウス王子じゃ、ボロ負けしたあげくの殺されエンドね」
「え、ちょっと待ってよ妖精、ここが僕らの処刑場だって知ってておめかししてきたのか?」
「まさか。まだ救いはあるわ。この世界はね、あたしが知ってるゲームの通りに進んでいるわけじゃないみたいなの。あたしたちが歩んできた展開的に、最終章どころか、始まりの予感がするのよね……」
「相変わらずの妖精
「ええ、責任持って、よく考えて行動してね。ここでのあなたの行動が、きっとこの先を大きく左右するんだと思う。いいえ、あなただけじゃないわ、アイリスちゃんやあたしの運命も、あなた次第よ。どうかくれぐれも、感情に走った行動はしないでちょうだいね。何かするときは、あたしたちに相談して、よく考えてから決めなさいよね」
イテテ、妖精の説教喰らってたら、なんだか頭が痛くなってきたぞ。体も熱いし……これってあんまり寝てないからだよな、寝不足でこんな状態になったことがある。
「聞いてるの? クラウス王子!」
「あーもう、うるさいなー。お母さんかよ」
「まだ十九歳の独身よ」
困ったぞ、大事な日なのに、体調も心も優れないや。
悔しいけど、妖精の言うことも一理ある。無理はしないでおこう。
んー……。無理しないようにって決めても、僕の置かれてる立場じゃ、難しくないか? 今日ほど気合いを込めなきゃいけない日はないと思う。困ったなぁ。
なんて悩んでる間に、どこからか、良い匂いがただよってきた。立食パーティがあるんだったな、料理が運ばれてくる気配がする。よかった、何か食べたり飲んだりしていれば、頭痛も眠気も治るだろう、たぶん。
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