第3話 運命の旅路を、二人で
春と言えど、朝はまだ肌寒い。上着に腕を通して、
しばらくして、クマちゃんしか入ってないような感じのリュックを背負って、妹がルンルンしながら出てきたから、僕がもう一度屋敷に戻って旅の
屋敷の近隣の農地まで、妹を連れて歩いた。遠方に一台、朝に収穫したシュミット芋を王都まで運搬する荷馬車が停まっている。
「おはようございます」
農作業に
どういうわけか、背景の屋敷と僕らを不思議そうな顔して交互に凝視している。
その態度が、僕の目には意外なものに映った。
「あんたら、今どこから来たんだ? シュミット様の屋敷からか?」
「はい。僕の名前はクラウス・シュミットです。この土地を治めている騎士の家の跡継ぎで、こっちは妹のアイリス」
「おじしゃん、おはよーごらいましゅ!」
波打つ金色の髪を、三つ編みハーフアップにまとめたアイリスが、おじさんを満面の笑みで見上げた。
これには険しい顔したおじさんも「はーいおはよー、カワイイねお嬢ちゃん」と破顔する。しかし僕に視線を戻すときには、また眉間に三本しわが深々と刻まれていた。
「こりゃ大事件だ。シュミット様に、隠し子がいたなんてな」
「へえ? 隠されてないよ! お前な、無礼だぞ! 僕は正真正銘の、シュミット家の長男だ」
「んー、なんかややこしくなりそうだから、もう聞かねーよ。で、おれになんの用だ?」
「王都まで連れてってくれ。礼はする」
すると御者の男は、荷物の積み下ろしで皮が厚くなったのか、ごつごつした手のひらを、ずいと伸ばしてきた。
「前払いだ。こっちはあんたを信用しちゃいねーんだからな」
ぐぬぬ……仕方ない、渡すか。
僕は鞄の中に大事にしまっていた、赤い小箱を取り出すと、蓋を横にずらして開けた。
中には、真っ赤な石の付いた女性物のイヤリングがワンセット。そのうちの片方を、男の手に乗せようとしたら、手を引っ込められて驚いた。
「な、なんだよ、急に」
「それは、シュミット様の奥方様のイヤリングじゃねーか。貰えねーよ」
おじさんが決まりの悪そうな様子で、僕らから離れた。どこに行くのかと思えば、荷馬車の御者台(御者が馬を操る席)。
「乗んな。おれは下男じゃねーから、てめーらの世話は焼かねーぞ」
「お、おお……ありがとう」
どうしたんだ、急に手のひら変えて。母さんに会ったことがあるみたいだけど……なんか、話が聞きづらいな。あっちは背を向けて馬車に乗っちゃったし。
え? 乗りなって言われたけど、山積みの芋だらけで、足の踏み場がない。
「おじさん、座れそうな場所が無いんだけど」
「座席なら芋のとなりしか空いてねーな」
御者の男は振り向かずに、そう言った。つまり、芋を掻き分けて乗れと。ぬぬぬ、ほんっとに無礼なヤツだな。まあいいよ、こっちも用が終わったら、しばらく会うことは無いんだろうし、多少のくだけた態度は、大目にみてやるか。
父さんだって生きてたら、きっと寛大に笑い飛ばしていただろう。
「わかった、お願いするよ。アイリスも、がんばれるか? クッションいるか?」
「アイリシュ、クマちゃんをおしりに、しいちゃう」
リュックからクマちゃんの片足を掴んで、引っ張り出す妹。それを荷台にポイと放ると、
「これで、いちゃくないない!」
「ハハ、アイリスは賢いな」
僕は、どうしようかな、この鞄を下敷きにしたら、僕の体重だと中身の着替えがしわくちゃになっちゃうし…商品の芋に座るわけにもいかず、仕方なく荷台に腰を下ろした。絶対に腰が痛くなる予感が……適度に立ったりして、尻への衝撃を緩和させよう。
「よーっしゃ、出発だガキども。ウンコしたくなったら言えよ」
「お前その口の悪さなんとかならないのか!」
僕らは今日、こんな感じで旅に出た。
これが僕らの運命を、大きく左右する
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